「グローバル化時代の日本の教育」鼎談:第4回 グローバル化時代の教育の明日 (陰山英男×小林りん×直山木綿子)

GOOD!
3993
回閲覧
33
GOOD

作成者:Mai Yamashita (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

文部科学省の「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」による改革推進が今年度から始まるなど、教育分野でもグローバル化は避けられない問題となっています。この問題を受けて、2014年東京大学五月祭・教育フォーラムでは、『「グローバル化時代」の日本の教育』をテーマにシンポジウムを行いました。

本鼎談は本シンポジウムの深掘りとして、小学館「教育技術」誌の協力のもと、インターナショナルスクール代表理事としてグローバル化する日本の教育を具体化する小林氏、文部科学省教科調査官としてグローバル教育の基礎づくりに携わる直山氏、そして双方を展望できる中央教育審議会委員としての位置に立つ陰山氏の御三方をお招きして熱く議論を交わしていただきました。

※本文内での情報は、鼎談当日の2014年9月10日時点のものです

関連記事

【イベントレポート】東京大学五月祭・教育フォーラム「『グローバル化時代』」の日本の教育」
…隂山英男氏、小林りん氏が登壇された、本対談と同テーマのフォーラムです。

【第1回 外国語を学ぶ、使う】
…国際化する社会の中で、子どもたちの能力をどのように伸ばすべきかを英語を軸にお話しいたただき、学校の英語教育はどうあるべきか意見を伺っています。

【第2回 学校現場と制度】
…教育行政に潜む問題と、地域の協力をもって公立と私立がいかに共存し、子どもたちの未来を拓き得るかをあきらかにしています。

【第3回 進化する学校とあるべき親の姿】
…ISAKに続いて学校に広がるグローバル化の波、その中で子どもと教師だけでなく、保護者の向かうべき姿勢を示しています。

2 グローバル化時代の教育の明日

小学校のインターナショナルスクール化について

隂山:もうひとつお伺いしたいのですが、実は今、私も立命館小学校にいてですね、子どもたちの受験なんか担当してみると、急速にインターナショナル幼稚園が広がってきていると感じます。例えば、子どもたちを面接するときに僕が意地悪で、突然英語で質問すると、表情まで外国人風になって英語で答えてくれる子がいるんです。びっくりしました。そして中等教育までそれが広がってきている中で、小学校が取り残されるのではないかという懸念があります。小学校のインターナショナルスクール化ということについて、何かお考えは有りますか。

(しばらくの間)

隂山:ちょっと意表をついた感じになりましたでしょうか。

小林:いえ、少し難しい問題だと思いました。個人の見解としては、やはりアイデンティティがすごく大事だと思っています。言語だけの問題というよりは、アイデンティティだと思います。たとえば、海外に行って、私がどんなにペラペラ英語を話したとしても、やはりわたしは見た目も日本人で国籍も両親も日本人ですから、日本のことについて問われたときに、答えられなくてはいけないとわたしは思うのです。そうすると、やはり日本の文学に触れ、日本の文化に触れ、日本の歴史を知り、日本のいろんな問題をきちんと理解をして語れるということが、日本人として生きていくのであれば、すごく大事なのではないかと個人的には思っています。こうした考えに基づき、自分の子ども達は今は公立の保育園に通い、公立の小学校に進学を予定しています。本人たちがインターナショナルスクールを目指すというのであれば、勝手に受けてくださいというスタンスで教育していますし、英語も自分がやりたいというまではやらないというスタンスです。

隂山:なるほど、正直に言って意外な答えが返ってきました。逆に文科省のほうが、巷では高学年で3時間英語をやりますということが伝わってきていますが、その点についてはどうお考えですか。

小林:英語の時間を増やすことは大事だと思います。かつ、いわゆる今の英語教育というものが、進化を遂げていくということは大事だと思います。けれど、いわゆる小学校のインターナショナルスクール化というのが、小学校から全科目を英語でやることを意味するのであれば、私はイマ−ジョン教育くらいがいいのではと思っています。

隂山:私自身は小学校のインターナショナルスクール化というのはアリと言いますか、射程距離内にあるというふうに思っております。

外国語活動から、教科としての外国語へ

陰山:ところで、小学校での英語教育のバージョンアップ、進化が必要だといわれているわけですが、文科省のほうとしては、小学校英語に対するスタンスはどのようなものなのですか。

