坂本良晶氏インタビュー【関西教育フォーラム2018】

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目次

1 はじめに

この記事は2018年11月25日(日)に開催された関西教育フォーラム2018「学校×塾×家庭で対話する"その子らしさ”を引き出す新時代の教育」終了後に、登壇者の坂本氏、葛原氏にお話しいただいた内容を編集・記事化したものです。

2 インタビュー

本日、登壇したご感想をお聞かせください

坂本:登壇者の中で、自分だけが現場教員の代表なので、少し緊張しました。今日のメッセージを受けて、少しでも来場者の皆さんが教育現場を改善する参考になれば幸いです。

学校組織を改善するためには

学級をティール組織化するために、どのようなアプローチが必要だと考えますか?

坂本: 学級をティール組織化(講演録参照)するためには、教員が子どもたちに自律的な学習を促すための仕掛け作りをしていくことが大切です。
この仕掛け作りは、子どもが一人で自転車に乗れるようになるプロセスと似ています。最初は、大人が自転車の後ろを抑えないと子どもは一人で自転車に乗れずに倒れてしまいます。しかし、大人が徐々に手を放していかないと、いつまで経っても子どもは一人で乗れるようにはなりません。学級づくりもこのプロセスと同じことが言えます。つまり、教師が「この子どもは無理だろう」と決めつけて一方的に教え込むのではなく、子どもたちを信じて任せ、徐々に手を離していくことが必要です。以前、2年生のクラスで私は一切手を出さずに子どもに学級会を開催させたことがありました。子どもたちは15分間の内、7分は誰が司会をするかで揉めていたのですが、残りの8分で黒板に議題を書いて立案し、クラスみんなで話し合いをしたうえで、多数決を採ることができました。私自身、何も手を出さなければ失敗するだろうと思っていたのですが、やり方を教えて、信じてみると、子どもたちは自律的に学び学級を運営できるようになります。

葛原: 子どもたちを信じて任せて認めてみるという試みをする際に、教師自身が子どもの学びとは何か本質的に考えることが大切です。学校現場では、手段の目的化ということが往々にして起こります。学級をティール組織化するためには、一人ひとりがある手法を採ることによって子どもたちにどんな力が身についてほしいのか考えないと次のステップには進めません。

校長ではなく一人の若手教員として、学校の組織をよりよくするためにできることは 、何だと思いますか?

坂本:Twitterやブログ、本などで情報発信を続けることです。今、全部やろうはばかやろうという本を執筆しています。長時間労働に苦しむ先生、育児に追われるママ先生、そして板挟み状態の管理職の先生等に読んでいただければと考えています。手にとっていただければ幸いです。

生産性を上げるには

多忙な中で、教師はどのようにして子どもを伸ばしていけると思いますか?

坂本:教育の現場では、あれもしなきゃ、これもしなきゃと、何でも大事にしようと考える教師が多くいます。しかし、そういう教師は、子どもの成長に繋がる仕事が何か見極める余力がないので、中々成果に結びつかず、やがて疲弊して倒れてしまいます。だから、教師は全ての仕事をこなそうとせずに、子どもの成長に本当に大事な仕事に力を注ぐことが大切なのです。
全ての仕事をはりきってしようとせずに、優先順位をつけることです。教育の生産性を向上するために大切な視点は、単純に、無駄な仕事を省いて、業務効率化を図るだけでなく、子どもの成長に繋がる仕事を見極めて取り入れることが大切です。例えば、授業前のベル着などは時間の無駄を省くmustな取り組みです。これに加えて、授業前の百マス計や暗唱、漢字テストなど後々、子どもの学力を伸ばす上で大きなリターンとなるbetterな取り組みです。

坂本先生はどのようにして子どもに動機付けをしていますか?

