~新教科「21世紀スキル科」の開発~ 研究概要編 町田市立鶴川第二小学校

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目次

1 はじめに

本記事は、文部科学省の研究開発校に指定(27年度指定)されている東京都町田市立鶴川第二小学校の実践です。鶴川第二小学校では思考力(メタ認知力・適応的学習)を育成するための「21世紀型スキル科」を設置しています。研究内容や21世紀スキルについて、理論研究部長である鈴木綾花先生(6年生担任)にお話を伺いました。
*参考 文部科学省HP
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kenkyu/htm/02_resch/0203_tbl/1306331.htm

「21世紀スキル科」について、研究内容を教えてください。

一言で言うと、基礎力・思考力・実践力といった21世紀型能力の中核となる思考力からどのように実践力につなげていくか、ということについて研究しています。
昨年度までの研究では、教科横断的な論理的思考力等の汎用的スキル(思考のすべ)の育成を目標としました。(写真参考)各教室に比較分類関連付け(結びつける)のマグネットを用意して、子どもに3つのスキルを身につけるということを意識付けしました。


(昨年度(26年度)研究 「思考のすべ」)

本年度(27年度)は、上記の「思考のすべ」を基盤として、教科における自己や他者からの学びを見直し振り返るメタ認知力や、日常生活から問題を発見し、それを解決・発信していく力を育成するための指導や評価について研究を進めていきます。
研究を進めるにあたって、まず21世紀型能力とは何かを知るために、文献や文部科学省の報告などから、これから日本ではどのような教育が進められていくのかということを調査しました。また、文科省からおりてくるものだけでなく、それぞれの教職員がこれからの社会を生きていく子どもたちにどのような力を身につけさせたいのか、ということを学校全体で話し合いました。

研究における2つの重点

1つ目は「メタ認知力」です。

メタ認知力とは、自分とちょっと遠くから自分を見ている自分がいて、その自分が自分を振り返った時に、「あなたはこの力が伸びたよ」と言ってあげるようなものです。「自分を外からの視点で評価する力」「子どもが自分自身を振り返って、成長した部分を認識できる力」と言ってもいいでしょう。
身に付けるべき力を明確に意識させるため、まず「生きていく上で必要な力は何か」ということを児童と共に考えました。(写真参考)

児童からは「自分ができることを見つける」「仲間と支え合う」「あきらめずに努力する」「情報を分析する」「物事を組み立てる」「思いやる」などの複数の力が挙げられました。さらにこれらを分類し、主体性・協調性・思考力の3つに整理しました。その中から担任が協議し、6年生の本単元において重点的に伸ばしていくべき力を決めました。(資料P3)児童の実態と単元の特徴を鑑みて決めました。これらを単元の導入時に児童に提示するだけでなく、教室に掲示したり、単元の要所要所で確かめたりすることで、児童が自分自身を振り返り、成長を実感しやすくなるようにしました。


(単元の評価規準)

何かに夢中になっていると、気づかないことなので、授業の最後に「あなたはどういう力が伸びたんですか」と聞き挙手をさせ、自分自身に振り返らせます。しかし、子どもたちの実態として周りの評価を気にして、手を挙げる時に周りを窺ってしまう傾向があります。これを改善していかないと、正しい自己評価が出来ず自信がつかない。子どもに自信を付けさせるためにも、まずは正しく自分を振り返るためのメタ認知力を身につけさせたいと思っています。

2つ目は「日常生活や社会、環境に問題を見いだし、自分事として考えること」です。

今まで学校の教育の大部分は、教科や授業の枠の中におさまる内容に重きを置かれていたと思います。しかし、学習の対象を学校の中だけで閉じないで、日常生活や社会、環境に問題を見いだすことが求められていると思います。例えば6年生「平和」はすごく広いテーマですが、そこに自分との関わりを見出しながら考えさせます。5年生は水をテーマにスキル科の学習をしますが、水を通して、自然や環境と自分自身との繋がりを考えます。「環境問題って大変なんだね」と他人事にするのではなく、「自分と結びつけたらどうなるんだろう?」「自分の生活をこうしていかなくちゃいけないよね。」と気づける子どもたちになってほしいという願いから、学習のテーマを広く設定しています。
そのテーマが「自分自身」「自分と他者」「自分と自然」「自分と社会」の4つです。この中から学年の実態を鑑みて単元に仕組んでいきます。(写真参考)

