各教科・科目で追究する「深い学び」その1 ~英語・保健体育編~

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作成者:平原 由羽 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この記事では、平成30年10月13日に行われた、広島大学附属中・高等学校教育研究大会のパネルディスカッションの内容を3回に分けて紹介します。
 このパネルディスカッションは教科ごとに行われた授業公開や研究協議の後に、改めて全体的な視点から「深い学び」について考えるものとして行われました。
第二回(数学・理科編)の記事はこちら
第三回(意見交流編)の記事はこちら

第一回(英語・保健体育編)では、授業内の場面をいくつか取り上げ、具体例とともにどのような「深い学び」ができるか考えています。

2 広島大学附属中・高等学校校長 竹村先生から

今年の研究大会のキーワードは「深い学び」です。授業改善の視点として「主体的・対話的で深い学び」という言葉で示されている現況ですが、深い学びとは何であるか、それ以上に日々生徒たちを前にして授業するわれわれ教員にとっては深い学びをどのような授業で実現していくのか、そういったことが大きな課題として突きつけられています。
 そこで今回は本校の授業実践について、ご来場の研究者の先生方と日々実践されている先生方に意見をいただき、「深い学び」を追求する議論の場を設けました。
 本日は、広島大学大学院教育学研究科の教育方法学講座の准教授である吉田成章先生にパネルディスカッションのコーディネーターを務めていただきます。

3 授業実践報告1

登壇者

山岡大基先生(同校英語科担当)

橋本直子先生(同校保健体育科担当)

吉田成章氏(広島大学大学院教育学研究科准教授)※コーディネーター

英語科

英語科での「深い学び」は活用型?

山岡先生:英語は世間からも他教科からもツールだと思われがちです。その裏には「深い学びなんかよりもとにかく英語しゃべれるようにしてほしい」という考えがあるのではないかと思います。もちろんスキルをしっかり育てるのは大事だと思う反面、ただ慣れさせればいいという話ではないと思うのです。
 英語のアクティブ・ラーニングの実践例というと「調べ学習をしてプレゼンしましょう」「グループで協力してライティングをしましょう」「資料を持ってきてそれに基づいてディベートをしましょう」というものが多く、全てスキルを使う局面を焦点化した学習だといえます。私はこれを悪いことだとは思わないのですが、「そこで使う英語力はどこで身につけるのか?」という疑問が生まれると思います。
 古い分け方ですが英語の学習はskill-getting(スキルの獲得)とskill-using(スキルの使用)の二場面に分けて考えることができます。先ほどの話で言うとskill-usingの場面はアクティブ・ラーニングでよく使われますが、skill-gettingの実践例があまりありません。

「習得」場面での「深い学び」の実践例

山岡先生:私はskill-getting(「習得」と呼んでもよいかもしれません)の場面での深い学びを成立させるための事例として視写の書というオリジナル教材を使っています。これは高校生向けの自由英作文の教材で、主に大学入試で多く使われているトピックについて色々な意見を述べる100~150単語のモデル英文を私が書き下ろし、それをひたすら生徒が書き写すというものです。もともとの狙いは「そのトピック特有の語彙を覚える」「英語的な段落の展開の仕方を書き写すことで体で覚える」ことです。

生徒の感想としては「新しい特有のフレーズを知ることができた」「専門用語・綴りが分かった」「段落の書き方や文章の組み立て方が分かった」という狙い通りのものもあるのですが、それに加えて「何回もやっていると一回に覚えられる文章の量がかなり多くなった」「意味の区切りで覚えるから文の区切りを見つけるのがうまくなった」「なるべく多く覚えるために文構造を考えながら覚えるようになった」等、既習の文法の使い方が活性化したというもの、「自分の癖が自覚できた」というようなものもあります。

つまりただ書き写す作業ではなく、生徒の中で一度自力で文を作ろうとしたり、学習に対する振り返り、つまりメタ認知をしたりできるようになっているのです。視写という活動自体は全く主体的ではない作業に感じられますが、いつのまにか生徒が書き手として主体的になっていきます。自分の知っている知識と書き写している新しい英文を行き来することで学びが深まっていくのではないかと考えています。

吉田氏:英語科が提案する深い学びは、スキルの習得に着目しながら言語そのもののメタ認知を仕掛けてもう一度深い学びを想定するということであると私は捉えました。

質疑応答

参加者:視写が作業になってしまうということはないのでしょうか。先ほど紹介できなかったような感想があればそれを踏まえて、そのような生徒に対してどう手立てをしていくのかお聞きしたいです。

吉田氏:実践の本領が発揮されるのは上手くいったときよりも失敗したときだと思いますので、上手くいったとは言えない感想に対して、プロセスとしてどのように関わっているのか、ということをお聞きしたいと思います。

山岡先生:確かに作業になってしまうという意見はあります。作業にしないために、時間制限を設けないで、自分のペースで取り組めるようにすることと、取り組み方に対するフィードバックをすることを意識しています。例えば大学入試で自由英作文を課されない生徒にも、和文英訳の練習として、日本語訳を見て自分で英文を作ってごらんと促し、自分の意識の持ち方で学習の効果は変わってくるのだということを生徒に明示して考えさせています。

また、視写という学習方法が全員に効果があるとは思っていないということははっきり言っておいて、ハマる生徒もいればハマらない生徒もいるだろうけどまあやってごらんなさい、と伝えています。

吉田氏:質問の趣旨からはズレますが、作業も大事ではないかという考え方もあります。作業を大事にできなければいずれAIに仕事を全部持っていかれますから、学校で作業することの意味をもっと見直しても良いのではないかと思ったりもしました。

