学校評価(1) ~ PDCA→CAPDサイクルへ ~ 成果向上と多忙化の解消

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目次

1 PDCAサイクルの流行

教育現場でも「PDCAサイクル」という言葉が2010年より少し前ぐらいからでしょうか、よく使われるようになってきました。

「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4 段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する。」

という元々は品質管理に適応されていた考え方だったようです。業務改善一般でも、確かに有効な考え方だと思います。学校評価・教育評価への期待の高まりと共に、この言葉を使う頻度が増してきたと思えます。

下のリンクの姉妹記事も是非お読みください。

学校評価(2) ~ まずは、漢字を評価するところから

「学校の多忙化」の改善(業務改善) ~「残業の見える化」から始める

2 評価をしてみても改善が見つからない

ところが時間と手間をかけて児童への評価、学校への評価をしてみたものの、悪い評価が出たものについてすぐに改善方法が見つかるかというと、そうではありません。「A(改善)」はそう簡単には見つからないことが多いからです。

細かい改善はできるのでしょうけれど、抜本的な改善はなかなかできません。戦後の教育体制は70年も続いてきているわけで、そんなに簡単に改善ができるならすでにやっているわけです。リソース(教育を行うための資源)が大きく変わらなければ、現場でできる抜本的な改革など限られています。リソースは時間と金とルールとでも言えるでしょうか。他の表し方をすると、
「教師の能力と数」「ハード的な環境」「法的な環境整備」などでしょうか。これらは現場の教師には容易に早期に変えることはできないリソースです。また、どれを変えるにしても大きな予算や覚悟が必要となり、どれもさして変わらないままに長い年月が過ぎてきています。

それらが簡単には変えられないので、細かい改善に走りがちになります。日本的「修正主義」です。修正の結果、賃金不払いでも働く教員がリソースとして投入され、多忙化がどんどん進んできました。

3 PPPPPDDDDCCCAサイクルになっていないか

「A(改善)」が見つからないまま、Pが乱立し、D→C→Aと、尻すぼみになってしまいます。あまりに業務が多様化・複雑化しながら多忙化が進んでいるため、個々の仕事が雑になり、Dが混乱します。Cをしている暇がありません。学校のPDCAサイクルはなかなかうまく回りません。

無理に何かを変えようと修正主義的に「P:ピーチクパーチク」して、何だかわからないままに「D:どうしたらいいのー」となってしまう。あるいは実行が曖昧になってしまった。結局「C:ちょっとだけ評価してみようかね」となり、評価してみたけど成果は挙がらず、ついに「A:あきらめムード」でろくな案が出ない。・・・となってしまっていませんか。

そして改善が曖昧なまま、また、無理に次年度も継続をして無理なまま「P(計画)」をしてみる。しかし改善方法が曖昧なので気分が乗らなくなってきて実行がさらに曖昧になる・・・。現場にいるとよくあるパターンです。限られたリソース、限られた授業時間の中で、あれもこれもと手を出して充実を試みようとしても、あれもこれもいい加減になってしまうのがオチです。

○○教育とつくものを列挙すると、

人権教育、環境教育、キャリア教育、情報教育、防災教育、平和教育、福祉教育、消費者教育、食育、性教育、国際理解教育、命の教育、心の教育、図書館教育、ふるさと教育、防犯教育、健康教育・・・(ある方のFACEBOOKのタイムラインから一部借用させていただきました。本当はもっと「○○教育」が書かれてありました)

と、多岐にわたる分野からの教育への要請があり、これらの一部に対応するだけでもたいへんな労力になってしまっています。一説によると、「○○教育」という類の言葉は100を超えると聞きました。さらに、「言語活動を充実してほしい」「道徳教育を充実させてほしい」「地域との交わりを」「小学校と中学校の連携を」「スポーツ活動の充実を」と、事細かい要請が次々に寄せられる中、いったい何が大切なのかがわからなくなってしまっているのが現状です。もちろんこのほかにも音読が大事、計算が大事、あいさつはどうなの、姿勢を何とかさせないと、給食の返却が遅くなっているんじゃない?等々、反省が山盛りでそれらに対処するための「P(計画)」は無定見に乱立します。
もう少し具体的に例を挙げて書くと、

