【基調講演(山内太地氏)】五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』

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作成者:山田 駿亮 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2017年5月21日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』内で行われた、山内太地氏(教育ジャーナリスト)による基調講演の内容を記事化したものです。

関連記事も合わせてご覧ください。↓
パネルディスカッション(前半)
パネルディスカッション(後半)
基調講演(石川一郎先生)
石川一郎先生インタビュー
隂山英男先生インタビュー
鈴木寛先生インタビュー
山内太地氏インタビュー
大学教授に聞く!「大学の学び」と「大学入試」

2 基調講演

入試改革が行われる背景

ほんの数日前に発表になったばかりですが、今の中学校3年生が大学入試を受けるころには、国語と数学は記述式になり、英語はセンター試験がなくなって、TOEICやTOFLEにとって代わられるかもしれないそうです。なぜ今、入試改革が迫られているのでしょうか。 

我々が受けてきた近代教育は、限界にきています。今まで我々が教育だと捉えてきたものは、先生が一方的にしゃべり、みんなで寝るという、“睡眠学習”だったのですね。そのままでは、これからのグローバル化の進展、新興国の発展、産業構造の変化、人口減少、といった時代の急激な変化に対応できないため、教育内容を変えようということになりました。センター試験は、「高校生のための学びの基礎診断」と「大学入学共通テスト」に分かれます。そして、これまでの入試では「知識・技能」しか測定していませんでしたが、これからは「思考力・判断力・表現力」や「主体的に学習する態度」を測定しようという方向になっていきます。

高校・大学の改革のみで良いのか

小学校や中学校の教育はどうなっているのでしょうか。政府は、2012年のOECDのPISAにおける日本の子どもたちの成績が、国際的に高い水準となったので、小学校と中学校の教育は十分に上手くいっている、との立場をとっています。問題は高校で、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」をバランス良く育むという理念の「学力の三要素」が浸透していません。その元凶である大学入試を、改革しようという動きになっているのです。

高校の格差社会化

センター試験は今56万人くらいの人が受験しているのですが、新しい大学入学共通テストは27万人規模になるという話がネットニュースに出ていました。規模が小さくなるのは、おそらく記述問題をあまり採点したくないからでしょう。そのため、センター試験が新しく2つに分かれると、大学進学者だけでなく専門学校への進学者や就職する者もいる中堅校・進路多様校は、「大学入学共通テストを受けないで下さい」ということになりかねません。大学に行く生徒と専門学校に行く生徒が混在している中堅高校が全て底辺化し、高校の格差社会化が起きます。今回の改革では、中堅進学校が大きく影響を受けるのです。中堅高校は、何としてでも「大学入学共通テスト」を受験できるようにしないと、進学実績が下がってしまいます。

大学教員の負担増加

今回の改革は、大学教員の負担が増えると言われています。これまではペーパー試験のみの評価だったのが、改革後はAOや推薦入試のように、調査書や推薦書、大学志望理由などの書類を見たり、面接やディベートを踏まえて評価する必要があるからです。ただ、ここに潜む問題点は、そもそも大学教員がテストの問題を作り、採点し、さらには試験会場を巡回しているという点です。一刻も早く教員を入試から解放し、教員は研究と教育に集中できる環境を作る必要があります。新しいテストの具体的な内容については、石川一郎先生が基調講演で語ってくださったので省略しますが、塾業界も生徒獲得に必死だから、新しいテストで高い得点を取るための対策を練っています。ですから、今回の改革で本当に重要なのは、大学の授業内容の改革です。

大人数の一方的な授業ではない、少人数のチームワークによる質の高い授業を提供したり、学生が相互に切磋琢磨できる環境を整えたり、学生に対し課題の要求を増やし、厳しく鍛えるために、教員の資質・能力を向上させる必要があります。しかし教育にかける国の予算が減らされています。実現するためには、大学教員自身が犠牲を払って、改革していく必要があります。この点でも負担が増加してしまうのです。

大学の授業改革

例えば東北大学では、学生の6割が、1日1時間程度しか勉強していない、8割が一日一時間以下しか読書していない、5割は教授と会話をしないそうです。なぜかというと、彼らの学習が、親や学校、塾が「やれ」と言ったことしかやらない、受動的なものだったからです。大学はバイキングのように、「やりたい勉強を好きなだけやる」場所です。ところが、受動的な学習しかやってこなかった人たちは、大学で自由になると勉強しなくなるのです。もちろん、全員がダメなのではなく、きちんと能動的な学習習慣がついている人もいます。ただ、受動的な学習しかしてこなかった学生たちを責めることはナンセンスで、大学側の問題も根深いのです。英語の4技能に「読む・書く・聞く・話す」があるのですが、オクスフォード大学教授の苅谷剛彦先生によれば、日本の大学は「聞く」学習ばかり行っているとのことです。教授が話していることを学生がひたすら聞いています。アメリカやイギリスの名門大学では、大量の論文や本を「読み」、レポートを「書き」、仲間や教授と「議論する(話す)」。「読む・書く・話す」の学習スタイルが確立している欧米の大学に対して、日本の大学は「聞く」学習スタイルが中心で、この差は歴然としています。

