鈴木寛先生インタビュー(五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』)

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作成者:加藤 舞 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2017年5月21日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』後に、登壇者の鈴木寛先生(元文部科学副大臣)にインタビューをしたものです。

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隂山英男先生インタビュー
山内太地氏インタビュー

2 インタビュー

今までの学校教育で行われてきた授業について

——今までの学校教育で行われてきた授業の有用性について教えてください。

例えば総合的な学習の時間というのは課題解決の力を磨けます。同様に社会科は、状況整理や問題解決の参考になるような学問で、公共は特に基本的にそれに資するようなものです。またそうした問題を整理するうえで国語や数学の基礎能力というのは非常に重要になってきます。正確に言葉で表現、議論することができるかどうかで変わってきます。結局板挟みを解くというのは連立方程式を解くというのと同じです。社会で起こっている現象を、どういう風に方程式として理解できるかですよね。そういう意味で数学は非常に重要です。

またこれから文部科学省が特に重要視しているのは、概念知識の理解です。例えば、コンフリクトやジレンマというのはどういうことを意味するのか。概念をどういう風に理解して現実に当てはめていくかが、今回の学習指導要領改訂でとても強調しているところです。つまり具体化と抽象化のスキルを身に着けるということです。

このスキルを身に着けるために、例えば授業の方法としてディスカッションだけでなく経済現象をきちんと描写するということもありますし、あるいは社会現象を法学的なフレームから記述しなさいというのもできます。このような訓練は小学校の段階から始まります。例えば、文章題は現実の出来事を数式にできるかということでしょう。あるいは日記を書いたり文章を書いたりというのは世の中の出来事を整理するということですよね。言語活動はその基本です。

——今までの教育にもその要素は含まれていますよね?

言語活動の充実というのは現行学習指導要領に明確に描かれている通り、今までの教育にも当然含まれています。それは15歳の日本人の読解能力が世界一という数値が指し示している通り15歳段階では、ある程度その能力は身に着けているのに、その後が伸び悩んでいます。15歳以降の教育において、特に学力層におけるトップ層が弱いということが問題です。世界の中で日本の学力層の平均をみるとさほど危うくはありません。また下位層も世界で見たら全く低くなく、むしろ日本は最も高いです。つまり日本の学力層は全体的に真ん中によっているということですが、これは例えばアメリカとは全然違います。アメリカのトップ大学というのは留学生がたくさんいますからね。彼らはお金があって奨学金をたくさん出せるので、優秀な教員と学生を集めることができます。

学力問題の改善方法について

——では、大学にコストをかけることでトップ層を引き上げることができるということでしょうか?

そうです。ST比を改善するために投資が必要です。日本の高校や旧帝国大学のコストパフォーマンスは世界一なのです。例えば東大の学費はハーバードの10分の1ですし、慶応は7分の1です。にもかかわらず世界ランキングでは半分以上にいるのですから、コストパフォーマンスは約5倍、7倍です。ですから後の問題は経済面だけです。学費を上げると人が集まらないという意見もありますが、国や卒業生が出したらいいのではないでしょうか。かかるコストとそれの負担の話は分けて考えてみると、例えば東大の学費は、実際は54万円ですが、それとは別に国がたくさんのお金を出しています。東大の医学部には1億円国が出しており、日本の医学部にかけているお金はアメリカに負けていません。WHOによると日本の医療の質は世界一でレベルは非常に高いです。コストパフォーマンスがいいからですね。ただその代わり大学教員がしかるべき報酬をもらえていないという問題があります。その結果、優秀な教員を海外から連れてくることがほぼ不可能です。東大教授の方でも年収1000万円ももらっていないと思います。

——文系教育においても同じようにできないのでしょうか?

教育にもっと予算をかけるか学費を上げるかしかありません。増やさなければ教員の数は増えず質の高い教育を提供できないからです。それに教育は教員の質だけではなくて学生の質もとても重要です。アメリカでは優秀な人材に対して奨学金でスカウトしている一方、日本はスカウトする原資がありません。アメリカにはそのための原資がありますし、学生ごとに払う金額が違います。それが嫌なのであれば大学に来なければいいという考え方を持っているからです。

——日本の国立でその制度を導入することはできないのでしょうか?

世論次第ですね。学生が行動を起こして世論を動かすことは非常に有力です。大学執行部は世論を敵に回すことにとてもおびえているので、大学からアメリカのようなメリハリの利いた授業料にするという提案をすると、バッシングされるのではないかとものすごくおびえます。だから学生の側から提案するのはとても有力ですね。

——就職と大学ブランドの関係についてどう思われますか?

私は就職と大学のブランドはこれからますますあまり関係のないものになると思っています。例えば新卒採用でも今ではITや金融の世界では崩れていっています。また大学名を伏せて採用している会社も最近は多くなりつつありますね。結果として実力の高い学生が多いであろう東大や慶応などの大学が一流企業に就職する割合が高いというだけです。むしろ最近の企業は冷徹で、例えば慶応を出ていても企業の基準に満たないものは採用しない会社も多いです。学力レベルの高くない大学の学生たちは、学歴のために企業の説明会すら参加できないという事実もありますが、それは相対的に基礎学力や判断能力が落ちている可能性が高いからであって、採用する際のコストパフォーマンスを考えてやっていないのでしょう。