4 PDCAがうまく働かない例

【ケース1】

「P(計画)」・・・・・朝の「職員朝集」の時間帯に子供達に学習をさせている

が、学習態度が悪いから交代で廊下で立ち番をしよう

「D(実行)」・・・・・職員朝集の連絡を受けられないまま立ち番をする

「C(評価)」・・・・・立ち番をしても騒がしいクラスがある

「A(改善)」・・・・・立ち番を2人制にしよう

【ケース2】

「P(計画)」・・・・・漢字ができない子供が多いので漢字検定を受けさせて意識改革をしよう

「D(実行)」・・・・・児童費を徴収して漢字検定を受ける

「C(評価)」・・・・・上位の一部の成績は上がったけれど、下位の子供達の成績が結局あまり変わらない

「A(改善)」・・・・・居残り学習と夏休みの補習を強化しよう

【ケース3】

「P(計画)」・・・・・(職員室で)インフルエンザが流行っているので毎時間の換気と手洗いうがいの注意喚起を

「D(実行)」・・・・・(教室で)日番に換気と手洗いうがいの注意喚起を頻繁にする

「C(評価)」・・・・・どれくらい換気と手洗いうがいが頻繁になったのかはわからない。インフルエンザは結局流行したけど、換気と手洗いうがいの注意喚起との因果関係は不明。

「A(改善)」・・・・・来年はもっと換気と手洗いうがいの注意喚起しよう

実際の学校ではこんな感じでPDCAサイクルが進んでいく感じでしょうか。一般社会からすると、何だか滑稽に映るかもしれません。子供の学級会で問題の解決法を話し合った時のよくある結論「もっとみんなで注意をしてがんばる」とあまり変わりがありません。

実際に学校評価にのぼってくるもの、こないものを含めて、こういうケースが事細かく毎年繰り返されます。そして、成果が挙がったのかどうかはわからないまま事業は継承、ガンバリズムが奨励され続け、リソースがつぎ込まれ、多忙化が進みます。

乱立した「P(計画)」をこなすリソースが不十分で「D(実行)」はいい加減になり、不満が募った「C(評価)」となり、結局「A(改善)」は見つからないまま事業は継続。PPPPPPDDDDDCCCAサイクルといった状況が長く続いています。

5 教育の評価は難しい

下手な判断(評価と改善)が横行したり、下手な評価計画を立てたりすると、勤務時間はますます長くなる一方です。サービス残業が常態化すると教員の思考停止状態が悪化し、とりあえず「来た球を打つ」といった惰性で仕事を進めてしまうようになってしまいます。

教育の効果というものは測定しにくいものがあり、曖昧になりがちです。効果を測定しようとしても、毎年教師も子供も入れ替わっており、毎年、事情が違った中で起こる出来事を、比較のしようがありません。漢字検定を導入したからと言って、たまたま優秀な児童の集まっている学級が良い結果を残しているかもしれず、明らかな教師側の指導力の差が見つかるとは限りません。もしかすると成績優秀な学級が漢字検定対策で漢字にばかり時間を割いて、他の学習をおろそかにしていたかもしれません。学年が違えば、それまでの積み上げの差があります。そのほか、様々な教育効果の測定には、複雑な要因がからんでおり、単純な比較は難しいです。

6 難しいからと言って評価がいらないわけではない

評価が難しいので評価をし出すとどんどん細部をイジり回すことになってきます。学校のHPなどを見ると、かなり長々とした学校評価の結果を発表しているところがあります。最近は保護者や子供・地域の評価も学校評価に加えてやっていこうということがほぼトップダウンで現場に降りてきます。これにどれだけの労力をかけて、どれだけの意味があるのでしょうかと疑問に思ってしまいます。全国学力テストも様々な問題を指摘されています。抽出調査でいいのか、悉皆調査が必要なのか。問題の内容は妥当なのか。そもそも、5年生のレベルの問題を6年生の4月の時点でテストしています。他の学年については調査されていないわけです。

でも、難しいから評価はしなくてもいいという話ではありません。評価の評価も必要なのかもしれません。時間をかけすぎずに重点を絞り、優先順位をはっきりさせるような評価方法を考えていかなければ、評価自体が重たい業務となり、本務をむしばんでいくことになりかねません。

7 「C(評価)」を重視したイメージ

そこで、次の2点を重視するといいと思います。

①「P(計画)」が乱立しないように

「P(計画)」が乱立しないように計画を立てる前に、事前に評価を行う。前例や学校運営全体への影響等を精査し、簡単に新しい計画を導入をしない。

総合的な学習が導入された時、一部の先行研究をしていた学校で「総合的な主体的な学びを導入したことによって子供達が学習に必要な漢字や計算を自分で学び始め、漢字や計算の成績も上がった」という成果があったことが話題となりました。しかし、そんなことがどこの学校でも起こりうる保証はありませんでしたし、実際、総合的な学習導入後には学力低下の問題が噴出し、先行研究校の実践の成果は一般的な学校に当てはまらなかったことが実証されました。

新しい方法、新しい事業を導入する際によく検討もせずに飛びついてしまうことが教育現場では多々あります。新しい事にチャレンジするのが悪いとは言いませんが、一部の学者や権力者の大きく強い声に押されて、事前の調査も十分ではないままに新しい方法や新しい事業が無定見に導入されてしまいます。