欧米の大学の授業について

日本の大学は高校のような時間割を設定し、週1回の講義だけ受講すれば、1科目の単位が認定されます。それに対し、例えばアメリカのマサチューセッツ工科大学の1年生は、「物理学」「生物学」「数学」「英語」と、たった4科目しか取らない代わりに、科目ごとに講義が週2~3回、院生とのディベートが週1~2回あります。

また、日本の大学の授業は90分授業が基本ですが、アメリカの大学では、語学は50分授業、他の科目は75分授業などです。90分授業では集中力が続きません。我々が受けている教育は、完璧ではないのです。何でもアメリカが良いというわけではありませんが、日本の大学で行われている教育内容は、批判的に見るべきなのです。

アクティブラーニング

文部科学省が、「アクティブラーニング」を推進しています。これまでの教育は、黙って先生の話を聞くことが中心でした。しかしそれは、教師が出した正解のある問題を、出題者の意図を汲んで効率的に解くことに他なりません。先ほどの基調講演で石川先生がご紹介なさっていた、さまざまな大学のユニークな入試問題も、出題した教師たちの限界を超えることはできません。だから、例えばですけれども、従来型の入試は全部やめて、高校生に入試問題を作らせれば良い。優れた問題を作ってきた人を合格にすれば良いのではないでしょうか。なぜなら、これからの世の中は、自分たちで探した正解のない問題を、みんなと協力して試行錯誤しながら解いていくことが求められるからです。「マクドナルドのハンバーガーが売れなくなってしまった。どうしたら売れるのだろうか?」「シリアの戦争は、どうしたら終わるのだろうか?」など、今の世の中で起きている問題には、正解がないのです。我々が、叡智を振り絞って考えるしかありません。「読む・書く」の勉強も、もちろん大事ですが、これからは「聞く・話す」の勉強をしてほしい。誰かと話したり、他人に教えたり、一緒に学ぶ、という勉強を子供たちにはやってほしいと考えています。
今回の改革はそれを意識しているので、私は高く評価しています。しかし、「新しいテストで良い点を取り、大学に入ろう」と言っている限り、「読む・書く」の発想から抜け出せていません。それでは、これからみなさんに、「聞く・話す」の発想を体験して頂きます。

本来なら正解のない問題に挑みたいのですが、今日は時間がないので、正解のある問題で、隣の人と話し合ってもらいます。問題を出しますので、隣の人と1分間話し合ってください。

問題:日本全国に看護師は何人いるでしょうか。
(山内先生は二択形式で、「10万人以上いるかいないか」→「100万人以上いるかいないか」と、段階を踏んで来場者に尋ね、起立と着席で回答を選択してもらっていました。)
正解は、150万人です。

というわけで、我々の教育に対する常識をひっくり返しましょう。教員が一方的に、教科書通りに授業をやる、生徒全員が同じ授業で同じ時間割、ネットで調べれば分かることを教える、といった従来の常識を疑いましょう。大事なのは、学習の主体は誰なのか、という点です。これまで我々は、教育の主体は教員と捉えてきました。学習者が主役になっていなかったのです。

生徒と教員の学び方

生徒の学び方のキーワードは、自律と共有です。「一人で勉強する」ことに加えて、その成果を友達や先生、家族と共有していきましょう。学校での学習内容が定着しているならば、家族に分かるように説明できるはずです。

そして、教員の学び方のキーワードは、対話と共有です。高校の先生に見られる傾向としては、英語は英語島、物理は物理島、世界史は世界史島というように、各科目に閉じこもっていて、それぞれで100点を取ることを目指しています。一方で、例えば都立両国高校では、ある科目の教師の授業に、他の科目の教師もアドバイスをし、授業内容を改善するという取り組みをしています。

さらに、親の協力による家庭学習がきわめて重要なのですが、現状のままでは文化資本の差が歴然としてしまう点が課題です。

アクティブラーニング実践例

大阪の近畿大学附属高校では、4000人の生徒と教員が全員iPadを持ち、全家庭にWi-Fiが通っています。生徒は、お互いネットでつながっているので、家で勉強していないと友達に筒抜けです。また、この学校は英語の教員だけで28人在籍していて、彼らの教材が全部、全員の生徒のiPadの中に入っています。そのため、どの教員がクオリティの高い授業なのか全校生徒に分かってしまうので、クオリティの高い教員の授業に他の27人が合わせていき、質の高い授業が担保されるのです。

東京の広尾学園では、自分で研究課題を見つけ、学会論文(英語)を読んだ上で仮説を立て、実験を行って検証するという取り組みをしています。例えば、医師や看護師と一緒にワークショップを実施して、自分がなぜ医学部に行きたいのかを深く考えさせています。
ところで、先ほど挙げた二校は名門進学校です。現状では、アクティブラーニングで成功例と言われている高校は、ほとんどが進学校です。もともと基礎学力が高く、能動的な学習習慣がついている学校ばかりなのです。

