各教科・科目で追究する「深い学び」その2 ~数学・理科編~

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作成者:平原 由羽 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この記事では、平成30年10月13日に行われた、広島大学附属中・高等学校教育研究大会のパネルディスカッションの内容を3回に分けて紹介します。
 このパネルディスカッションは教科ごとに行われた授業公開や研究協議の後に、改めて全体的な視点から「深い学び」について考えるものとして行われました。
第一回(英語・保健体育編)の記事はこちら
第三回(意見交流編)の記事はこちら

第二回(数学・理科編)では、各教科で「深い学び」を定義し、それに沿った実践例をもとに「深い学び」がどんなものなのかを考えています。

2 授業実践報告2

登壇者

橋本三嗣先生(同校数学科担当)

井上純一先生(同校理科担当)

吉田成章氏(広島大学大学院教育学研究科准教授)※コーディネーター

数学科

数学科における深い学びの定義

橋本先生:数学科では、「深い学び」を次のように定義しました。
1.問題となっている事柄と既有の知識や考え方との結びつきに思考が及ぶこと
2.物事の解釈や方略の選択に関して、多面的な見方が可能になること
3.問題解決の経験を通して、結果の活用や概念・考え方の発展的な広がりに言及できること
 もちろん他の要素もあるかとは思いますが、指導の経験や、数学教育の目標に立ち返って教科の特性や方法論を見直す中で捉えた一つの面です。

実践報告

橋本先生:ではさっそく一つの事例をご紹介します。高校1年生の40人くらいを対象として行った授業です。

はじめに「教室の中に同じ誕生月の生徒っていると思いますか」と生徒に聞くと、「13人おれば1年12ヵ月しかないから絶対に同じ誕生月の人はいる」と答えます。ところが「じゃあ同じ誕生日のペアはいると思いますか」と尋ねると、「おらんのんじゃない?」「先生がわざわざ言うんだからあるんじゃないの」といった意見が出てきます。実際に調べてみると、各クラスに2,3組は誕生日が同じペアが見つかって、生徒たちは驚きます。そこで、これが偶然なのかどうかどうやって判断しようかという話になります。
 そこで、「そういえば中学校の時に確率というものを勉強したぞ」「確率を使って計算していこうか」というような話に至ります。実際に計算すると40人のクラスでは約90%の確率でペアが見つかることが分かります。
 このように、実際に目の前で起こっている現象がどれくらいの割合で起こりうるものなのかという課題をみんなで共有して協力して取り組んでいくような活動がひとつの深い学びではないかと考えています。

次の事例です。算数数学の中では物事を分けるという活動を行いますが、この事例は平面と平面全体を分けるという少し抽象度が高いものです。

課題1:n本の直線による平面分割の最大数{an(nは小文字)}を求めよ。

最初に個人で考えさせる中で、どのような約束事のもとで数えればいいのかというルールを考えながら進めていきます。
 その後4人1組になってホワイトボードを使って「どのようにエリアが増えるか」と考えていくと、「すでにある交点は通らないようにしなければならない」「全ての直線は平行に引いてはいけない」といったルールが出てきます。そうするとそのルールを踏まえて「このようにどんどん直線をずらしていくと平面分割を最大数にするように何本でも引けるようになるよ」という考えが生まれ、共有されます。そうして、実際に式を立てて答えを出し、この授業は終了しました。

課題2:n本の折れ線による平面分割の最大数{bn(nは小文字)}を求めよ。

前時の内容を思い出してみようとは言わずに続きの授業を始めました。
 これも各グループで結論を出していくのですが、振り返りの段階でいつもどこかのグループから「前時で求めた{an}のnに2nを代入した式から2nを引けば良い」という意見が出ます。そこから「どうして2nを引くのか」といった議論が生まれます。

一旦問題解決を終えたところでもう一度見直して引いた視点で見ることによって新しいことに気付くというのもひとつの深まりだと思います。

吉田氏:ありがとうございます。数学科としての深い学びの提案は、数学的見方をより抽象度の高い俯瞰的な視点で見ていくということだと私は捉えました。

理科(高校生物)

理科における深い学びの定義と実践の背景

井上先生:私は授業でパフォーマンステキスト(以下、PT)というものを作り、これをもとに自分自身の授業改善として実践しています。

その背景には、4年前から取り組んでいるパフォーマンス課題の実践を通じて感じた「到達目標の明文化」「『本質的な問い』『永続的な理解』の明文化」「内化と外化の往還による単元および授業の構造化」の重要性と、高大接続システム改革会議でも挙げられていた「概念についての知識、思考力・判断力等の重視」、また日本学術会議で挙げられた「『用語』から『概念』の指導の重視」の3つがあります。

理科としての深い学びの定義は、新しい学習指導要領で求められている育成すべき資質・能力に照らして、次の3つにまとめました。
1.知識・技能の習得及び思考力・判断力・表現力等
2.科学的な探究能力
3.メタ認知能力

実践報告

井上先生:先ほどの背景と深い学びの定義を踏まえて、京都大学高等教育研究開発推進センターの松下佳代教授による「深さの系譜」を参考に、「上り下り」「転移」「協働」を可能にする適度でチャレンジングな課題を配列したPTを実際に作って実践しようと考えました。