身の丈に合った計画ができているのかどうかということを検証しないと、いつまでもみなそれぞれがピーチクパーチクと理想を追い求めてPが増えていくばかりです。

いきなり新しい方法や新しい事業を導入するのではなく、前例や先行研究校を少しずつ増やし、そこで得られた評価を再び自分の学校、自分のクラスでの導入に生かすという考え方が必要だと思います。「中学校での給食」や「学校選択制」「学び合い」「デジタル教科書」など、どれも魅力的なように聞こえる半面、先行研究校・先行実践校でどのようなマイナス面がピックアップされたのかを十分に情報収集し、新規導入が現状にそぐわないようであれば見送るぐらいの覚悟がなければいけないと思います。

こういった行政規模での新規導入時や改革時はもちろんのこと、クラスや学年で「百人一首大会」をやってみようなどといった企画を新たに導入する場合も同じです。事前に「百人一首大会」に要する時間と人手と予算がどの程度かかるのか、それがどれだけの成果を生み出すのかを調査もせず、ただ「よさそうだからやってみよう」では、失敗に終わってしまうことが多いです。(せめて、WEBで確かめたうえで経験者に聞いてからにしましょう)

数年前から一般では「人材アセスメント」「環境アセスメント」といった言葉が使われるようになっており、事前の評価が重要視されています。

②重点的に項目を絞り込み、評価を行う

また、後でも述べるのですが、あれもこれもと評価が総花になってしまっており、項目が多くどれも抽象的で、数値で表すと5段階なら4か3、4段階でも3か2をつけてしまうようなものばかり、評価結果に顕著な傾向が出ないことが続くというパターンもよく見かけます。「A(改善)」が見当たらないのであれば、それはずっと続くことになります。

そうであれば、今年度の(あるいは向う数年度の)重点的に評価する項目を定め、その項目については細分化・具体化して徹底的に評価するという姿勢も必要でしょう。「とにかく3年内に、「あいさつ」が見違えるほどできるようにする。」など、目標を持ってやると変わっていくかもしれません。そのために「校門で立ち番をしてあいさつ運動をしてみよう」という生半可な「P(計画)」から始めるのではなく、現状把握を数値的に行う。朝から10人、「おはようございます」を教師側から投げかけて、「目を見て言い返せた」「大きい声で言い返せた」・・・などと、細分化した評価項目を作って経年変化を観察してみるのも面白いでしょう。

PDCAサイクルという「P(計画)」を最初に持ってくる、つまりPを重視したサイクルではなく、CAPDサイクルつまり「C(評価)」を重視したイメージで学校を運営していくよう、発想の転換が求められるのではないかと思っています。

8 ゼロベース改革を

「C(評価)」を最初に持ってくるイメージで、バッサリPを切ってしまうあるいは、何が何でもスリム化させるという強い意志を持つ必要があります。
運動会(あるいは運動会のリレーや組体操・表現運動)、音楽会、造形の会など大きな行事の取り止めも含め、大胆な改善案を打ち出さないと、修正主義に陥って結局何も変わらないまま、止められないまま、Pばかりが増えていく結果になります。昨年と同じ企画を今年も繰り返すという前提を外した「ゼロベース改革」を断行する意識で取り組むつもりで学校評価を行うべきでしょう。

数値目標を立てて、ゼロベースで改革するのがベストなアプローチだと思います。

9 評価自身を評価する

ここまで述べてきたことを実現していくためには、評価自身を見直す機会を持つ事が必要であると思います。

ネットに上がっている数値式の学校評価を眺めてみると、とにかく項目が多く、その割に具体的ではなく、そのため改善点が見つかりそうにありません。

例えば、

対児童 : 学習や生活などについて、学校の先生に相談しやすい。

対保護者: 学校は、三者面談や教育相談等が充実し、相談がしやすい。

対教師 : 三者面談や教育相談の場を活用し、児童生徒や保護者の話をよく聴いている。

という項目を設けて児童・保護者・教師にアンケートをとっている学校がありました。グラフを作成し、昨年比まで載せた上に寸評を加えていましたが、相当な問題がない限り、あるいは相当な改善方法が見つからない限り、こんな質問に対する評価が1年で大きく変わることはないでしょう。このような改善点が見つかりそうにない評価は、3年ごとぐらいにするか、抽出調査とするかのどちらかで十分です。

答えていて嫌になってくるような学校評価こそをスリム化する必要があります。もっと簡単(抽出や数年に一度)にするのもいいですし、アンケートをとるならもっと具体的(最近友達が口をきいてくれなくなりました○○先生に相談しますか?しない人は、その理由も書いてください)にするかのどちらかでしょう。