坂本 :例えば、バイク好きなA君がいるとします。A君は勉強が苦手で、普段は全く取り組みません。でも、あるタイミングになるとA君は意欲的に勉強します。それは、バイクの免許を取るときです。免許試験に合格しないとバイクに乗れないので、そのために勉強します。つまり、テストのために勉強するという必然性があるのです。
一方で小学校の授業は漠然と毎日が過ぎていき、テストに合格するという必然性がありません。だから、子どもがテストに合格したい、百点を取りたいと思えるように動機づけをすることが大切です。例えば、僕は授業の最後にその日に習った漢字テストをするようにしています。その日、満点を取れなかった児童は、その分、家で学習してきます。そして、二日目にも同じ漢字テストをします。このことによって、授業中の学び、宿題に取り組む必然性が生まれます。

葛原:まさにその通りです。楽しいからするという動機付けだけでは、学びが楽しく感じられないとき、児童は学びへのモチベーションを持続させることができません。だから、自分の将来に役に立つから必要だという動機付けも必要なのです。今している勉強が将来に直接影響を与える学びなのだということを教師が伝えることが大切です。

読み書き・計算といった基礎学力を身に着けることがしんどい、やらせること自体が難しい児童をどのように伸ばしたらいいと思いますか?

坂本:組織には2:6:2という法則があります。学級の上位層の児童が全体の、2割、中間層が6割、下位層が2割という考え方です。この子ども中の下位層は、一生懸命勉強しようとするが結果が出ないウォーカーと勉強する気が全くないライダーに分類できます。ライダーウォーカーに戻すのは簡単ではありません。だから、ウォーカーライダーにならないように予防することが大事です。教師は、児童が基礎学力を確実に身に着けられるよう気を付け、内容を理解していないところがあればその都度、きめ細やかに教えることが大切です。

これからの教育

教員が子ども一人ひとりの”その子らしさ”を引き出すためにできることは何でしょうか?

”何とかバカ”をとことん尊重することです。例えば、数学者のフィボナッチは、幼少期から”数字バカ”でなんでもかんでも数える癖がありました。でも、フィボナッチは、数学の分野で社会に大きく貢献しました。基礎と同じくらい、尖らせるところを尖らせることが大事だと思います。

これからの教師に必要な力とは何だと思いますか?

児童の学習をデザインする力です。学年ごとで、確実に目指さなければいけない地点は明確にあります。ただ、その目標までの距離は子どもによってちがいます。だから、教師はコーチとして、子どもを洞察し、それぞれが目標点に対してどの位置にいるのかを見極めてマネジメントすることが求められます。教師が知識を子どもに教える"Teaching"子どもが自ら考え答えを出す"Coaching"のバランスが大事です。 "Teaching""Coatching"それぞれに相性があり、教師は学習をデザインする上で使い分けることが大切です。
今、児童の学習をデザインする上でどちらの手法が適切なのか常に目的を意識するようにしましょう。

教師を目指す学生へのメッセージ

今日のフォーラムを聞いて教師になるかどうか迷っている学生に、一言メッセージをください

Yale大学のAmy Wrzeniewski教授によると仕事は三種類に分類できるそうです。

  • calling 天職
  • career 出世
  • job お金をもらう行為

教師はCallingにたどり着ける仕事です。自分の成長や自己実現に繋がる仕事を選べる人は少ないと思います。大変なこともありますが、数少ないCallingに到達できる仕事だと思うので、ぜひ、教師になることを目指してみてください。本日はありがとうございました。

3 プロフィール

坂本良晶氏(Yoshiaki Sakamoto)

京都府公立小学校教諭

採用8年目、京都府立公立小学校教諭。
ビジネス界のマインドや手法を取り入れ、子どもと教師のwin-winを目指した『教育の生産性改革』に関する発信を、約1年前からスタート。
Twitterでのフォロワー数は一万人を超え、「さる先生の『全部やろうはバカやろう』」が重版を繰り返し、教育書ベストセラーに。
全国から多くの教員が集まった教育フェスwatcha!では、春の京都、夏の東京共に登壇。
また、前職ではくら寿司の店長として全国1位の売上を誇るなど異例の経歴の持ち主。

坂本氏のブログはこちら
  Twitterはこちら

書籍情報

4 関連記事

◆関連記事はこちら◆

【講演録】

【フォーラム後インタビュー】

また、この記事は関西教育フォーラム2018の連携企画となっております。以下の記事も併せてぜひご覧ください。

5 編集後記

教師の仕事は多岐に渡るが、天職に繋がるとてもやりがいのある仕事だというお話を聞き、感動しました。教師の働き方改革と子どもの学力向上の両立は全国どの学校でも重要な課題だと思います。坂本先生の実践を、ご参考にしていただければ幸いです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 内山翔太、潮龍太)

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