1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
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2 実践内容
なぜ自分たちの工場で作らないのだろう
三菱電機に見学に出かけた時のことです。工場のわきに「通函」という箱がありました。冷蔵庫の部品のようです。よく見ると「○○工業株式会社藤枝市横内○○番地」とありました。どうやら藤枝市の関連工場が三菱電機に部品を納めているようです。
このことを取り上げ、学習を進めていくことにしました。
三菱電機では、藤枝市の工場から部品を取り寄せていました。
「自動車つくる工場では全ての部品を自分たちの工場で作っているのでしょうか。」
こう問うと「うちのお父さんは小糸で働いているよ」という子がいました。小糸といえば、自動車のライトをつくることで有名な会社です。教科書を見ると自動車でも部品を関連工場から取り寄せることがわかりました。そこで、
自動車会社は自分たちの工場で、なぜ全ての部品を作らないでしょう。
と尋ねました。
- 他の工場に作ってもらった方が早く作れると思うから。
- 工場の関係で、専門のものをつくることができるから。
- 自動車工場で作るとただでさえ時間がかかるのに、もっと時間がかかってしまうから。
- 一つの工場では大変だし、ライト専門とかシート専門の道具や材料など全部作ると、いろんな種類の材料を集めなくてはならない。
- 人が多いということは工場も広くしないといけないから。広いと歩く距離も長くなるから無駄な動きが増える。
- どのくらいの人数が必要か分からない。分担して部品を作れば、正確に情報も伝わると思うし、人も落ち着いて仕事ができると思う。
- 全ての部品を工場で作ったらお金がかかる。
このように出てきた考えを分類してみると〈時間〉〈人〉〈機械〉〈お金〉〈無駄をなくす〉という5つの理由に分類できました。
大工場は無責任か?
前回の授業で、大工場ではすべての部品を作らずに関連工場で作っているということがわかりました。この大工場と関連工場の関係について考えてみました。
大工場は自動車の部品の全部を自分たちの会社で作りません。自動車だったら、ライトは小糸、ドアは永田部品のように関連工場で作ってもらっています。
教科書を見ながら、自動車はいくつもの関連工場に部品を作ってもらっていることを説明しました。こうしてたくさんの部品を関連工場に作ってもらっているのだけれど、売る時にはトヨタとか、日産などの自動車会社の名前だけを使って売っているという話をすると「そんなのずるい!」という声があがりました。そこでこんな風に尋ねました。
大工場は部品を作ってもらっているのに、売る時には自分の会社の名前をつけて売っています。部品づくりを関連工場に任せている自動車会社は無責任でしょうか。
教科書や資料集を見ながら、自分の考えを作ったところ〈無責任〉〈無責任ではない〉と両方の考えに分かれました。
〈無責任〉
- 大工場は自分たちばかりお金を儲けて、がんばってやっている人を利用しているみたいだ。そして、自動車会社の人ばかりでなくなってきたのではないかと思う。
- 他の会社もがんばっているのに、組み立て工場ではない。他の会社がかわいそう。
〈無責任ではない〉
- 関連工場と自動車会社は協力していて、関連工場は部品を作って自動車会社は仕事を分担している。日産とかトヨタは代表の会社。
- 自動車会社は細かい部品まで作っている暇はない。
このように自分の考えを作ったところで、同じ考えを持つ同士で作戦タイムをとって話し合いを行いました。
自動車工場は無責任か責任ではないか、全員で話し合おう。
まず先陣を切ったのは〈無責任〉でした。
〈無責任〉
- 組み立て工場の名前ばかりが入って関連工場の名前がない。立場の強い人が仕事をさせているみたい。
- 自分たちは部品を作らないで組み立てばかりしていて、楽をしている。
- 自動車を売ってそのお金をもらっていて、自分たちばかりお金もうけをしているじゃないか。
- 関連工場で作っているのにその名前は使わないで、大きな自動車工場の名前を使って販売しているから。
〈無責任ではない〉
- 大きな会社と関連工場は契約しているから、無責任ではない。
- 他の会社に任せた方が正確に作ってもらえる。
- 専門で作っている方がレベルが高くなるし、安心できる。
- 関連工場は、大工場を支えるとあるから関連工場と大工場は協力し合っていると思う。
- 決められた数を時間までに届けると歩くから、無責任ではできないと思う。
- 役割分担をした方が早いし、組み立ても早い。工場が代表の名前で売っているからいい。
このような話し合いからジャストタイムや品質管理のチェックをしていることに気づいていきました。
新潟県中越沖地震を題材にして
7月に新潟県中越沖地震が起きました。この地震で自動車エンジンのピストンリングをつくる「リケン」という会社が被災し、部品をつくることができなくなりました。この影響を受け国内の自動車メーカー12社すべてが一時生産中止に追い込まれる非常事態が発生しました。このことを題材に大工場と関連工場の関係について考え直すことにしました。
