「補習」落ちこぼしをどうするか

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目次

1 レディネスが成立していないと落ちこぼしてしまう

「プロ教師であれば補習を前提にした授業をするのはおかしい。授業の中に復習や習熟練習を盛り込み、時間内でしっかり子供に力をつけられるようにするべきだ。」という考え方があます。これは正論であり、立派な考え方です。
教師は「授業で勝負」を、肝に銘じていないといけません。
しかし、どの教師もそれほど立派な授業ができているわけではないし、不登校などによる長期欠席・学級崩壊による学力不振・学習障害など、今の学校では教師が頑張ってもカバーしきれない部分もあり、「落ちこぼし(※)」を出してしまっているのが現状でしょう。

具体的に短時間での対策については

少ない時間で的確な補習を~「補習」落ちこぼしをどうするか(2)

学力保障 ~学校の荒れを防ぐための最優先事項

等で、記述してますので、是非そちらもご覧ください。

九九を暗記するには、子供の発達上・環境上の条件が整っていることが必要です。辛抱強さや暗記力などの発達上の能力があるレベルに達していることが必須条件になります。この学習を習得する条件となる能力や資質をレディネスと呼びます。これに加えて教師の力量や家庭の手助けのあるなしなどの環境も影響してきます。 日本のカリキュラムはかなり緻密な積み上げ型でできており、レディネスが成立していることが前提で授業が進められます。3年生で2ケタのかけ算を学習する時には、九九が暗記できているだけの能力が必要とされます。 そうなると、九九暗記時にレディネスが十分でなかった場合には、2ケタのかけ算に必要な九九暗記済みというレディネスが成立しなくなります。これが躓きの連鎖となっていき、桁数の大きいわり算などになると、ますます九九暗記というレディネスが十分でない子供は落ちこぼれていくばかりです。 3年生の漢字が十分に習得できていない子供には、5年生の社会の教科書などは、幹事の部分が黒抜きあるいは穴空きの教科書を使っているに等しくなります。

「落ちこぼし」が発生してしまうのは、レディネスを整えないまま、次々と学習をせざるを得ない日本の教育システムのまずさが大きな原因です。


※「落ちこぼれ」という言い方もあるとは思いますが、教師側から言う場合は「落ちこぼし」にするべきだと思います。学校・教師だけの責任ではない部分もあるかもしれないにしても、自戒を込めてこう呼びたいです。

2 行き当たりばったりの補習では追いつかない

「落ちこぼし」を出さないようにするには、一人一人のレディネスに合わせた補習をしてあげるのが効果的です。
5年生の「小数のわり算」で躓いている場合、九九の暗記ができていないのか、ひき算が苦手なのか、筆算の書き方が悪いのか、どのレディネスが整っていないのかは一人一人、みんな違っています。個別の躓きがあるのです。(「小数のわり算」での躓きの分析を参照)

特に、学級崩壊や前の担任の指導力不足によって大量の落ちこぼしが発生している状況では、個別の躓きへの対応に教師が一人で対応するのはたいへんです。

複雑にレディネスが整っていない場合、本人は勿論、教師も途方に暮れてしまいます。行き当たりばったりの補習をしてみても効果は薄く、現在の学年の課題をクリアできるようになるために何をすればいいのかがなかなか見えてこなくて、時間ばかりがかかってしまいます。実際、行き当たりばったりでやってしまっている教師は多いと思います。

3 補習の負のイメージを払拭する

そんな状態で、ただ居残りをさせたり、特別に宿題を与えてみたりしても、子供にとっては単なる嫌がらせ、あるいは罰則のように映ってしまっているかもしれません。

落ちこぼしてしまった子供を確実に伸ばす手法を持っていないと、補習には負のイメージがこびりついてしまいます。補習は「カッコ悪くてしんどい」だけのものとなり、落ちこぼした子供をさらに劣等感を持たせて痛めつけてしまう結果にもなりかねません。

教師だって高校や大学では、微積分や古文・英作文・量子力学などで躓いた経験がある人は多いと思います。わからないテキストでわからないことを延々とやる辛さや虚しさを思い出してください。

ですから、子供の個別の躓きに確実に対応することができる手法を見つける必要があります。確実に成長するのであれば、例えカッコ悪くてしんどくても、子供たちはついてきます。

