「ごんぎつね」で新美南吉は何を伝えたかったか

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作成者: matsui (Edupedia編集部)さん

1 子どもたちの「読み」

「ごんぎつね」は長い期間、教科書に採用され、多くの日本人が読み親しんだ作品です。つぐないの半ばで、ごんが兵十に撃たれて死んでしまう場面は、多くの人の記憶に残っていると思います。

兵十は立ち上がって、なやにかけてある火なわじゅうをとって、火薬をつめました。そして、足音をしのばせて近よって、今、戸口をでようとするごんを、ドンとうちました。
ごんは、ばたりとたおれました。
兵十はかけよってきました。うちの中を見ると、土間にくりが固めて置いてあるのが、目につきました。
「おや。」
と兵十はびっくりして、ごんに目を落としました。
「ごん、おまいだったのか、いつも、くりをくれたのは。」
ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。

多くの小学生がこの物語を読み、学習する時に、この結末に対して
「ああ、何てごんはかわいそうなのだろう」
という気持ちになることでしょう。

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「青い煙はごんの魂が空に上がっていくように思える」
「音もない空間に青い煙があがっていることが、悲しみを表している」
「ごんは無念だっただろうなあ」「ごんはうれしい気持ちもあったはずだ」
「いや、ごんが死んだとは限らない」
「生き返らせたい」
など、子供たちは様々な感想を持ちます。

教科書は4年生の教材として採用していますので、この結末に関して議論をさせて子ども達に理屈をこねまわさせるのもどうかと思います。特にこの最後の場面は授業で議論の形で話し合って子供の感性に混乱を与えるよりも、物語そのものが持つ力にお任せして「私はこう考える」を聞き合って終わりにするくらいの方が良いかもしれません。ごんが死んでいるかどうかについて論争するのはあまりお勧めできません。

2 なぜ悲劇なのか~作者について知る

子ども達も高学年になれば、「作者の意図」を汲みながら考えさせることができるようになってきます。4年生では難しいかもしれませんが、5・6年生で思考力が培われている学級集団なら、

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「どうして新美南吉さんはごんを死なせてしまったのだろう」
「どうして新美南吉さんはこんなに悲しい話を作ったのだろう」

という疑問について考えさせるのもいいかもしれません。教科書は4年生教材として扱っていますので、5年生か6年生では投げ込み教材として、「ごんぎつね再考」をしてみるのです。
このとき、余裕があれば、作者・新美南吉のことも調べてみるとよいでしょう。

この物語がはじめて世に出されたのは昭和7年だそうです。新美南吉が19歳のときです。昭和5年には中国との15年戦争がはじまっており、「ごんぎつね」は世の中が戦争ムードへと大きく傾き始めている中で書かれています。

新美南吉は幼少の頃、けっこうつらい思いしたようです。実母は新美南吉が5歳のときに死に別れています。父親は新しい母親と結婚しますが、家庭環境は複雑で、あまりうまくはいっていなかったようす。一時、養子として祖母に預けられたこともあったようです。子供時代は決して幸せではなかったのではないかと思います。仕事や就職にも苦労し、22歳のときには喀血して、健康不安もあったと思います。

詳細は下記、「新美南吉記念館ホームページ」等で知ることができます。

http://www.nankichi.gr.jp/index.html

下記のホームページでは「実に生な人間の感情を見せている」と、新美南吉の意外な側面もレポートしています。

http://underzero.net/html/tz/spm_03_03.htm

ごんが「ひとりぼっち」であることには、新美南吉の子供時代の孤独感が影響していると考えられるでしょう。ちなみに、「てぶくろを買いに」の優しい母親狐像も、幼くして母を亡くしたことが影響しているようにも思えます。「ごん」は「新美南吉」の分身(ぶんしん)でもあるのでしょう。そんなごんを新美南吉は物語の最後で殺してしまいます。よりによって友達になりたいと想いを寄せていた兵十に撃たれるという悲劇的な結末。作者にとっては寂しいごんが兵十と友達になり、仲良く暮らすことができる場面で話を終わらせるという選択肢もあったはずです。なのに自分の分身を、わざわざ殺してしまいます。

ここまでの背景をかいつまんで子供たちに話した後、
「新美南吉はなぜこの物語を悲劇に終わらせたのか~新美南吉は読者に何を伝えたかったのか」
を、5年生の子供たちに考えさせるという授業をやってみました。
まずは4年生の時に学習した内容を思い出し、悲劇的な結末についての感想を出し合いました。その後、どうして南吉が悲劇的な結末を選んだのかを話し合います。子供たちの話し合いは、紆余曲折しましたが、

