主体性を伸ばす漢字指導法

1 はじめに

本記事は、公立小学校の教員をなさっている土居正博先生に漢字指導について2021年8月12日に取材した内容をまとめたものです。土居先生は、『1年生担任のための国語科指導法』『漢字指導法』などの著書を出版し、これまでの一律的な指導法とは異なる、児童ひとりひとりの学力に合わせた指導を伝授されています。本記事でもその指導法を紹介しているので、多くの方に読んでいただけると嬉しいです。

2 漢字指導の方法

指導の流れ

指導の流れは、全学年共通で
①漢字ドリルで読みの習得
②漢字ドリルでひと通り書きの練習
③書けない漢字を自分でチェックし、ノートに練習
④テスト
となっています。この方法なら全員に対して漢字を決められた数だけ習得させていくような従来の方法とは異なり、何周も同じ漢字に触れることができます。

①漢字ドリルで読みの習得
4〜5月の国語の授業の最初に毎回漢字ドリルの音読を取り入れて読みを習得させます。
②漢字ドリルでひと通り書きの練習
漢字ドリルを終わらせる期日を決めており、その日までに各自で進めることを宿題としています。漢字ドリルをきちんとやるだけでも読み書きはある程度はできるようになります。やる気のある児童は1日に5ページなど、自分のペースでどんどん進めていくことが可能です。
③書けない漢字を自分でチェックし、ノートに練習
漢字ノートはドリルを終えた後の学習として、小テストのための勉強に用いたり、漢字ドリルを俯瞰したときに書けない漢字を見つけて自分で練習するために用いたりしています。漢字が得意な児童にとって、ノートの上から下まで漢字を書くという一律の学習は無駄になってしまいます。また、受動的な児童の場合、書けないというのはテストを受けなければわからないので、児童が自分でテストをすることができるような方法を教えています。具体的には、英単語を赤シートで隠して覚えるように、漢字でも読み以外を隠して書いてみるというものです。
④テストをする
漢字の50問テストは、学期の終わりや年度の終わりに基本的に予告せずに行います。予告しなくてもできるようにするためには、普段からどのような指導をすればよいのかということを考えています。予告して練習させてできたとしてもそれは実力ではないと思っています。

3 大事にしていること

運用力を育てる

漢字を使えるようにするには語彙知識を増やすことが必要だと思っています。例えば、栄養の「養」という漢字を小テストの範囲として予告した場合、児童はその使い方だけを覚えてきてしまいます。そのような児童は、小テストで満点が取れていても、作文で平仮名ばかりを使用したり、50問テストでは満点を取れなかったりします。そのため、漢字練習のときに辞書を使わせたり、漢字テストのときに空欄を埋めるだけではなく、他の使い方が書けたらプラス1点というようにすることで児童の語彙知識を増やしています。

児童の取り組み姿勢を変える

児童が30人、40人いる中で1人の児童に対して全部を教えるというのは無理があります。また、漢字は膨大な量があるため、ひとりひとりに使い方を全て教えていたら時間が足りません。そうではなく、児童ひとりひとりが、漢字には様々な使い方があるから自分で調べながら覚えていかなければならないという意識づけができるように育てていくことが大切だと考えています。

児童自身が学習のペースを掴む

例えば教員から2文字指定されて練習するように言われている場合、漢字ドリルを全体的に見てみようとはならないと思います。しかし、期限を設定されてその期限までに1冊終わらせるように言われたら、ひと通り漢字ドリルに目を通して1日どのくらい進めればよいのかを自分で考え、自分のペースを掴むことができます。また、1冊の中でできない漢字を自分で見つけるというようにするとドリルを全体的に見ていかなければならないので、視野が広がります。

集団全体で向上させる

どんな指導をしても学習における習得の差は出てきてしまいます。今までの指導は、漢字が得意な児童の学習意欲を尊重せずに学級内での学力差を縮めようとしていました。しかし、その上限を解き放ち、やる気のある児童に意欲的に学ばせ、漢字ができるとかっこいい、漢字は楽しいという風潮をクラス全体で作ることで漢字が得意でない児童もそれに引っ張られていきます。計算の速さに関してもクラスの中で差が出てきてしまうのは当然のことです。しかし、天井を縮こめた中での差と天井を取っ払ったうえでの差は、一番下の児童を比較したときに全然違います。縮こまった中での一番下の児童は意欲がなくテストの点数も低いのですが、みんながやる気になっているクラスの一番下の児童はテストの点が高くなります。そのうえで、苦手な児童に対して教員がどうアプローチするかが重要だと思います。例えば一緒にペースを考える、一緒に練習する時間をとるなど、その児童がどこにつまずいているのかをみてフォローすることが重要だと思います。全体がよい方向に走っているからこそできていない児童がわかってくるのでフォローできると思います。

4 漢字指導をしている教員の方へのメッセージ

今までされていた方法にももちろんよさがあると思いますが、改善点もあると思うので積極的に改善していくとよいと思います。おそらく漢字指導に対して固定観念があって、よい意味でも悪い意味でも変わってきていないのが現状です。よいところは残しつつ、児童のためになっていないところは色々と工夫していくのがよいと思います。私の経験上、盛り上がりそうだと思ってやったことは、児童も楽しいと感じてくれて結果がついてくるので、教員がいかに楽しみながら工夫していくかが大切だと思います。

5 理想の児童像

漢字指導に限ったことではありませんが、自分から積極的に粘り強く取り組む子になってほしいです。漢字指導のやり方によっては、そのような側面も育てられるのではないかと思っています。例えば、算数の学習では単元によって学習の方法が異なりますが、漢字の学習は、主にやることは同じでやり方さえ分かれば自分で進めていくことができるという特徴があります。そのため児童には自分で積極的に進められる漢字の学習を通して自主性を養ってほしいです。

6 プロフィール

土居正博先生

1988年東京都八王子市生まれ。創価大学大学院教職研究科教職専攻修了後、神奈川県川崎市立公立小学校教諭。国語教育探究の会会員。全国国語授業研究会監事。全国大学国語教育学会会員。国語科学習デザイン学会会員。教育サークル「KYOSO’s」代表。季刊誌「教師のチカラ」(日本標準)編集委員。(2021年10月現在)

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9 編集後記

漢字が得意な児童に積極的に学ばせることは、習得の差の拡大につながってしまうと思いましたが、そうではなく、集団全体をよい方向に持っていくことで結果的に全員にとってプラスになるということにとても驚きました。また、どの児童にも一律的にノートに練習させるのではなく、目的意識を持ち、ドリルとノートの特徴を活かして使い分けていくことの重要性を改めて認識することができました。ひとりひとりに合わせた土居先生の漢字指導法が1人でも多くの教員の方に広まり、実践されることを願います。(編集・文責:EDUPEDIA編集部 櫻井・米山)

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