6年生の「平和」の学習テーマは「自分と社会」との繋がりに当てはまります。「平和とは、誰かがつくってくれるものではない」「戦争も、人を憎む気持ちや疎外する気持ちといった日常の自分と関わっている」など、自分と社会とのつながりを意識できるようになることを目指しています。
以上2つが研究の大きなテーマです。このように、単元を通して常に自分と対象との関わりを追究していくという学習は、単に「イベントを成功させよう」ではなく、いつも自分の在り方を見つめ直しながら思考力・実践力を伸ばしていけるのではないかと考えています。

「21世紀スキル(汎用的能力)」と人格の形成はどのように繋がっていると考えていますか?

人格の形成にゴールはないと思いますが、学校では、知識を関連させる力や自分で調べる力など、世の中で生きていく力を授業で身に付けさせたいです。
集団の中でうまく関わりながら自信を持って生きていく力などの、道徳的な力も重要だと言われます。汎用的能力と人格の形成をうまく絡め合わせて授業をしないといけないと思います。
スキル科では主体性・協調性・思考力の3つの観点で目標を立てていますが、3つの観点の中で自分の弱い点を認識することが大切なのだと思います。例えば、自分は考える力が弱い・思いやる面が弱い・人と関わる力が弱い・主体性が弱いなど、自分の弱いところが認識できると課題意識を持って生活をするようになります。自分の特性を意識しながらバランス良く育ってほしいです。

21世紀スキル科について、児童の声を聞いてみました。すると、「楽しい」と答えてくれたので、その理由を聞いてみると、「考えることが多い」「全員で高まっていく感じがする。それがクラス、仲間のまとまりに繋がっている」と教えてくれました。

スキル科を始めてから児童たちの意識は変わりましたか?

私は、普段の授業からスキル科のような授業を進めていこうと意識しています。自分たちでやりたいことを決めて良いなどと、委ねられている部分が多いと、児童はやりがいを感じ、だからこそ力を付けていけるのではないでしょうか。また、普段の授業で発言できない児童にとっては、スキル科では授業の進行を任せてもらえているから楽しいと思ってもらえているかもしれないです。
普段も、学校生活全体のことを児童たちに委ねています。児童たちは「どうせ先生たちが決めるから自分たちの意見を実行できない」と思いがちです。しかし、「学校を変えられるのは6年生。学校をよりよくできると思えることはどんどんやっていい。」と伝えると、児童は驚きますが、自分たちに何ができるか考え始めます。例えば、「最近、学校全体で挨拶ができていない」という意見が出たので、児童からは「あいさつ運動をしよう」「実行委員で取り組もう」などアイデアが出ました。やってはいけないことがあると思っているとアイデアは出てきません。子どものアイデアを無駄にしないためにも、「自分たちで何をするか決めて良い」と伝えることが大切だと考えています。
児童には「日常生活は問題だらけ。自分の興味のあることで追究していきたいことや気になったことは自分で調べたり解決したりすることを普段から心がけるべきだ」と日頃から伝えています。


(本年度研究内容の整理図)

参考資料

「資質・能力を育成する教育課程の在り方に関する研究」研究報告書1~使って育てて21世紀を生き抜くための資質・能力~(国立教育政策研究所 平成 27(2015)年 3 月)

概要版PDF

全体版PDF

授業編、研究資料の記事はこちら

「~新教科「21世紀スキル科」の開発~ 授業編 町田市立鶴川第二小学校」
https://edupedia.jp/article/56938095a6f0633798b6f500

研究資料
https://edupedia.jp/article/5693a038a6f0633798b6f535

2 編集後記

最近よく耳にする「21世紀スキル」や「メタ認知力」について分かりやすく解説してくださりました。
「21世紀スキル科」と同様、児童に判断を委ねる場面が増えると児童の学ぶ姿勢も良い方向へ変えられるのではないでしょうか。そして、「学校って楽しい」「もっと勉強したい」と思う児童が増えると期待できると考えられます。

また、前年度までの研究の成果を基に、教師や児童のさらなる成長を模索し続けている研究姿勢が印象的でした。これから、「思考のすべ」を身につけた児童の、どのような姿を「主体性」「思考力」「協調性」とみなし、どう評価していくのか。学校全体の教育課程としてスキル科をどう位置づけていくのか。これらを明らかにしていく研究が期待されます。

(EDUPEDIA編集部 大和信治・白川真帆)

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