本記事は、2019年4月6日に行われた陰山メソッドセミナーの内容をまとめたものです。陰山ラボ代表の隂山英男先生による実践ポイントの紹介や参加者への模擬指導が行われました。
目次
- 陰山メソッドとは
- メソッド導入のポイント
- 指導のポイント(音読・百ます計算・漢字学習)
1 陰山メソッドとは
いかに教師が効率的な指導(手抜き)をして、子どもの成績を伸ばすかが大事です。教材を創意工夫しないといけないと思っているから、現場が苦しんでしまうのです。手抜き命です。最も効率的な学習法は、流れ作業です。
陰山メソッドの特色
- 即効性がある
- 方法自体は簡単で講師でもできる
- 継続による蓄積効果がある
- 応用力・活用力の土台となる
徹底反復と集中速習の概念
徹底反復学習とは、「音読や計算、漢字など基礎学習を徹底的に反復することで、学習全体に関わる集中力を獲得する学習」です。
集中速習とは、「徹底反復で培われた基礎力を土台に、集中して速く学習すること」です。授業を高速に進めることで学習に対して主体的な構えを作り、なお成績を上げる指導方法です。
ゆっくり教えてはいけません。子どもが「先生にゆっくり丁寧に教えてもらえる」と感じてしまったら、子どもはより学習スピードを下げてしまいます。教師の話が高速になればなるほど、子どもは前のめりになって聞こうとします。
2 メソッド導入のポイント
1.数値データ収集と分析
子どものつまずきには具体的なポイントがあります。その把握のために、百ます計算の結果や漢字の定着率など数値的データを絶えず取りながら子どもの状況を分析し、指導に役立てることが必須です。
2.データの共有と集団的指導
各学級や学校で得られたデータは、学校内部や地域の関係者に公開共有し、集団的に指導します。そうすることで、指導の相乗効果や継続効果が生まれてきます。この指導の大きな特性は継続することで、その成果は低学力の完全なる克服や学習障害の改善など、大きな成果を生みます。
3.先進校視察
陰山メソッドは、従来の指導の概念とは大きく異なる部分があります。それだけにその効果を理解するには先進校の視察が最も有効です。できる限り多くの関係者が視察することで、集団的指導が可能になってくるのです。
成功の鍵はリーダーのマネジメント力
このように陰山メソッドの指導は単なる授業の方法ではなく、学校や地域全体で継続的に取り組むもので、校長や教育長を中心としたマネジメントの力が決定的に重要になってきます。
校長や教育長は、学期に1回程度、関係の学級や学校の状況に対して漢字の定着率や百ます計算調査を行い、指導の進捗を把握することが最も重要です。そして、この調査により実態に応じた助言や支援を行います。
教育委員会のマネジメント
- 市内一括のメソッドと教材採択
- 学級単位でのデータ収集
- 長期的展望に立った実践
学習効果を高めるには、毎朝10分~15分の帯時間で実施することが望ましいです。注意点として、月曜日は音読、火曜日は計算、水曜日は漢字・・など曜日によって内容を変えないで下さい。毎回「音読・計算・漢字」などのセットで行って下さい。子どもは1つのことに集中すると大人を凌ぐ爆発的な力を発揮します。ところが、飛び飛びにいろいろなものをやってしまうと頭が混乱してしまうのです。
(学校マネジメント 関連記事)
・校長・教育委員会の学校改革~隂山メソッドの取組~(福岡県 飯塚市立飯塚小学校)
・基礎的な学力を伸ばす~モジュール学習を通して~(岡山県高梁市立有漢西小学校)
3 指導のポイント
○音読・暗唱
音読・暗唱は、言語の習得には非常に有効であり、子どもの声を鍛え発表力を伸ばします。
音読のテキストは「徹底反復音読プリント」を使います。後の学習や高度な読みにつなげるために、古典や現代詩を多く収録しています。実は、低学年の子が一番喜ぶのは「論語」なんです。身体を揺さぶりながら読む子も多くいますが、リズムがよいのでしょう。
また、暗唱は絶対的な目標にする必要はありませんので、初めは音読をしっかりと繰り返し「できれば暗唱しよう」くらいの構えで指導すると子どもへのプレッシャーも和らぐでしょう。
以下の手順で指導します。
暗唱指導
- 1行ずつ教師が範読し、続けて集団で子どもに読ませる
- 慣れてくれば、今度は子どもだけで集団で読ませる
- 子どもが各自で1~2分練習する時間をとる
- 個人がどこまで暗唱できるかを、希望または指名によりチェックする
発声
- 教師は子どもの中に入っていき、適切に声が出ているか確認する
- 子どもの発声は、大きさを強調するのではなく、正しい発声の枠の中で声を大きくしていく
- 音読の前に毎回発声練習をするのも効果的
- 慣れたてきたら読むスピードを上げるが、口の開け方が崩れるのはNG
