「グローバル化時代の日本の教育」鼎談:第2回 学校制度と現場( 隂山英男×小林りん×直山木綿子)

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作成者:Mai Yamashita (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

文部科学省の「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」による改革推進が今年度から始まるなど、教育分野でもグローバル化は避けられない問題となっています。この問題を受けて、2014年東京大学五月祭・教育フォーラムでは、『「グローバル化時代」の日本の教育』をテーマにシンポジウムを行いました。

本鼎談は本シンポジウムの深掘りとして、小学館「教育技術」誌の協力のもと、インターナショナルスクール代表理事としてグローバル化する日本の教育を具体化する小林氏、文部科学省教科調査官としてグローバル教育の基礎づくりに携わる直山氏、そして双方を展望できる中央教育審議会委員としての位置に立つ陰山氏の御三方をお招きして熱く議論を交わしていただきました。

※本文内での情報は、鼎談当日の2014年9月10日時点のものです

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…第一回では、国際化する社会の中で、子どもたちの能力をどのように伸ばすべきかを英語を軸にお話しいたただき、学校の英語教育はどうあるべきか意見を伺っています。

【第3回 進化する学校とあるべき親の姿】
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【第4回 グローバル化時代の教育の明日】
…インターナショナルスクールの広がりはどこまで行くのか、そしてこれからの教育はどこへ向かうのか、御三方それぞれの視点から見ていきます。

2 学校現場と制度

行政と学校を隔てるもの

陰山:話は変わりますが、ISAKは学校教育法上でいうとどういった位置づけになるのでしょうか。

小林:一条校(※注1)ですね。

陰山:一条校となると、日本の学習指導要領を意識したものでなければなりませんし、教職員の免許制度との関係もあると思うのですが、このあたりはどのようにクリアされたのでしょうか。

小林:1点目の学習指導要領については、文科省の指定による「教育課程特例校制度」があります。文科省と十分な打ち合わせをした上で、全ての教科を英語で行うという了承を得て、特例校に指定された次第です。国際バカロレア(※注2)と指導要領の擦り合わせについては、私達だけでなく、立命館宇治など例がありますように、充分に可能なものです。2点目の教職免許法についてですが、4つのルートがあります。1つ目は、日本人で教員免許をもっている方に勤務してもらうルートです。そしてその他3つは外国人の方向けのルートです。ひとつは、海外で一定の教員資格をもっていれば、日本の教員免許に置き換えられるという制度があります。2つ目は「臨時免許」というもので、3年限定で都道府県の教育委員会から許可をもらうというものもあります。3つ目が「特別免許」というもので、これは都道府県内であれば、学校問わずに正教諭として教えられるというものです。私たちの学校では、1つ目の海外の免許の書き換えか、3つ目の10年有効の特別免許を持った先生で構成されています。

陰山:今のお話を聞いていると、文科省も柔軟だという印象を受けるのですが、直山さんはいかがでしょうか。本当に柔軟なのですか。

直山:はい。小林さんの仰った、外国人の方向けの3つのルート、中でも3つ目の特別免許に関しては各都道府県に通達は出していました。ですが、あまり各教育委員会でご活用いただいていない、ということがよくありました。免許を出す制度が各教育委員会内で整備されていないということもありました。ですが今回、小学校の外国語教育をもっと充実させようという動きの中で、やはり教科として英語を教えるには先生方にかなりの専門性が必要とされます。一方、今いる先生に急に「英語の専門性を身につけてください」というのは厳しい話ですので、英語の堪能な方に特別免許を取得してもらい教壇に立っていただこう、ということは考えています。その関係もあり、特別免許に関する周知徹底は現在行っているところです。

陰山:日本の教育界はピラミッド構造になっていて、非常に閉鎖的だと言われますが、実際に教育委員会に入ってみると、そこで閉鎖させている部分が多々あると思います。ですから、文科省の方とお話をして、ある部分の解放を訴えると、実は既に解放してあるということがありがっかりします。実際は教育委員会が様々な例外に対処しなければならないことに加え、そもそも多くのタスクを処理できる組織ではないために、全部文科省が悪い、という風潮になってしまうのかもしれません。文部行政は、実は一番地方分権が進んでいる分野であると思います。

小林:そうですね。私どもの場合も、長野県庁私学課長野県教育委員会のお力添えがあったというのが、開校の大きな要因だったと思います。

陰山:確かにその通りでしょう。例えば、大阪で同じような学校を作るとなれば、管轄する学校が多い中でさらに特殊な学校が出てくることになります。また、管轄数が多い割には大きい組織ではないので、言っては悪いですが、困るだろうと思います。私は解放していく立場の人間ではあるのですが、実際に現場を見るとなかなか大変だと思います。