保健体育

保健体育科における深い学びの定義

橋本先生:保健体育科における深い学びの定義を二つ挙げます。
1.各競技スポーツの特性を理解し、基本的スキルや、個人あるいは集団的スポーツにおける戦術などの習得を図る
2.自分やグループの活動をメタ認知を活用しながら修正・改善を図り、問題解決する

つまり基礎・基本となる運動機能を活かし、個人もしくは集団スポーツの中で応用していく力を育成すること、仲間と互いに教えあい・求めあいを行い、生徒自らが学んでいこうとする力を身につけていくことを狙いとしています。

実践報告

橋本先生:今回は学びを深めるステップとして
コンフリクト学習目標にあたる学びの意義を理解しようと興味関心を引き出す場面
内化学習課題に適した場の設定や教具を提供することで自ら考え挑戦していこうという意欲を高めていく場面
外化仲間との協働学習によって試行錯誤を繰り返しながら主体的に課題の克服に取り組んでいく場面
リフレクションこれらの課題をクリアするために内化と外化の学習内容を反芻することでメタ認知の活用を図る場面
を想定しました。

では深い学びの構造を三段階に分けて説明します。

前提として、私は学びの原点は遊びにあると思っています。同じ条件の遊びを行ってもできる人とできない人がいますが、その理由を考えるところから学びへの欲求が生まれます。

第一段階「学び」による位置づけ・意味づけの言語化。
「できるけど、なぜできるかは分からない」という状態を言語化することで、これまで無意識に行ってきたことが複雑な運動構造と身体活動によって成立していたことを理解します。そしてそこにいろいろな意味づけがされていたことに気づくことで学習への意欲が高まります。これがコンフリクトに当たります。

「分かる」を体現化した身体活動。
「サッカーでのフリーキック」等の身体活動の原理が分かり、コツをつかめればパフォーマンスのレベルを上げられます。
できなかったことができるようになったり、できなくてもポイントを理解して仲間にアドバイスできれば仲間と共感しあって楽しく運動を行えるようになります。この試行錯誤の繰り返しが学びを深める内化と外化の上り下りに当たります。

第二段階客観的・多角的な情報入手による課題の発見やより高度な戦術への挑戦。
生徒が能動的に学習活動を行うには、個やグループ活動内で学習課題や到達目標を共有し、協力し合う環境を整えることが大切です。学習ノートやビデオを活用して個々の運動を自ら分析したり、課題を発見するために仲間とお互いの課題を確認し合ったり、アスリートと自分との動きを比較したり、運動のリズムやタイミングについて考えたりして、協働的、主体的な学習活動を展開します。
 こうして体系化された身体制御やリズム・タイミングなどの理論は仲間とのコミュニケーションを交えながら具現化していきます。できる子がより美しさと効率を求めたり、できない子のつまずきの原因を探って修正したり、チーム内で自分たちに合った戦術を考えたりするなど、言語化・図式化することで仲間と情報を共有し、協働的学びの幅を広げます。これはリフレクションの部分に相当します。

第三段階「学び」によって得られた運動理論の構築と身体操作のスキルの定着。習得したノウハウを他の運動場面や日常生活でのパフォーマンスに転用。
スキルの定着とは、運動理論が構築され、これまで行ってきた身体操作が無理なく無駄なく滑らかに行えるようになることです。
 また現在パラリンピックが注目されていますが、いろいろな条件の下で自分たちの持つ能力をフルに活用して誰もがスポーツを楽しめるようにすること、そのような環境を整えられるようになること、自分たちの実態に応じて工夫しながらスポーツを楽しめるようになることは、深い学びと共通する部分があるように思えます。

保健体育科における問題解決を「運動スキルの習得」「生涯にわたってスポーツに関わること」と捉えて、知識の再構築、日常生活への転用が仕掛けられるようような授業を目指していきたいと思います。

吉田氏:保健体育科が提案する深い学びとは、日常の遊びを出発点に三段階、日常に
転用するということであると私は捉えました。

質疑応答

参加者:「遊び」という前提がありましたが、いろんなことで遊ぶにはとても高度な技能や知識が必要な気がします。

吉田氏:「学問は最高の遊びである」という言葉があるように、「遊び」というものは様々な文脈の中で設定されています。その中で橋本先生がどんな遊びを重視したいのか、全く関係ない遊びはあるのか、ということにお答えいただければと思います。

橋本先生:私の中では本当にただの「遊び」です。例えば、小さい子がステージによじ登ろうとすると、登れる子と登れない子がいたりします。登れない子はどうして登れないのか考えたり、他の子が助けてあげたりします。そのような関わり方の中で出てくる動きが遊びであり、これが原点であると捉えています。授業の中では、例えば陸上で、まず普通に走らせた後に、今度は手を振らずに走らせるんですね。すると「さっきまで速く走れていた子がどうして急に走れなくなったんだろう、腕の動きが大切なのかな」という気づきが生まれます。これが私の捉えている「遊び」です。

吉田氏:「遊び」を関わりの中で捉えていますね。できる子のできる理由に気づける子どもになってほしい、その関係を認識できる子どもに育ってほしい、ということについて体育ならではの「遊び」という用語を使ったのだと私は解釈しました。

4 プロフィール

山岡大基先生

広島大学附属中・高等学校 英語科教諭

橋本直子先生

広島大学附属中・高等学校 保健体育科教諭

(2018年10月13日時点)

5 続きの記事はこちら

第二回(数学・理科編)

第三回(意見交流編)

6 編集後記

英語科も保健体育科も、これまでになかった視点で「深い学び」を捉えておられたのでとても新鮮でした。特に「習得」段階における「深い学び」については他教科でも考えることができそうだと感じました。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 平原由羽、京谷竜輝、長屋拓暁)

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