相対的に基礎学力や判断能力が落ちている可能性が高いと言える根拠は、その大学が行う入試の中身にあります。今やまともな記述式で入学選抜を行っている大学は東大や一橋、京大、慶應などだけですよね。ちゃんとしっかりしたものが書ける人というのは、どんな大学を出ていようが就業能力は高いでしょう。ですから思考力や判断力が高い人というのは、しっかりとした記述式の入試問題を出す大学にいる確率が高いです。大学で選んでいるのではなく、能力で選んでいるのです。つまり大学名を伏せて採用しても一流大学が増えるのは当然ですよね。一方そうではない大学の人は書ける人が少ない。つまり大学入試に向けた勉強の過程が、最終的に採用されるかどうかにかかわってきていたということです。

しかし、これからの改革によって学力レベルの高くない大学の人でもアピールできるようになります。なぜなら改革後のセンター試験には記述式を設け、3割はAO・推薦にするからです。思考力、判断力、表現力や主体的に多様な他者と協働する力は企業も重視しているからです。

教育格差について

——大学入試改革で問われる能力が明確になっていると思うのですが、今ある教育格差についてどのように変わっていくと思われますか?

格差は引き続き存在し続けます。ただそれが何の格差になるかというと、今は塾に行けるかどうか、つまりその経済力によって変わると思うのですが大学入試改革後については、問題意識の格差になると思います。となると所得の差と問題意識の差とは逆相関する場合もありうるということです。例えば、何か悪いことが起きた場合でも、手を差し伸べてそれを共に向き合ってくれる人に出会えるという機会にさえ恵まれれば、逆境を経た方がいい学習者になります。当事者として壁にぶち当たり、そこで問題解決を図ろうとすることで強い学びや意欲につながっているケースが多いです。ここで興味深いのは貧困問題だけではなく、様々な健康問題や家庭問題も「問題」に含まれることです。これらにおいて経済力はあまり関係なく、裕福な家庭でも直面しうる問題です。このような問題の中で悩み、またそれに相談に乗ってくれる人がいる場合には、いい問題意識を持つようになります。

ただ、逆境に直面した経験をどう問題意識に変えていくかが大事です。その「問題」が「問題意識」に変わるのは、意外にも追い込まれたときなのです。つまり問題意識醸成の必要条件は様々な課題に追い込まれるということです。問題を、ポジティブに再設定してあげられる大人のサポートがあるという十分条件も必要で、それがなければ単に課題を抱えたままの人に終わってしまいます。そここそ、教員がこれから頑張ってほしいところですね。

これからの教員にとって必要になってくるもの

——これから改革後に教員にとって必要になってくるものはありますか?

教員にとって必要になるものは、2つあります。

1つ目は情報です。例えばEDUPEDIAですね。授業の方法は多様で、工夫の余地はいくらでもありますが、例えば50分の授業を、アクティブラーニングをする時間とそうでないものをする時間とに分けられますよね。そうした工夫の手段を、教員自身が積極的に収集することが大切だと思います。昨今では教員は忙しくて時間がないといわれていますが、webサイトで調べる時間はごくわずかですからできますよね。プロなのですからプライオリティーを考えて時間をマネジメントすべきです。

2つ目はコミュニケーション能力です。教員が忙しいといわれていますが、それは上から言われたことをうのみにしているからではないでしょうか。無理なものは無理と現場も主張すべきで、私は生徒だけでなく教員もコミュニケーション能力や交渉能力が欠けていると思います。今回の改革で重視しているものの一つに、コミュニケーション能力があるので、教える側には当然コミュニケーション能力が求められます。

——教員自身が受けてこなかった学習法というものを実際に教えるために何かアドバイスがありますか?

教員自身が受けてこなかった学習方法を用いて授業をするためには、まずは教員自身が新たな学習方法を経験することが必要です。そして、生徒と教師が対話して、その方法を向上させていくのが大事です。またどんないいシステムでも本人の裁量次第で変わりますし、意欲とノウハウと経験で変わると思います。どんな仕事でも板挟みになりますが、そこでどうやって改善してきたかの経験がその人の問題解決能力に生きてきます。多様さを認めて、問題の状況を整理して、自分の頭で考えるのが大事です。教員自体がアクティブになる必要があります。教員自体がアクティブにならないと、そこで学ぶ子どもたちもアクティブになりませんよね。

——最後にメッセージをお願いします。

センター試験に記述式を設けることによって、思考力、表現力、判断力など激動の時代で生きていくための力を中高で一生懸命学ぶことに集中ができ、そうした力が、フェアに大学で評価されるようになります、ということが今回の改革です。今の学習指導要領でも、言語活動が大事と書いてありますが、今のセンター試験に言語活動は出ないでしょう?ですからその単元が飛ばされているわけです。ですから高校の時に思考力や表現力、判断力や主体的に多様な他者と協働する力を磨いてくれればちゃんと大学が評価しますということです。また重要なのは論理的思考能力が高いかどうか、つまり数学ができるかどうかということですね。ですから数学ができない人は有名大学でも就活では内定をとれません。数学と国語というのは本当に大事です。人間が考えるツールとして使うのは、数学で養われる論理的思考能力、国語で養われる言語コミュニケーション能力です。ですから高校生にそういうことをちゃんとやらせておきましょうというのが今回の高大接続改革です。

3 鈴木寛先生のプロフィール

当連盟代表理事/東京大学教授/慶応義塾大学教授/文部科学大臣補佐官
1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。慶応義塾大学助教授を経て、2001年参議院議員初当選。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ、文化、情報を中心に活動。2014年2月、東京大学教授、慶応義塾大学教授に同時就任。日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。2015年2月からは文部科学大臣補佐官も務める。
著書に『「熟議」で日本の教育を変える』(講談社)、『テレビが政治をダメにした』(双葉新書)、『熟議のススメ』(小学館)など多数。


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