姿勢
- しっかりと顔を上げ、背筋を起こして読ませる
- 必ず目線を固定させる(この時に目線が崩れる子は集中力が無い子です。教師や教材文に目線を統一させることで、一瞬のうちに集中力を上げることができます)
ちなみに私はアナウンサーを目指していましたので、発音・発声はものすごく得意です。口の形を自在にコントロールしなければならないです。教師の身体能力が子どもの学力を伸ばすという意味で、学習は身体論とも言えるでしょう。
暗唱は楽しく
音読練習の時に本文を隠していた子がいたら、その子を褒めます。「おっ、文を隠してたね、もしかして覚えたの?」と言って褒めると真似してくる子が出てきます。そうしていくうちに、集団全体に「自分も覚えよう!」という意識が生まれてきます。
次に、個人で暗唱チェックですが、「1人で読んでもらいましょう!」と言っても誰も手を挙げないことがあります。そんな時は、手を挙げたいけど挙げられない子を見つけるのです。出来そうな子を見つける観察力が指導の肝です。
そして、一番最初に1人で音読した子にはプレッシャーがかかるので、「一等賞、拍手~!」と言ってたくさん褒めてあげ下さい。そうすると、次の子からは楽しい雰囲気で暗唱にチャレンジしていきます。
○百ます計算
算数学習における計算作業の比率は大きいものです。その計算学習の能力を上げることで、子どもの学習の負担を大きく減らすことが出来ます。百ます計算の目標タイムは、1・2年生で2分以内、3年生以上は1分30秒以内です。字が雑にならないように、1分10秒以内にはしないようにします。字は「速く綺麗に」書かせます。
百ます計算の大原則
初めて百ます計算をする時には「同じプリントを最低2週間」は続けます。
大事なことなので、もう一度言います。「同じプリントを最低2週間」は続けます。
よく「答えを覚えてしまうのではないか?」と聞かれますが、計算の答えを覚えさせてよいのです。なぜなら、百ます計算とは計算を通じて集中力を高めていく取り組みなのです。頭の中で答えを記憶し、頭の回転を高めていくことで計算力が向上していきます。ただし子どもたちの負担になりすぎないように、無理がないようにして下さい。もちろん誰でも初めから速く出来るわけではありません。その子に応じた目標を立ててあげるとよいでしょう。苦手な子には丁寧なフォローがないと、むしろ自信を失っていくので気をつけて下さい。
集中のスイッチを切り替える
百ます計算をすると集中して脳を使うので疲れます。その負荷を鎮める方法が「深呼吸」です。3秒吸って1回息を止めて8秒で吐く。これを3回繰り返します。
○漢字
漢字テストで毎回80点以上は確実に正解できるようになれば、すべての教科のテストの点が上がってきます。ですから年度の早い段階でこれが達成されれば、授業の進捗が進み、教師も子どもも学習が楽になり、発展的な内容にも主体的に取り組めるようになります。ですから特に重要なのは「新出漢字の集中的な前倒し学習」になります。
書き順指導の手順
- 5秒~7秒で、自分の手元で空書きして書き順を覚える
- 2人ペアでAとBに分かれる
- Aグループの人が1文字5秒で空書きし、Bが書き順をチェックする。間違えていたらBは「アウト!」と言ってあげる。その後Bグループが書き、同様にチェックを行う
- 全員で書く
全員で書く時に5秒で書けなかったら覚えていないということです。5秒で書けることが大事です。実際にやってみると分かると思いますが、5秒は意外と長いでしょう。この長いという感覚が大事なのです。5秒を粗末にしなくなります。これが集中力のなせる業なのです。
たくさん漢字練習をしてはいけない
一般の指導からすると逆説的に聞こえますが、子どもに漢字をたくさん書かせてはいけないのです。練習に時間をかけてはいけません。余裕を与えてしまうと、人は必死にならないからです。必死にならざるを得ないから覚えるのです。
学習の仕方が身につくと、コツを掴んですぐに覚えるようになっていきます。中学年以上には「プリントを1回見たら覚えるように」と伝えます。実際、漢字を音読した瞬間に覚える子も出てきています。
熟語
漢字学習のゴールはテストで満点を取ることではありません。漢字と熟語の意味を捉え、使えるようにすることです。しかし、熟語はすぐに覚える必要はありません。学年末に覚えていればいいので、どんどん間違えましょう。熟語テストは80点で合格としてやっていき、間違えた言葉を覚えるようにしましょう。
(漢字指導 関連記事)
4 隂山メソッドに関する著書
・『陰山式 ぜったい成績が上がる学習法』(毎日新聞出版 2016/7/30)
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