「ちょっと頑張ればできる」ことを確実に与えて、「頑張ったら成長する」ことを理解させ、「できたこと」を共感的に喜ぶ。

これができれば、子供の中にある「補習の負のイメージ」も消えていくし、子供と教師の間の信頼関係もぐっと増してきます。

実際に補習がうまくいっていれば、「今日は居残りね」と、声をかけたときは「えーっ、またぁ!」と言いながらも、きちんと伸ばす手法を持ってやっていれば、嬉々として勉強をしている様子が伺えます。

4 個別の躓きに対応する手法

考えてみれば、2年生の時に発達の上レディネスが十分でなくてひき算の筆算を習得しづらかった子供でも、5年生になれば3年生のレベルを習得する発達上のレディネスが整っているというケースはたくさんあるはずです。

親や子供や前の担任のせいにしないで(実際はそうであっても)、子供の立場に立って、あきらめずに根気よくフォローをしてあげるようにしてあげてください。

要点は、3つです。

  • 躓きをリサーチする
  • 効果的な教材を準備する
  • 時間的・人的リソースを確保する

5 躓きをリサーチする

どこまで遡ってレディネスを整えていけばいいのかを探ることがどれだけできるか。 全ての躓きに対応することは無理だと思った方がいいでしょう。その子供にとって、今の状態で何をやらすことが最も実力を伸ばし、自信を回復させることができるのかをリサーチしましょう。

5年生になったのだから九九ぐらいは覚えるだろうと思っていても、「学習障害の域」である場合は5年生でも無理なことがあります。
漢字も読みの学習なら、5年生レベルができても、書き取りの学習は3年生レベルも難しいというケースもあります。
逆に一律に同じ教材を与えてしまった場合、ある子供にとっては簡単過ぎる場合もあります。簡単過ぎる課題を強制することも、やる気をなくす原因の一つです。 その子供にとって「ちょっと頑張ればできる」ことを確実に探してあげる必要があります。
そのためには、きちんと系統だった教材が必要ですし、データをとって、その教材がどこまで進んでいるかを把握する必要があります。

6 効果的な教材を準備する

そこで、効果的な教材が欲しい所です。短期間で力がつきやすく、成長が実感できる教材があるといいのですが、これが、なかなか難しいです。
あまり量が多いと、追いつくのにたいへんです。もともと落ちこぼれた気分になっている子供に難しい教材をさせるのもやる気を失わせてしまいます。落ちこぼれている子供にとってはスモールステップになっている教材が必要です。ところが、スモールステップになっている教材を幅の広い学力不振に対応して準備するのはたいへんな労力がいります。

下の教材は、お勧めです。短時間の学習で短期間での伸びが期待できます。このような教材を探し出してきて、どんどん活用していけばいいと思います。

  • 繰り返し漢字テスト・・・・・1枚5分もあればできるスモールステップと繰り返しが組み込まれたテスト。

躓きの指導用に大人も子供も負荷が少なくて練習できる、筆算プリントを作成しました↓。ダウンロードして使ってみて下さい。

【教材】2年生~5年生を網羅した筆算プリントC.zip

7 時間的・人的リソースを確保する

教材を準備するにしても、それぞれの教師がそれぞれの子供に応じた教材を探し、プリントを印刷していては、たいへんな労力が必要となります。放課後に子供を残したいと思っても、現場は多忙化が進んでおり、1週間で残せる日は2・3日程度であるような状況ではないでしょうか。
それに、若い教師にはどうやって補習を進めるのがいいかがわかっていません。ピントがずれた補習をやっても、子供が苦しむ時間を増やすだけです。

落ちこぼし問題は個々の教師の問題とせず、学校全体の問題としてとらえ、学校全体で対処に当たっていくべきであると思います。誰か(親や子供や実力のない教師)の責任にして落ちこぼしを放置してしまえば、結局痛い目に合うのは力の弱い子供たちです。

学校全体で組織だって補習を行うことによって、より多くの補習の時間が確保できるようになると思います。

また、個々の子供の学力の状態を教師たちが共有することができます。単年度で個々の子供の状況や補習の成果を見るのではなく、6年間を通して評価を蓄積し、データを引き継いで追跡していけば、落ちこぼしはぐっと減ってくると思います。
例えば九九の暗記の習得状況を把握しているのは2年生担任だけで、3年生以上の学年が九九の暗記の習得に関して責任を感じてなんとかしようという視点に立つことは、現状では難しいでしょう。

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落ちこぼしに対処するのは学校全体の責任であるという考えに立って、効果的な補習を行うことができる体制を整えてください。「落ちこぼれた子供に付き合った」という教師の自己満足に終わるのではなく、実質的な子供の成長の喜びを子供と教師が共有できる補習体制を作り上げていくことが必要です。

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