1 はじめに
この記事のテーマは吟味よみです。
※吟味よみとは…作者のいろいろな工夫について考えながら読んでいくこと
吟味よみを通して、筆者の工夫を発見するといったことも含めて、評論文、ひいては物語すべてにおける考え方や理解の方法を児童に指導していくことを目指します。
2 評論文を使った吟味よみ
はじめに、文章を読むにあたって、それを深く読み込むことというのは非常に大切です。それは、その文章における意見が根拠に基づいているか、また事実との相違がないかを確認するためにも必要なことです。そこで、児童に読み込む行為に慣れさせるために、あえて根拠に乏しい意見の多い文章を@<b>{独自でつくり}、児童に「変」だと思うところや、「あいまい」だと思うところを、理由もつけて説明させることも手段の一つです。
3 「『鳥獣戯画』を読む」における全体計画
※この計画は「『鳥獣戯画』を読む」という教材に基づいています。
評論では、児童に筆者の工夫を読み取らせることは非常に大切です。この教材にかかわらず、他の評論文教材でもあてはまる重要な教え方の視点を以下に示します。
① 絵から読み取ったことを文章に表し、教材文の第1段落と比べることで、筆者のものの見方や表現の仕方との「違い」に気づく
② 全文を読み、感想を紹介し合う。
③ 前文・本文・後文の三部構成をとらえる。
④ 構成や表現の工夫を読み取り、その効果について考える。
⑤ 文章全体の構成上の工夫について考える。
⑥ 絵の解釈・評価を述べる際の工夫について考える。
⑦ 絵巻物や『鳥獣戯画』に対する筆者の解釈・評価について、自分の考えを持つ。
⑧ 『鳥獣戯画』のほかの一場面を選び、絵から読み取ったことを論説文にまとめ、交流し合う。
ここでは、⑥について児童に解釈・評価の意見をうまく考えさせる工夫を重点的に書いていきます。
児童には、本文の第5・6段落において
- 文章のうまいところを考えさせる。
☆どこがどううまいのかという根拠や理由もふくめて意見を述べさせる。
- 工夫が隠されているところを考えさせる。
☆どのような工夫がなされており、それによってどのような効果があるのか、まで考えさせる。
上記のことを児童に時間を決めつつ積極的に発言させ、意見をとにかく出させ続けます。
ポイント…良い発言があった場合は、すぐに「いいね。」と言わずに、「今、○○さんが言ったことの意味がわかった人いる?いるなら、もう一度先生に教えて。」と複数の児童に尋ね、児童間だけで、お互いに理解を深めていくことをする。
こうすることによって、児童に他人の意見を咀嚼し、説明するという能力がつく。
そして、教師が話し合いを活性化させていくことも大切です。
第5段落においては、
- 「けむりかな、それとも息かな。」の一文がなくても文章として成り立つことを示し、「なぜわざわざこの一文をいれたのか。」と揺さぶりをかけ、その意図や効果を考えさせていく。
- 「ポーズ」と「目と口の描き方」がどのようになっているから「激しい気合い」を感じられるのか、絵をクローズアップして読む活動を通して、筆者の解釈に迫っていく。
- 「こんな昔から」をキーワードに、「漫画の吹き出しと同じようなこと」を線で表現していることに驚きをもって評価している筆者の思いに迫り、アニメ映画監督らしい着眼点・評価・解釈であることに気づかせる。
- 「もし第5段落の文章構成が『筆者の解釈→根拠』の順序になっていたら」と仮定して本文と比較させ、どちらがより読み手の共感を得られやすいか問うことにより、論理構成の工夫に気づかせたい。さらに、第6段落を読み、第5段落と類似した論理構成になっていることにも気づかせる。
- また、多くの工夫のなかで、自分が論説文を書くときに取り入れたい工夫を挙げさせ、単元後半の学習活動への意欲付けを図る。
4 話し合い終了後
児童の間で話し合いが一通り終われば、話し合いを通して深まった読みをノートにまとめさせます。
5 単元の最終ゴール
上記の全体計画①に、“絵から読み取ったことを文章に表し”とあるが、このとき書いたものを、さまざまな意見やその根拠を出し続けた全体計画最終日に絵から読み取れたことを再び論説文にまとめさせ、児童間で交流させます。すると、最初との文章や視点の変化が手に取るようにわかり、児童の自信にもつながることでしょう。
6 編集後記
熊谷先生は生徒に考えさせる時間を重視していました。また、意見を活性化させるだけではなく、発表時に良い発言が出た場合、すぐに「良い発言」であることを言わず、他児童にさらに咀嚼させ、説明させているところに、児童をうまく巻き込んだ授業づくりが垣間見られ、感心の連続でした。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 岸 剛志)
7 実践者プロフィール
熊谷尚先生
秋田大学教育文化学部附属小学校教諭。現在、研究主任を務めている。
共著として、
『国語の本質がわかる授業〈6〉説明文の読み方 (『教科の本質がわかる授業』シリーズ)』(日本標準出版)がある。
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