21世紀の教育に向けて③〜仕事の成功に活かされている教育経験〜

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作成者: 吉田 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事はFutureEduの代表理事やMost Likely to Succeedの日本アンバサダーをはじめとし、教育に関する様々な活動をされている竹村詠美さんへの取材内容を記事化したものです。取材は2021年3月8日に行われたものです。(6月23日に内容を更新しています。)

この記事では、竹村さんの人生の中で仕事の成功に影響を与えていると感じる教育体験今後の活動の展望についてご紹介しています。

本記事は3部構成になっています。ぜひ他の記事もお読みください。

こちらの記事では、新たな学校での学び方の提示として、特にオンラインでの円滑な授業運営に焦点を当てて紹介しています。

21世紀の教育に向けて①〜オンライン授業で作る対話的で深い学び〜

こちらの記事では、育てたい子どもの学習者像とその実現ビジョンについてご紹介しています。

21世紀の教育に向けて②〜教育システムの理想像とは〜

2 竹村さんの教育経験

学校では

小学校は公立、中学・高校は国立、大学は日本の私立、大学院はアメリカといったようにバラエティ豊富な学校に今まで通っていました。通っている子ども、カリキュラム、先生、学習インフラなどが学齢や各ステージでかなり異なる環境でした。小学校は公立だったので、様々なバックグラウンドを持つ子たちが集まっており、障がいを持った子も一緒に学んでいました。当時は実感していなかったのですが、今振り返ってみると、幅広い家庭環境の子と一緒に学校生活を送る中で世の中の多様性を肌感覚で認識したと思います。

中学・高校は校則があまり厳しくない校風だったおかげで自由に振舞うことができました。そういった環境で実体験からソーシャルスキルを学ぶことや、発言や行動のバウンダリーを知ることができました。自慢ができることではありませんが、授業をさぼるとどうなるといった原因と結果の経験を積み重ねる中で、大学生活にも活かせる自己調整能力を少しは養えたのかなと思います。

中高は自営業や医者の家庭の友達が多かったのですが、東京の私立大学に通っている時は、周りの同級生の多くがサラリーマンの家庭の出身で、大企業や官公庁を中心とした日本社会のあり方を意識するようになりました。日本の平均的な学力をつけて、平均的な大学に入って、平均的な結果を収めると平均的にこういう人生が待っていて……という平均的なサラリーマン人生を自分自身はどう考えるか、将来どうしていきたいかを真剣に考えるきっかけをもらいました。

家庭では

親が仕事で忙しかったため、小学校の中学年までは自分の自由な時間がたくさんありました。例えば当時、切手を集めるのが好きで、自分で探して近くの切手屋さんに行って物色したり、カタログを見て収集プランを作ったり、アルバムを作ったり、近所の人にレアな切手を譲ってもらうために交渉したりしていました。徐々にコレクションが充実することに大きな喜びを感じていたことを今でも覚えています。中学に入ってテニスを始めた時には、自らリサーチをして遠くのクラブに通うなど、小学校の頃の原体験は活きていたと思います。このように、自分のやりたいことを主体的に突き詰める経験、リソースを集めてきて行動に移す原体験が今の自分の仕事につながっていると感じます。このことが私の行動力の原点だと思います。

受験について

私は中学受験をしたので小学校の3年生ごろから塾に通い始めました。受験は自分自身の希望ではなく、近所の公立校に行きたいと思っていましたが、親の勧めで受験は不可避でした。幸い合格しよい学校に通うことができましたが、自分が当時やりたいと思ったことの多くを受験によって犠牲にしてしまいました。一番受験によって失ってしまったと感じるのは学びへの意欲です。受験が勉強の目的になっていたので、合格した後に、学校での勉強に目標が生み出せなくなっていました。

中学に入ってからは部活動をしたり友達と遊んだりすることが多かったです。高校に入ってからも大学入試を目的とした勉強をしていたので、入試に関係ない科目は最低限という状態でした。今になって高校生のうちに学んでおけばよかったと思いながら、歴史や科学の本を読んだり学び直したりすることもあります。受験という目標に特化することで、学ぶことへの意欲ではなく、受験に成功することへの意欲が勝ってしまうように感じます。そういう点では受験は純粋に学ぶことへの意欲を消してしまっている可能性はあると思います。これはとてももったいないことだと思います。

留学の経験

元々世界を旅行したい願望があったため、英語はできるようになりたいという気持ちが強かったことに加え、仲のよかった大学の友人に帰国子女の子が多く、自分だけ英語での会話についていけないことが悔しいと思っていました。その思いもあって、大学3年の時にアメリカに留学をした際には、周りの環境に圧倒されたこともありましたが、それでも萎縮することなく前に進むことができました。自分から湧き上がる強い思いが留学での困難を乗り切る力になったと思います。留学の目的は就活に役立てたいという社会的な判断ではなく純粋な願望で、英語での話がわかるようになりたいというものでした。

体験の積み重ねが今の人生に活きている

レジリエンスは、初めからそういう力があるわけではなく小さな体験の積み重ねで生まれていくものだと思います。思考の柔軟性も試行錯誤の末に身についていくものです。正面からぶつかってうまくいかなければ横から行ってみよう、斜めから行ってみようというように同じ課題を複数の視点から捉え、挑戦し続けることはレジリエンスを鍛えてくれます。例えば新しい環境で友人を作る場合に、相手の関心のある話題から話を盛り上げることが上手くいかなかったけれど、相手の取り組みに対してコメントをしてみるとうまくいく場合があります。このように一度上手くいかないからといって諦めるのではなく、他によりよい方法があるはずと思えると試行錯誤を続けることができます。何かほしいものがあるときに、お小遣いで買う余裕がなくても他にどのような方法があるのかなど、日常生活には思考の柔軟性を鍛える機会はたくさんあります。もちろん思考の柔軟性は教科学習でも鍛えられます。数学の問題を1つの公式に当てはめて解くだけではなく、解法を議論してみるのもよいでしょう。息子の中学校では探究的な数学の問いを子どもたちが議論する「数学セミナー」というクラスがあり、話の中で出てくる多様なアイデアや考え方がとても刺激になったようです。