  • おそらく新美南吉は自分のつらい経験から、わかり合うことのできないつらさを読者に訴えたかったのではないか
  • 新美南吉はラストシーンをどうするか、非常に悩んだと思います。
  • 死んだけど、意識を残していたので兵十がくりに気づいたことを確認できたのはよかった→よかったというよりも、新美南吉がせめてそんなふうにしたのではないか。
  • 読む人へ「仲良く暮らそう!」というメッセージを伝えたかったのではないか。
  • うらみや思いこみが決して人と人をつなぎあわせることはができないことを表したかった。
  • 早まって人を殺したり傷つけたりしてはいけない。
  • つぐないの大切さ。→じゃあ、なんで殺した?→死んででも償わないといけないことがある。
  • ごんを死なせてでも、読者がわかり合うことを大切にしたいという気持ちになってくれることを望んでいたのではないか
  • 人に嫌なことをしてはいけない。→いたずらや火縄銃(ひなわじゅう)では、決してしあわせにはなれない

等の意見が出てきました(1部は授業後の感想の中で)。子供はけっこう鋭いです。5年生なので時間を確保できず、2時間の授業でした。少々、私(教師側)の誘導が働いて強引だったかもしれません。発言できたのは、感受性が強く、読みが深い子供たちでした。

中には「いや、ごんが死んだとは限らない」という意見を再燃させる子供もいて、「死んだということとして考えてみようか」と修正を加えなくてはならない場面もありましたが、大体の子供は新美南吉が意図を持って物語を構築していることに気付き、作者の意図を考えながら物語を読むというひとつの読書の方法を学ぶことができました。5年生になって4年生の教材を再度引っ張り出すことは異例ですが、4年生の時よりも客観的に読む視点を経験させるというのは、よい学習になったと思います。4年生の先生方もこの物語については丁寧に授業をされていたようで、子供たちも興味を持って新美南吉とこの物語の結末について意欲的に考えることができたと思います。

3 作者の意図を考えながら読む

教科書によく掲載されている宮沢賢治の「やまなし」や「注文の多い料理店」も、作者の強い想いが盛り込まれているように思います。今後の学習にとって、作者の意図を想像するきっかけになればいいと思います。
授業の初めには、こんなふうに「読書の仕方」について話をしました。(できれば6年の4月あたりにしたい授業です…)

  1. 自分の読みを深める
  2. 他人の読みと比べる
  3. 作者の意図を考える

といった物語を読みを広げていく方法を身につけさせる経験になったのではないかと思います。


小学生の子供に作者の意図を考えて読ませるということに対しては、賛否両論があると思いますが、少なくとも教師は作品を分析する上で、作者の意図や時代背景を含めて、深く読み込む必要があるのではないかと思います。

4 新美南吉の最期

授業の終わりに、新美南吉の最期を紹介しました。

昭和18年1月はじめから新美南吉は床に伏し、3月になると喉の痛みがはげしく、20日頃にはほとんど声が出なくなってしまいました。病の床で新美南吉は「私は池に向かって小石を投げた。水の波紋が大きく広がったのを見てから死にたかったのに、それを見届けずに死ぬのがとても残念だ」と絞り出すように繰り返したそうです。29歳7ヶ月、春の朝に南吉は亡くなりました。昭和18年と言うと、戦争が激しくなって敗戦へと傾いていく時期です。新美南吉の作品・「ごんぎつね」が広く国民に知られるのは戦争が終わってからのことです。

・・・・・作者の没後60年以上を経て今なお子供たちに読み継がれているというのは、「ごんぎつね」という作品の力の偉大さなのでしょう。

コメント
  • 高橋さん、コメントありがとうございます。 arataさんへのレスにも書いているように、私はこの記事で、作者意図を考えさせる授業を熱心に推しているわけではないです。それぞれの感じ方の違いを共有した授業の後に、作者の生い立ちや時代背景を元に、作者の意図についても想いをはせてみる機会を持つという程度の授業です。押しつけにならないようには注意しなければいけないと思っています。 子どもについてどうこうというより、あまり新美南吉さんの生い立ちや作品の背景をご存じでない若い教員の方々にこの記事を読んでいただけるといいかなと思っています。教師が物語教材を授業で取り扱う場合は、作者の意図に関してはある程度自分なりの考えを持っておく必要があると思っています。 高橋さんのおっしゃる「子ども達の自由な感想を共有する授業」の実践例も是非、記事にしてご紹介してください。

  • matsui (Edupedia編集部) (6/29 17:31)

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