直山:ご存知のとおり、いま文部科学省は、高学年で週三コマ程度、活動型ではなくて、体系的に学習していく教科とし、いま5、6年生でやっている外国語活動を3年生に導入するという計画をたてています。もちろん決定ではないのですが、先生方は突然、この案が出てきたようなイメージをおもちかもしれません。この案はいま5、6年で実施している外国語活動の成果と課題を踏まえてのものです。現在は、5、6年生で週1コマ外国語活動を実施しています。コミュニケーション能力の素地を育成することを目標としています。しかし、6年生の後半ぐらいになると、抽象思考がより発達してくるといわれている彼らは、外国語活動は何をやっているのかわからない、「この週1コマは、楽しいけれども、じゃあ僕たち二年間やってなんの力がついたんだっけ」っていうことが自分たちで明確にならないことに、高学年の子たちはイラ立ちを覚えてきてしまいます。こうしたこともあり、英語の学習がいやだなと感じている子たちが4分の1くらい出てきているわけです。そこで、態度面はもちろん大事にしつつも、もう少し子どもたちが体系的に学習を積んでいくことで、どのような力が付いたのかをじかくできるようにすることのほうが彼らの知的好奇心をよりくすぐるだろうと考えたわけです。そこで、活動型ではなく教科にしようと計画しています。ただ、中学校で教科として外国語を学習する前に、外国語を使ってコミュニケーションを体験する外国語活動を経験することに、成果があがっています。このため、5、6年で教科とするならばその前に外国語活動を設定しようという、まさにいままで小学校の先生ががんばってこられたことのうえにこの計画があるということですね。

隂山:いまの文科省のスタンスを聞いて、逆説的にどうですか。こういう教育を受けた子どもたちの一部が、また小林さんの学校にはいっていくことになるとは思うのですが、期待されることはありますか。

小林:明らかに義務教育そのものが進化をとげているなというのは思います。すごく楽しみです。逆に隂山先生にお聞きしたいのが、さっき小学校のインターナショナル化もあるとおっしゃいましたが、立命館宇治中高でインターナショナルスクールといいますか、国際バカロレアをしていますよね。あれもやはり小学校まで広げるという動きはあるのですか?

隂山:今はありません。ですから、やっぱりいろんな問題点があります。テクニカルな問題で、やっぱりある程度、理屈もアイデンティティも整ったうえで、それを国際化していく、付け足していくのと、そもそもその土台のところで、インターナショナルになるっていうのは、いったいどういう人材、あるいはいったいなに人に育てるの?というようなことであるとか、根本的なところまで問われるようになります。ただ、時代の流れからみると、それを好む好まざるとにかかわらず、幼稚園がインターナショナル化し、中高がインターナショナル化する中で、小学校だけが現状のままでいいということにはなりません。現状、3、4、5、6年で英語の進化を遂げられているということは、小学校におけるグローバル化とはなんぞやというのは、まだ10年くらい先の話だとは思いますが、いずれ大きな課題となってくると思っています。

小林:ありうるとしたら、段階的なイマ−ジョンプログラム(※注1)等でしょうか。たとえば国語は日本語でやるべきだとは思いますが、算数や数学は、海外でも事例があります。具体的には、学年を経るごとに、最初は母国語が9割、英語1割で、だんだんその比重をかえていって、中学や高校になると、英語が中心になっていくというような言語の構成でいろんな教科を教えていくというような典型になるというのはあり得ますよね。

グローバル化する社会、教育の未来は?

隂山:話がより発展的なところにはいってきましたが、二点だけいわせていただくと、イマ−ジョンということの可能性というのは実はまさしく理数教育との関係だと思っています。ほとんど語られることはありませんが、実はノーベル賞受賞者は、圧倒的にアメリカ人とイギリス人が多いです。その他の国の人たちも、やはりアメリカやイギリスの大学で、英語を通じていろんな知識を高めてきています。これは、私自身の勝手な思いなのですが、いわゆるサイエンスと英語は非常に相性がいいんじゃないかと思うんです。ですから単純にアメリカとイギリスにおいて科学が進んでいるからそのようになっている、ということではなくて、まさしくその言語が、やっぱりサイエンスに入ってきやすいものになっているんでないかというのが一点あります。もう一点は、諸外国をみたときに、すでにバイリンガルになるのはむしろあたりまえです。ルクセンブルグにおいては、ドイツ語で分数の授業をやっていたのが、突然フランス語に切り替わる授業をするのを見たりした経験から、「英語ができる前に日本語でしょ」というのは、少し古いかなと思います。やはり本当にグローバル化に対応できる人材と言語の役割というのは、もう少し現実に見合った形で、世界的な視野でいろんな知見を得て、あるべき方向を定めていくべきではないかなということを、個人的な問題意識として持っています。