公立も私立も「学校は地域のもの」

陰山:もう一点伺いたいのですが、ISAKは私立学校ということになるのですか。

小林:そうです。

陰山:つまり、政府などから補助金が出る中で、家庭の負担は比較的少なくなっているのでしょうか。

小林:私学助成金は確かにいただいております。かといって家庭の負担が凄く少ないかと言うとそうとは言えません。正確には、経済的にご負担いただける方に関しては、少ないとは言えません。全額自費負担の家庭からは年間250万円の授業料を頂いています。というのも、私達の場合は先生方が全員海外からいらしていますし、1クラスは15人程度という少人数教育ですので、単純に計算して人件費は通常の2倍かかります。学校経営にかかる経費は人件費がほとんどですので、先生方を海外から招聘し、家族も含めた全員に寮に住んでもらい面倒を見る以上、大変コストがかかります。ただ、私どもの場合は、当初より、インターナショナルスクール=(学費が)高い=富裕層のためのもの、というイメージを取り払いたいという思いがありまして、元々は2割から3割の方に奨学金を出したいと考えていました。今年の第一期生のうち56%には家庭の経済状況に応じて奨学金を出しています。これは私学助成金を奨学金に当てているのではなく、私どもが色んな方々に援助を募った他、軽井沢町からのご好意でふるさと納税の一部をISAKの運営資金に回していただいたおかげです。

陰山:ふるさと納税のお話は初耳でした。そういった点に小林さんや長野県の本気を感じます。それほどに社会の期待も大きいということだと思いますが、いかがでしょうか。

小林:軽井沢町からは本当に学校を支援していただいています。よく「なぜ軽井沢町に学校をつくることを決めたのですか?」と聞かれますが、希望する条件が3つありました。1つ目は自然の中でやりたかったということ。2つ目はインターナショナルスクールなので国際的な空港からある程度のアクセスの良さがあること。3つ目にいずれアジアの名門校と比較されることを想定して、例えば雪、美しい山や水などの日本にしかないものをアピールポイントにしたいというのがありました。初めは、北側の新幹線沿いを探していましたが、最終的に軽井沢町に決めた要因は「人」です。全寮制なので、学校を出るとコミュニティの方々が親代わりになります。ですので、地域の方達に、「この学校がここにきて良かった、一緒に子ども達を育てたい」と思ってもらえなければ学校は成功しないと考えていました。そんな中、色々な自治体とお話をしていたんですが、軽井沢町は私たちのプロジェクトがまだ海のものとも山のものとも知れないうちから、支援者の輪があり、それがどんどん広まってきたのです。それが軽井沢町にISAKを設立することを決めた理由でした。そのことがふるさと納税という形にも現れているんだと思います。

陰山:地域との繫がりという点では公立学校が思い浮かびますが、私学も全く同じように、学校は地域のものですよね。

小林:本当にそうですね。

陰山:確かに特殊なニーズや制度、資金源で成り立っていますが、目指す教育そのものは極めて一般的かつ普遍的で、公共的なものであると言えると思います。文科省としてはISAKのような特殊な学校が増えることについて、どうお考えなのでしょうか。

直山:難しいところですが、私立と公立が対立するというのは大変まずいことです。地域の子どもはどちらに通うにせよ、地域の子どもであることに変わりはありません。行政はそのことをきちんと見極めなければなりません。例えば、私が地方行政に携わっていたときに、その地域には私学もインターナショナルスクールもありましたが、教育委員会としては「この子は公立に来ないのか!」といった意識がどうしても働いてしまいます。あるいは大学の附属学校などとどうしても距離を置いてしまいます。実にナンセンスだと思います。まさにその多様性を認めることができない点がグローバル化と相反します。私立は公立と条件が違うのは事実です。ですが、条件が違うから(認めることが)できないというのは非常にまずいです。条件が違うけれど、お互いに学ぶ点はあるはずです。きっと小林さんの学校も公立に学ぶ点はあるはずですし、当然公立が学ぶ点もあるので、どっちが良い悪いという話ではなく、お互いに歩み寄る必要があると思います。

「教育の選択肢を増やしたい」

陰山:私立の役割ということは私も考えております。また、学費の問題が表に出てきて、行きたいけど行けない、行かせてあげられないという問題があるのも事実です。そんな中、ISAKは多くの方に奨学金を提供できており、これからの社会の在り方のようなある種の哲学を感じます。ISAKを通じて、小林さんは日本の教育にどのようなメッセージを伝えたいと考えていますか。