まずは新聞の見出しを少しずつ見ていき地震が起きて自動車が作れなくなってしまったことを話しました。クラスの中にも「地震の時、お父さんは会社が休みになったよ」という子がいました。そこで、
新潟で地震が起きたのに、どうして新潟にはない自動車会社で自動車をつくることができなくなってしまったのでしょう
と尋ねました。「リケン」がピストンリングで圧倒的なシェアを占めていることも説明として付け加えておきました。子どもたちは次のように考えました。
- 車やライトだけ作っても、エンジンにつけるピストンリングがないから意味がない。
- 部品だけたくさんできても、車がないから余ってしまう。
このように部品が一つでもないと車を作れないことを確かめました。これからもこうした事態は十分考えられます。これからの自動車づくりについて考えてみることにしました。
これからも関連工場に作ってもらうべきか
新潟県中越沖地震の影響を受け国内の自動車メーカー12社全てが生産中止に追い込まれました。こうした事実に基づいて、これからの自動車づくりについて考えました。
これからの自動車づくりも部品を関連工場に作ってもらえばいいでしょうか。
この問いに対して〈作ってもらえばよい〉25人〈違うやり方の方がよい〉5人でした。子どもたちはすぐに自分の考えを持てたわけではなく「難しい」「迷うなぁ」と悩みながら、自分の考えも決めていきました。最初の考えは、
〈作ってもらえばよい〉25人
- 自分たちで全部作らなくて、他の会社で作っても信頼されているから。
- 自動車会社と協力しないといいものが作れないから。
- また違うやり方だと慣れないし、遅くなってしまうから。
- その方が早くて、丁寧に出来るから。
〈違うやり方がよい〉5人
- もし、またこういうことがあったりして、他の会社が休みになったとしたら、仕事も余ってしまうし。ごちゃごちゃしたりするから違うやり方がいい。
- 作れるものは自分たちで作った方がよい。
- こういうことが起きたときに、自分たちで作っていないと大変になるから。
こうした考えを持ったところで話し合ってみることにしました。
これからの自動車づくりはどうしたらいいか話し合おう。
まずは〈作ってもらえばよい〉〈違うやり方の方がよい〉〈考え中〉のそれぞれのグループに分かれて、同じ立場同士で考え深めていきました。こうして考えを深めたところで意見交換をしました。まずは迷っている人たちから。
〈考え中(迷っている)〉
自動車会社と関連工場は協力するといいものができる。でも地震が来ると工場がストップしてしまうし…
関連工場の大切さがわかりつつも、地震が来た時ストップすると困ってしまうことを指摘しました。次に違うやり方について発表してもらいました。
〈違うやり方がよい〉
- 自分たちで作れるなら、自分たちで作った方がよい。
- 地震などが来て工場がストップすると、皆に迷惑がかかるから自分たちでつくる。
- 自動車会社と関連工場が合体して一つの会社にしたらよいのではないか。
〈違うやり方〉の人たちは、自動車会社で作ればよいという考えでした。
〈関連工場に作ってもらえばよい〉
- 関連工場じゃないと部品をつくるのが遅くなってしまう。
- 自分たちが選んだ関連工場なんだから、信用してあげないといけない。
- 協力した方が早くて丁寧に出来る。
このような考えが出されました。そこにこの間を取ったような意見が出されました。
- 関連工場を2つに増やしたらいいんじゃないか。でもお金がかかるしビミョウ。
- もっといっぱいそれぞれの会社を作れば大丈夫なんだけれど、車の部品は3万個くらいあるから、地震がこなければ無駄になってしまうし…
- 遠いところに工場を作れば、地震とかは大丈夫だけれど、社員もたくさんになってしまう。
このように、プラス面とマイナス面の両方が出されました。なかなか結論を出すことはできませんでした。実際のところはどうなのか。トヨタ自動車の人をお招きし、話を聞くことにしました。
トヨタ自動車の人の話を聞こう
別の工場に同じ部品を作ってもらっても、地震が来なければその部品は使わなくて、無駄になってしまいます。生産数を調整するのも難しいです。そこでこれまでと同じ会社に作ってもらうのだけれど、地震や災害に強い会社を作ってもらうことをお願いし、支援をしていくことにしました。
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
4 書籍のご紹介 (シリウス関連)
クラスがぎゅっとひとつになる!成功する学級開きルール&アイデア事典
5 編集後記
実際におきた事例をもとに、大企業との分業体制がなぜできているのか、その真相に迫り、社会の仕組みを理解していく流れが面白いと思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 河村寛希)

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