小林:そうですね、2000時間拘束とか言われていますが、小学校という意味では、学童クラブを英語でやろうという動きもあります。ああした動きはすごくおもしろいなと思っていて、幼稚園がインターナショナルスクールの子が多くて、小学校が日本語というのはなんだかわかるような気もしています。わたしの子どももまだ保育園で、今後公立の小学校に上がっていくのですが、英語に触れておくというのは大事だなと思っています。わたしがこういう仕事をしているので子どもは英語に触れていますし、彼らも興味を持ち始めてはいると思います。英語に触れる機会と話す機会というのもつくってあげたいなとは思っています。このため、教育を特に国語を中心としてきちんと日本語でうけながらにして、英語に触れていく機会というのを学童クラブで持つであるとか、小学校の英語の授業を増やすという形で、慣らしていくというのには大賛成です。今後、英語を使いこなせる人材になるというのは必須だと思います。

隂山:いわゆるインターナショナルスクールが、いよいよ動き出しました。実際の指導上の課題というのは、今後解決に向けてバージョンアップされていくと思います。けれども、同時にインプットとアウトプットというのが、学校制度を含めて、地殻変動を起こしてきています。その背景には、社会のグローバル化というものもあり、いろいろな課題や意識、解答が、ISAKのほうから出てくるのではないかと期待しています。

直山:不勉強でして、わたしは、小林さんのことを全然存じ上げませんでした。しかし、今日初めてお話をお聞きして、お取り組みにとっても興味を持ちました。また、改めて行政の役割を認識した次第です。地域の境界線、国境自体の意義が薄れてきている世の中で、ひとの生き方も考え方も多様です。その多様なところが格差にならないように、行政は環境を整備していかないといけないと、今日のお話を伺っていて強く感じています。

小林:ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

(小林りん氏退室)

対談エピローグ ~行政を中心にグローバル化を急げ

隂山:やはり、今回その一条校のところに踏み込んで、普通だったら私学の助成金について、「外国人のためにどれだけ経費を使うんだ」とか、様々な意見が出てきてもいいのですが、そうではなく、ふるさと納税をそこに使っていたんですね。

直山:そうですね、軽井沢という町ぐるみでやっているんですね。わたしが文部科学省へ寄せてもらうまでは、文部科学省は柔軟性がないのではと思っていた部分もありましたけれど、結構そうではなく、柔軟なのです。

横山(※注2):そうですね。文科省はよく考えている。ただ、それをどう活用していいか、媒介して使い切れる人が少ないように感じます。

直山:先生方は、目の前のいろいろなことに対応しなければいけないので、毎日が多忙です。また、教育委員会や文部科学省もやはり多忙です。先生方と行政とがもっと連携すると同時に、小林さん、軽井沢のお取り組みのように、地域、地域人材との連携も大きな力になります。

隂山:やはり、さきほどあったように、教育というのは親自身が展望をもっていないといけません。それがないと、生きていけないぐらい、教育文化そのものが転換していかなければいけない時代にはいってきているというのは間違いないと思います。というのも、もともとそうだったはずなのです。

直山:そうですね。もっと昔はそうだったんですよね。

隂山:直山さんにお聞きしたいことが二点あります。ひとつは公立学校に英語を入れるのであれば、相当準備しなければいけないですよね。

直山:そうです、おっしゃる通りです。

隂山:それは教科調査官や現場は了解できるのですが、そこのところで国会がお金を出すことを了承するかどうかだと思います。

直山:「英語教育の抜本的拡充」はグローバル化社会の進展、加えて、少子高齢化を迎える我が国にとっては、大きな課題です。そのため、「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」が昨年末に出され、中央教育審議会が開催されるまでの間、「英語教育のあり方に関する有識者会議」が設置され、「実施計画」の方向性について審議されてきました。次期学習指導要領の検討においても、特に小学校における外国語教育は大きな案件となるでしょう。そのような大きな課題には、やはり「人・物・お金」が必要です。先生方が自信をもって小学校での外国語教育の指導に当たれるよう、国として本気でお金をかけて条件整備をしていく必要があります。

隂山:私としては、小学校の全教職員をなんらかの形で義務研修に参加させるべきだと考えています。要するに、行きたい人だけが行くのではなく、全員研修させるというそのことが意識を変える。