このPTには、例えば単元の中核となる概念・原理に関する課題や観察実験を伴う課題、科学の方法や思考力・判断力等を重視した課題をちりばめています。内容は4部構成です。
①概論(コンフリクト)
生徒の動機付けということで「はじめに」という形で概要、単元内容の要約を入れています。まずここを生徒にしっかり読んでもらって、この単元ではどんなことを学ぶのか、何が重要なのかをしっかり把握してもらいます。
②事実的知識、事例(内化)
いわゆる教科書や副教材に載っている図を載せています。もちろん私から基本的な説明も行い、これを「内化」と位置付けています。個人で基本的な知識や事例について定着させる役割を持っています。
③PT課題(内化と外化の往還)
まずは個人で課題に向き合ってどういう風にどこまで考えたかをはっきりさせてから、自由に小集団を形成させて取り組ませています。その活動を通してお互いどこが分かっていてどこが分かっていないのかをはっきりさせてからお互いが課題に対して向き合う時間を作り、それを用いてどんな考えになったかを全体でシェアしながら深めていき、最後にもう一度個人にフィードバックさせます。これを「内化と外化の往還」と位置付けています。
④自己質問(リフレクション)
単元の中核となる知識や概念に関する問い(本質的な問い)を自分たちで立てさせ、その答え(永続的理解)も書かせています。これを個人で取り組ませています。

授業は、基本的に教科書や図説資料をフル活用し、スマートフォンなどの情報機器端末も自由に使えることにしています。

ここで、PT課題の例をいくつか紹介します。
 生物基礎の「生物の特徴」の単元に関して、新学習指導要領には「生物の共通性と起源の共有を関連づけて理解する」「観察実験などを行い探究の過程を踏まえた学習活動を行う」との記載があります。この課題は「真核細胞の細胞内小器官の1つである葉緑体と原核生物のシアノバクテリアなどを観察し、その形態・大きさを比較することで細胞内共生説を検証しなさい」です。細胞内共生説については教科書に説明がありますが、結論から言えば葉緑体とシアノバクテリアのスケールを測定し、それを比較しただけでは細胞内共生説を検証することはできません。実はそういった形態やスケールをただ比較しただけでは検証できないということを生徒に理解させるための課題です。
 また生物の「生命現象と物質」という単元では、「タンパク質・酵素の機能を生命現象と関連付けて理解する」ことが挙げられています。ここでは、競争的阻害という概念をサリンと関連付ける課題を設定しました。世の中を震撼させたサリンの人体への影響を、生物学的な知識や概念を使って説明できるようになることを意図しています。さらにこの影響は自律神経系の一つである副交感神経が関わっており、これは生物基礎の「体内環境の維持」という単元で学習しています。このような関連も考えて課題を作っています。

また自己質問の例もいくつか紹介します。
 「生物の共通性と多様性」では「生物多様性の重要性とは何か」という問いが生徒から生まれました。この問いは「生物の多様性と生態系」等、他の単元につながります。
 また「生物とエネルギー」では「生物の活動にエネルギーは必要不可欠であるが、そのエネルギーはどこで生まれ、どのように生態系を移動していくのか」というような問いが生徒から生まれましたが、この問いも「生命現象と物質」「生態と環境」等、他の単元につながるものです。

生徒の振り返りとしては、「自分で考えて必要な情報を探して自分の意見を持つことができた」「自分が納得するまで課題と向き合えた」「自分の理解に何が欠けているのか気づけた」「既習の学習内容とのつながりを強く感じた」というものが挙がっており、学習への主体的な意識が高まっているだけでなく、メタ認知も高まっていることを感じました。

まだ試案の段階ですが、自己質問をきちんと評価してみようと思い、ルーブリックを作成しました。Bレベルは知識・事例と概念・原理の間の上り下りが可能な問い、Aレベルは他の単元や日常生活への転移が可能な問い、そしてSレベルは理科の見方や考え方を働かせて見通しをもって観察実験等を行い、探究的に解決できるような問い、と設定しています。

最後に評価方法についてですが、PT課題の評価は生徒の自己評価が中心です。課題は生徒の取り組みを見ながらどんどん改善しています。自己質問の評価についてはルーブリックに基づいて評価をしようと思っています。また教師が評価するだけでなく、生徒同士の相互評価も重要だと思っています。また定期テストの問い方もかなり重要だと考えているので、なるべく穴埋めなど単一の用語や知識を問うものではなく、ルーブリックのA,Bレベルに相当する問いを出題したいと思っています。

吉田氏:ありがとうございます。科学的な探究をさせることで生徒自身の科学的なメタ認知能力を鍛えていくというご提案だったと私は捉えました。

3 プロフィール

橋本三嗣先生

広島大学附属中・高等学校 数学科教諭

井上純一先生

広島大学附属中・高等学校 理科教諭

(2018年10月13日時点)

4 続きの記事はこちら

第三回(意見交流編)

5 編集後記

この二つの実践例から、内容そのものを深く理解させることと俯瞰的な視点を持たせることは切り分けて考えるものではないのだと感じました。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 平原由羽、京谷竜輝、長屋拓暁)

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