隂山英男先生インタビュー(五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』)

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目次

1 はじめに

本記事は、2017年5月21日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』の後に、登壇者の隂山英男先生(一般財団法人基礎力財団理事長)にインタビューをしたものです。

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大学教授に聞く!「大学の学び」と「大学入試」

2 インタビュー

 五月祭教育フォーラムを終えて

 はじめに今回のフォーラムを終えての感想をお聞かせください。

大学入試については私の専門分野ではないので、むしろ他の登壇者から様々な意見を聞かせてもらうという立場で聞いていました。大きな時代の流れを反映した大学入試改革を、ゆとり教育を経て目に見える教育における変化として感じていました。

 他の登壇者のお話を聞いて何か思ったことはありますか。

現場を回っておられる山内先生からの想定外な発見や学びは多かったです。我々にとって新しい改革というのは基本的には望ましい方向と思っていましたが、山内さんはそう簡単に上手くいくはずないだろう、ということを現場の感覚から持っておられます。

 具体的にどんなところが想定外でしたか。

一番ショッキングだったのは、2020年の大学入試改革によって高校がトップ校、底辺校に二分化され、中堅高校が大きな打撃を受けるという指摘を聞いたことです。受験生は「高等学校基礎学力テスト」と「大学入試希望者学力評価テスト」両方の試験を受けるものと思っていましたが、そういうものではないということが分かって驚きました。

 教育の地域間格差については、どう思われますか?

そうですね。地域間格差や学校間格差などがありますが、ここ10年間の中で一番顕著になってきた課題の一つがこの地域間格差の問題かもしれません。格差という言い方をすると「良い」「悪い」の話になってしまうので、地域間の「違い」と言ったほうがいいですよね。
個性化と呼んでしまえば「違い」を作ることにもなります。格差という言い方はあまりしたくありませんが、地域による「違い」が、教育の質に悪影響を及ぼしていく危険性はあると思いました。

 学習の個別化と個の確立について

 今回のフォーラムでは「学習の個別化」という話がありましたが、個性に関して陰山先生はどう思われますか。

これから「学習の個別化」が進んでいくことを願っています。全体的に気になったことは、今までの教育方法が問題だからこう変えますという強い論調があることです。しかし、私はそれほど日本の教育というものが抜本的に変えなければいけないほど悪いものとは思っていません。抜本的に変えるということは、上手くいっているものを改悪してしまう危険性もありますからね。そして学習の個別化の中で何をもって基礎基本とするのかが広く議論されなければならないと思います。

 あくまでも基礎教育が徹底されている上で具体的な学習が必要とされているということでしょうか。

そうですね。深い対話をするにしても、「違い」がなければ対話できません。対話的な学習が強調されていますが、個人的には違和感を覚えます。「はっきりとした個の確立」ということがあまり言われていないような気がします。
確かに違いを認めるのは大事だけれども、まず違いがあるかどうか。確立された個性がなければ違いも何もありません。
教育基本法は人格の完成をうたっています。身近な言い方をすると、個人として自立することが本来の教育の目的であって、あくまで対話的で深い学びというのは目的ではなく手段の問題だと思います。対話的深い学びが役に立つのは受験勉強ぐらいで、初等教育でそんなことをしていれば個の確立は成り立ちません。確立された個の重要性の核になるのは知識、知的好奇心です。

 知的好奇心を引き出すというのは、個の確立という面からでも非常に大切だと思うのですが、実際に学校の現場の教員が知的好奇心を引き出すような授業を普及する、作っていくために具体的にはどのようなアプローチが必要ですか。

私は教科書にない内容もやることだと思います。教科書は基本的な情報しか掲載されていません。教科書で基本的な情報を学習したうえで、知的好奇心によってそれを掘り起こしていく。私はそのようにしてきました。しかし今度は教科書から完全に離れてしまったら学力評価が公正にできません。

 そうですね、そうすると教育において生徒に対する評価の役割とは何ですか。

教育の種類、方法によっては、評価になじまないものもあると思います。公平性が問われる客観テストで一定の学力が担保されていれば、あとは大学側と受験生のお見合いのようなもので、大学は本当に来てほしい受験生を取るという流れになっていきます。
今後、より一層大学の個別化が進んでいくと予想されます。そういった点で大学がポリシーとして何を打ち出していくのか、マネジメントの力が問われます。それこそが大学入試改革の本来の目的です。

 教師の魅力と学校組織の問題点

  日本の初等中等の教育指標は世界最低の教育費で世界最高の結果を出しているので、批判されるところはないはずとおっしゃっていましたが、それでも批判が集中してしまうのはどうしてでしょうか。

皆が初等中等の本当の問題点を分かっていないからです。例えば、教員採用試験の年齢制限が59歳と定めている地域もあるいうことはあまり知られていませんが、これは笑えない問題の1つですよね。

 日本の初等中等の問題の1つに「若者の教師離れ」が挙げられますが、どう思われますか。

減っているというよりメディアの影響によって減少してしまっているといったほうがいいかもしれません。実際、学校の先生が問題を起こすと大きく扱われます。むしろこの10年間でいじめなどに対して現場の先生がどれだけ真摯に取り組んできたかということをきちんと評価しなければならないと思います。

 フォーラムの中で学校組織として効率性や風通しの悪さを問題視されていましたが具体的にどのような部分が該当すると思いますか。

学校が特殊で閉鎖的な空間になっている上、それを改善しようとしていません。この問題を解決するためにはマネジメント能力に長けている人が校長になるしかないと思います。校長は責任が取れますが、教員は取れません。また、地域の人やメディアに対して積極的に情報を発信できる能力を持っていなければなりません。本来は教育委員会がそうできるようにしなければならないはずです。情報を外に出させないようにする、問題を起こさせないように縛る、ということは非常に悪循環です。

 情報を開示することは同時にリスクを伴う可能性がありそうですが、リスクを冒してまで行うにはどういうメリットがあるのですか。

実は、日常的に地元の新聞社や放送局と協力し、情報を発信している学校もあります。そういった学校は人間関係やコミュニティを日頃から作っています。そのため地元のメディアは懸命に活動している学校を悪く報道しようとしません。 
しかし学校のマネジメント方法は日本ではあまり確立、注視されていません。マネジメント力のある人は構造的に校長にならないことが多いです。

 皆さんへのメッセージ

一つはっきりしているのは「時代が大きく変わっていくこと」です。それが良いか悪いかは各個人によって異なると思いますが、具体的に何がどう変わっていくのかを受験生も親も理解していくことが必要です。表面的に批判だけしていても何も良いことはありません。これからは、知らないではすまされない時代になるでしょう。

3 隂山英男先生のプロフィール

陰山ラボ代表(教育クリエイター)/一般社団法人基礎力財団理事長

1958年生まれ。岡山大学法学部卒業後、兵庫県朝来町立山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し脚光を浴びる。内閣官房 教育再生会議委員、文部科学省中央教育審議会委員、大阪府教育委員会教育委員長などを歴任。

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