直山:それは大きいメッセージになりますね。

隂山:そう、それを外国語活動でやらなかったから、「ああ、高学年の先生大変ね」というモードになってしまったと思います。それにも関わらず、全国的に6年生でやるから、5年でもという流れになっています。実は学習指導要領の改訂もあって、ありとあらゆる問題が5年生に集約されています。そこを変えていくためには、やはり全校をあげて取り組むようにしないといけないというのが一つあります。それから、もうひとつはさきほど言っていた、小学校におけるインターナショナルスクールとしての一条校があります。やはりこれをある程度視野に入れていく必要があるのではないでしょうか。小学校というのは心づくりのところがものすごく重要なのです。ですが、英語の問題を考えたときに、幼稚園で「英語ができるよ」、中学で「本格的に使えるようにします」となってきている。それが、小学校5、6年生の週3時間というので済むはずがありません。やはり、ここのところをきちっとつないでいき、世界に出ていける本格的なグローバル日本人を育てていかなければならないと思います。

※注1:イマージョンプログラム…未習得の言語を身につける学習方法のひとつ。没入法。

※注2:小学館教育編集部編集長 横山英行氏。NPO法人日本教育再興連盟理事。本鼎談に際し、多大なるご協力をいただきました。

3 掲載について

本企画は小学館「小三教育技術」と連動し、鼎談内容は「小三教育技術」1月号(12月15日発売)にも掲載されます。

第1回はこちら→【第1回 外国語を学ぶ、使う】

第2回はこちら→【第2回 学校現場と制度】

第3回はこちら→【第3回 進化する学校とあるべき親の姿】

本鼎談の詳細はこちらをご覧ください。[鼎談 隂山英男×小林りん×直山木綿子]特設ページ

4 関連イベント情報

スペシャル・セミナー 『地域を再生・活性化する「主体的・対話的で深い学び」とは?』

日時:2018年8月18日(土) 12:30〜16:50

会場:エル・おおさか 南館 南ホール(大阪府大阪市北浜東3-14)

内容
○菊池省三先生による講座「いの町・中津市ほかでの取組の現在」
○南惠介先生による講座「木を見て森を見て、そしてまた木を見る~全ての子供たちに小さな社会を紡ぐAL~」
○隂山英男先生による講座「福岡県飯塚市、田川市等における地域ぐるみの取組」
○講師鼎談「地域・学校を再生・活性化する、今後の教育のカタチを考える」

詳細https://www.kokuchpro.com/event/2d7fd7f0601b587906af123eff0d4aa7

 
さらに、本記事にご協力いただいた隂山先生が開催されるセミナーをご紹介します。
集中速習導入講座
日時:8月19日午前10時~12時
会場:隂山事務所(京都市丸太町駅東)
講師:岐阜市立梅林小学校長 堀江秀樹校長先生
お申し込み:kage@kageyamahideo.com

5 鼎談者プロフィール

隂山英男

立命館大学教授(立命館小学校副校長  兼任)

大阪 府教育委員会委員長

1958年兵庫県生まれ。反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し脚光を浴びる。

2003年4月、尾道市立土堂小学校校長に就任。百ます計算や漢字練習の反復学習を続け、基礎学力の 向上に取り組む一方、新旧を問わず積極的に導入する教育法によって子どもたちの学力向上を実現。

現在は、立命館大学 教育開発推進機構 教授(立命館小学校校長顧問 兼任)。他に、文部科学省・中央教育審議会 教育課程部会委員。

NPO法人日本教育再興連盟 代表理事

陰山ラボホームページ

小林りん

International School of Asia Karuizawa(ISAK) 代表理事。

学校法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢 代表理事

経団連からの全額奨学金をうけて、カナダの全寮制インターナショナルスクールに留学した経験を持つ。その原体験から、大学では開発経済を学び、前職では国連児童基金(UNICEF)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在、ストリートチルドレンの非公式教育に携わる。圧倒的な社会の格差を目の当りにし、リーダーシップ教育の必要性を痛感。学校を設立するため、2008年8月に帰国。

1993年国際バカロレアディプロマ資格取得、1998年東大経済学部卒、2005年スタンフォード大教育学部修士課程修了。内閣官房主催『教育再生実行会議』グローバル/イノベーション人財ワーキンググループメンバー。世界経済フォーラムYoung Global Leader 2012。日経BPチェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー2013受賞。日経WOMANウーマン・オブ・ザ・イヤー2014大賞受賞。

ISAKホームページ

直山木綿子

文部科学省初等中等教育局 教育課程課 国際教育課 教科調査官

京都市の中学校で英語科教諭を務めた後、京都市教育委員会指導主事として小学校外国語活動のカリキュラム開発に携わる。2009年4月より現職。以来、『英語ノート』『Hi, friends!』の開発や活用をはじめ、全国各地での研修や講演など、日本の英語教育の充実と推進に日々奔走する。

コメント

コメントはまだありません

    より良い実践のためには、あなたの励ましや建設的な対案が欠かせません。
    ログインして、ぜひコメント欄をご活用ください。