アンケート作成の手間、答える手間、集計して論評を加える手間が本当に成果に見合っているのかどうかを見直す時期に来ていると思います。

だらだらとピントのぼやけた評価をするのであれば、最近話題になっているQUアンケートを実施するのもいいのではないかと思います。

Q−Uが「いじめ」の解決に役立つ理由

10 すぐにできて成果が挙がることから

評価方法を変えていく必要をもう少し述べていきます。

具体性を欠いた評価を延々と続けても、大きな改善を望むことはできません。現行の学校評価の多くは、項目が抽象的で、回答が真ん中に偏ります。より客観的に、数値的に測れる部分をきちんと測っていかなければ、何が原因で、何を変えるべきで、何を変えれば、どれだけ変わったのかということが見えてきません。

まず、評価をするのであれば、すぐに変わることができそうなことを、そして成果が挙がることを期待できそうなことから評価を始めるべきだと思います。自分たちの実力、リソースの質・量を考えても当面「A(改善)」が見つかりそうにないことをじくじくといつまでも評価してみても、変われないことに苛立ち、あきらめ気分が蔓延するだけです。

とりあえず成果を挙げる方法を ~ 優先順位を考え、絞り込む

でも書きましたが、優先順位を絞り込むために、重点的に何を評価するかを職員間で合意形成していく必要があります。あれやこれやと総花的な評価をするのではなく、「ここを変えたい」と数点に評価を集中させて数年計画(せめて3年)で変えていく姿勢が大切です。できれば、

① 校内、近隣校に「A(改善)」策、つまり「A(アンサー)」を持っている人がいる

② 「A(改善)」策の前例が文献等としてある

項目に関して、徹底的な「C(評価)」を行うところから始めるのがいいでしょう。

11 まずは漢字を。できれば計算も。

では、何から始めればいいのかということですが、私は、まずは漢字を評価するべきだと思います。どの教員も漢字を指導するし、どの教員も漢字テストぐらいはしているはずです。それなのに、どうしてほとんどの学校で漢字に関する評価情報が集約されて共有できていないのか。なぜここおから手を付けないのかが不思議なくらいです。学校評価の中に、

「基礎基本の定着はできているか」

などの項目が見られますが、これでは何のことやらわかりません。できている児童もいれば、できていない児童もいるわけです。基礎基本が何をさしているのかも、わかりません。基礎基本とは、人によっては計算なのだろうし、漢字・文章を書くこと、文字、話をする態度・・・・
どれも大事なのだろうけど、とりあえずは、漢字に絞るところから始めればいいのではないでしょうか。

このことについては、書き出すと長くなりますので、詳しくは下記リンクをご参照ください。

学校評価(2) ~ まずは、漢字を評価するところから

漢字・計算・体育の評価は簡単に評価が取りやすく、変化が分かりやすく、「A(改善)」策がきちんとあるので成就感を持ってCAPDサイクルが回りやすいです。基本的な学力であるため、全校の子供達の力を底上げすることになり、成果が大きいです。ぜひ、個人ででも、全校的にでも、トライをしてみてください。

12 学校評価には「勤務時間の適正化」の項目を

最後に学校評価の評価項目に必ず入れるべき内容について書いておきます。

多くの学校が学校評価の結果を保護者・地域に向けて発信するようになりました。学校HPに載せている学校も少なくありません。発信することへの是非についてはここでは言及しませんが、学校評価の際には必ず評価項目の中に「勤務時間の適正化は図れているか」といった労務管理に関する項目を入れておく必要があると思います。これについては、下のリンクを是非ご参照ください。

「学校の多忙化」の改善(業務改善)1 ~「残業の見える化」から始める

評価が行われ、改善点が見つからない場合、現場はリソースの投入に走ります。つまり、人を余分に雇ったり設備や教具教材を購入するお金はないので時間をかけて○○をするという対処に走ってしまいます。ますます多忙化は進み、現場は思考停止状態に陥って本当の改善は進まなくなります。思い切った業務改善ができるよう、スクラップ&ビルドという発想を導入しましょう。何かをやろうとするのなら、それなりの人の「数と質」が求められるはずです。そこを勘案せずにガンバリズムのサービス残業で何とかしようとするから、多忙化から逃れられないのです。きっちりと評価をし、時間的に、人材的に無理なことは思い切って引っ込めてしまいましょう。現実可能なことから(アンサーのあることから)始めるべきなのです。

学校の多忙化を冷静に把握し、多忙化を防ぐことを念頭に置いてこそ、「改善点に優先順位をつけて絞り込む」という思考が働き出します。総花的な評価にリソースをつぎ込んで改善・・・では決して学校・学級は良くなりません。

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