教科の学習も本来は様々な視点を学ぶためにあるものです。国語の視点、社会の視点というものを身につけていくこと自体はよいことだと思います。主要教科それぞれの視点から学ぶという発想自体が間違っているのではなく、そのような視点が身に付く教え方ができているのかということが論点だと思います。

3 これまでの活動と今後の展望

——今まで竹村さんが行われた活動によって教育活動の中で変化が起こったと実感されることは何ですか?

元々6年前ぐらいに教育に関わり始めたきっかけは、日本で初めてMost Likely to Succeedという教育ドキュメンタリー映画の上映会を開催したことでした。日本語字幕付きの上映会を始めてから3年半がたった今(2021年)、すべての都道府県で1回以上自主上映会が開催されました。日本中で色々な人の意見を聞いているうちに、フラットな関係性の中で教育について対話をしていくことの大切さを痛感しました。普段の職員会議などでは、フラットな関係性ではないために、思ったことを自由に発言しづらかったり、参加者の多様性が薄いことで意見が偏ったりすることがあります。対話というのはただ単に意見を伝え合うのではなくて、共通のテーマに対して多様な意見を吸収する機会だったり、自分の思いに改めて気づき、行動のきっかけになるものだったりするので、誰がいて、どのような状態で話し合いができるかという場づくりがとても大切なのです。

学校や地域の垣根を越えた対話は一つの変化につながっているような気がします。現在、Learn by Creationという団体でイベントや研修活動を行っています。この団体は越境する関係性の中から新しい学びを共につくっていこうというビジョンを持っています。志の似ている多様なメンバーが協働することで、新しいコラボレーションにつながることも多くあります。昨年は『新エリート教育 ~ 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』という本を出版させていただき、まとまった形で世界の先端教育の動向や実践をお伝えすることができました。本を読んで、保護者の方から進路の考え方が変わったなどと意見をもらいました。この5年、そういう形で徐々に役に立てている部分もあるのではないかと思います。

——今後の展望を教えてください。

そして昨年(2020年)秋から、bridge learning(ブリッジラーニング )という学習者中心の学びの実践を、志の似ている先生方でともに学び合い日々の実践につなげていくことをめざした研修事業を始めました。探究的な学びを始めようと思っても、深い学びに生徒を誘うことはそう簡単なことではありません。この活動は先生方がそもそも学習者中心の学びに取り組むことを応援しなくてはその課題は解決しないという気づきから始まりました。そこで学習者中心の学びを実践されたい先生が、個々にあった山の登り方を学ぶことのできる、体験型の教員研修プログラムを実施しています。4月末から第2期をスタートしており、先生方のフィードバックから、学年や学校を越えて刺激し合い、学び合うことの意義を感じています。

探究的な学びを推進するためには、先生自身の知識のアップデートだけでなく、マインドセットやスキルの向上も大切ですが、これは座学で身につくものではありません。ブリッジラーニングの「ブリッジ」という言葉には、記憶中心型から学習者中心型の学びへの橋がけとして、仲間と学び、挑戦を応援し合う機会や場を提供したいという運営メンバーの思いが詰まっているのです。

4 取材先プロフィール

竹村 詠美 (たけむら えみ)

一般社団法人 FutureEdu 代表理事、一般社団法人 Learn by Creation 代表理事、Peatix.com 共同創業者、Most Likely to Succeed 日本アンバサダー

マッキンゼー米国本社や、日本のアマゾンやディズニーなど外資系7社を経て、2011年にPeatix.com を共同創業。2016年以来グローバルなビジネス経験を生かした教育活動に取り組み、教育ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」上映・対話会の普及、「創る」から未来の学びを考える祭典「Learn by Creation」、学習者中心の教育実践者に向けた研修「ブリッジラーニング」など、学びに関わるヒトが、先端的な学びに刺激を受けながら、自ら考え、仲間と行動することを応援している。2020年夏に5年間の先端教育現場視察やリサーチからの学びを凝縮した『新エリート教育 ~ 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』(日本経済新聞出版)を上梓。 クリエイティブリーダーを育むための、学習者中心の学びやホール・チャイルドを育む環境をテーマに活動中。総務省情報通信審議会委員など公職も務める。経済産業省の未来の教室での研修採択実績。講演や執筆も多数。

慶應義塾大学経済学部卒 | ペンシルバニア大学ウォートンビジネススクール修士卒|ペンシルバニア大学国際ビジネス修士卒

ご著書
『新エリート教育 ~ 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』

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コロナ禍で新たにオンライン授業を取り入れようと考えている先生方におすすめの記事となっております。

オフラインを活用する小・中学校のオンライン授業検討会(前編)

オフラインを活用する小・中学校のオンライン授業検討会(後編)

5 編集後記

読者の方一人ひとりが自身の教育経験を振り返るきっかけとなった内容だったのではないでしょうか。今後の教育を考えるうえで自身の経験、社会的背景、科学的な視点いずれも非常に大切であると思います。学級運営をされる先生方だけでなく、これから学んでいく若い世代の方にも是非読んでいただきたいです。この記事が新たな教育に対する考え方を知る一助となれば幸いです。

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