小林:一つ遡ったところからお答えさせていただくと、ISAKのような学校が広まっていくべきかというと、私は違うと思います。私たちが考えているのは、選択肢が増えるようになればよいということです。ISAKに関しては、「一条校の範囲でこのような学校ができるとは思ってもみなかった」とよく言われます。そういった学校ができることによって、文科省の行政というのは、実は驚くべき柔軟性をもっていて、やろうと思えば一条校の枠組みの中で色々なことができるんだ、ということがメッセージとして伝わればと考えています。ですから、ISAKのような学校が広まるかどうか、というよりは、こんな学校でも一条校になれるんだ、という可能性や選択肢を示すことが大切なのではないでしょうか。十人十色という言葉がありますが、お子さんはもの凄く色々な個性を持っています。ですので、個性に合わせた色々な学校があって然るべきだと思います。私学の存在意義はそこにあると思っていて、公と私が対立してはいけませんが、やはり立場は違うわけです。公的教育は、たくさんの方々に「こういった教育を受けてください」というものを提示する必要があります。私立は公立とは別の教育を受けたい場合、例えば発達障害などの個性に応じた指導や、私たちのようなグローバル化といった、公立ではできないことをやることに意義があると思います。各学校がそれぞれ特色をもっていなければ、私学の意味はありません。ですので、単なる対立軸で捉えるのではなく、お子さん達の多様な個性や保護者の世界観に合わせて教育の選択肢が増えることこそが大切だと思います。

※注1:一条校とは、学校教育法の第1条に掲げられている教育施設の種類およびその教育施設のことである。幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学(短期大学および大学院を含む)および高等専門学校とされている。(Wikipediaより引用)

※注2:国際バカロレアとは、インターナショナルスクールの卒業生に国際的に認められる大学入学資格を与え、大学進学へのルートを確保するとともに、学生の柔軟な知性の育成と、国際理解教育の促進に資することを目的として1968年に発足した国際バカロレア機構、およびその機構の提供する教育プログラム・修了証明書のことを指す。(文部科学省ホームページおよびWikipediaを参照)

3 掲載について

本企画は小学館「小三教育技術」と連動し、鼎談内容は「小三教育技術」1月号(12月15日発売)にも掲載されます。

第1回はこちら→【第1回 外国語を学ぶ、使う】

第3回以降は、EDUPEDIAの特設ページにて順次公開いたします。[鼎談 隂山英男×小林りん×直山木綿子]特設ページ

【第3回 進化する学校とあるべき親の姿】は、12/29に公開予定です。

4 鼎談者プロフィール

隂山英男

立命館大学教授(立命館小学校副校長  兼任)

大阪 府教育委員会委員長

1958年兵庫県生まれ。反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し脚光を浴びる。

2003年4月、尾道市立土堂小学校校長に就任。百ます計算や漢字練習の反復学習を続け、基礎学力の 向上に取り組む一方、新旧を問わず積極的に導入する教育法によって子どもたちの学力向上を実現。

現在は、立命館大学 教育開発推進機構 教授(立命館小学校校長顧問 兼任)。他に、文部科学省・中央教育審議会 教育課程部会委員。

NPO法人日本教育再興連盟 代表理事

陰山ラボホームページ

小林りん

International School of Asia Karuizawa(ISAK) 代表理事。

学校法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢 代表理事

経団連からの全額奨学金をうけて、カナダの全寮制インターナショナルスクールに留学した経験を持つ。その原体験から、大学では開発経済を学び、前職では国連児童基金(UNICEF)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在、ストリートチルドレンの非公式教育に携わる。圧倒的な社会の格差を目の当りにし、リーダーシップ教育の必要性を痛感。学校を設立するため、2008年8月に帰国。

1993年国際バカロレアディプロマ資格取得、1998年東大経済学部卒、2005年スタンフォード大教育学部修士課程修了。内閣官房主催『教育再生実行会議』グローバル/イノベーション人財ワーキンググループメンバー。世界経済フォーラムYoung Global Leader 2012。日経BPチェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー2013受賞。日経WOMANウーマン・オブ・ザ・イヤー2014大賞受賞。

ISAKホームページ

直山木綿子

文部科学省初等中等教育局 教育課程課 国際教育課 教科調査官

京都市の中学校で英語科教諭を務めた後、京都市教育委員会指導主事として小学校外国語活動のカリキュラム開発に携わる。2009年4月より現職。以来、『英語ノート』『Hi, friends!』の開発や活用をはじめ、全国各地での研修や講演など、日本の英語教育の充実と推進に日々奔走する。

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