進学校以外の事例としては、千葉県立袖ケ浦高校を挙げます。専門学校への進学者や、高卒で就職する人もいる進路多様校です。この学校では、情報コミュニケーション科の天野先生のクラスのみ、個人で購入したiPadを使用し、自分で調べてまとめ、発表をする学習を行っています。生物の授業では、実験の様子をカメラで撮り、クラウドで共有したり、生徒自身がプレゼンテーション用のスライドを作成して、生徒同士で教え合ったりもしています。

高校生の年代は、自分の頭でいかに考えて行動できるかが就職にも影響を与えるため、新聞を読んで自分の意見を持って文章を書いたり、親や先生や家族と会話したりといった、能動的な学習習慣をつけるべきだと、私は主張し続けています。

大学の学びを変える

今まで「頭が良い」とされていたのは、親や教師、塾から言われた学習をする、「受動的な学習」でいい点をとった人たちでしたが、これを変えていく必要があります。同様のことは大学においても言えます。大学というのは本来、自分で研究課題を見つけ、情報を集め、論文を書いて発表する場ですが、文系私立大学はほとんどやっていません。一方でシンガポールの小学校では、低学年からプログラミング、ロボット工学、バイオテクノロジー、3Dプリンター工作、資本主義と経済、起業家精神、交渉術、ディベートというものを学んでいます。日本の大学教育の現状では、こういった学習をしてきた人に勝てるわけがありません。大学教育を、チームワーク、リーダーシップ、問題発見・解決能力などの、社会で必要とされる力を身につける場にしていく必要があります。

新たな学習 ブレンディッドラーニングとアダプティブラーニング

盛んに話題になっているアクティブラーニングですが、今更ブームになっている時点で30年から40年、諸外国から遅れを取っているのだと感じて下さい。アクティブラーニング、という言葉で表される教育の良くないところは、「1人の教師に対して40人の生徒が、同じ教科書で、同じ時間割で、同じ授業を受けている」という点です。これでは今までの教育と何も変わっていません。

生徒一人ひとりが伸びているのかどうかということを重視した学習として、一つ目に「ブレンディッドラーニング」という講義型の学習にオンラインの授業を組み込むものがあります。反転学習では動画の授業を自宅で視聴しますが、ブレンディッドラーニングでは、朝学校に登校し、動画の授業を見てから、議論を対面の授業で行います。動画の授業を自らすすんで視聴するほどの意欲がない生徒でも挫折をすることなく、生徒一人ひとりの学びを多様化することができます。

もう一つの方法として「アダプティブラーニング」があります。これは適応学習とも呼ばれ、生徒一人ひとりの進捗に合わせて学習内容や学習レベルを調整し提供されます。

現在、塾業界も、大教室で行う授業形態は不振で、個別指導が盛んになっているので、将来的には小中高も個別指導になってくるはずです。もちろん運動会や文化祭といった、みんなで力を合わせて取り組んだり、あるいは学んだことを議論し合ったりする関係は大事ですが、学習に関しては、個別と集団を組み合わせていくべきです。

新しい試験制度の導入よる負担(高校)

新しい試験は教員の負担が増えることは確実です。高校における対策としては、生徒が能動的に学ぶ環境を作ることが大切だと思います。例えば大阪府立箕面高校では、多くの進学校が実施している補講をすべて取りやめたところ、進学実績が上がりました。なぜなら、TOEFLを使用したアクティブラーニングの授業がきちんと実現し、補習をやらないほど、生徒一人ひとりが家で能動的に勉強するようになったからです。しかしこういった環境づくりは難しく、場合によっては中学や高校だけの授業では限界があるため、教員の負担軽減のためには塾や予備校も必要になってくると思います。

新しい試験制度の導入よる負担(大学)

大学においては、新しい大学入試を導入すると、質の高い学生が入り教育力は上がりますが、教授が採点をする時間が長くなり、研究力が下がります。しかしアメリカでは、大学入試はアドミッションオフィスと呼ばれる事務職員がやるのが一般的です。また、オーストラリアの大学入試はTOEFLのみです。決して真似をしろということで例示しているのではありませんが、我々が正しいと思って行っている教育や大学入試は疑うべきなのです。

疑って、自分で考える

大学入試改革に伴い、各大学や高校、教員、個人一人ひとりがどう生き残るべきかを考えるサバイバルレースが始まりました。決められた制度に従うだけでなく、私たち一人ひとりが自分たちの理想に向かって動いて行ったほうが良い。そして今回、私が基調講演で話した内容も疑って下さい。

受験戦争型の発想を捨てましょう。今までの日本にも、国が与えてきた教育を度外視して結果を出してきた人が沢山いるのですね。芸術家やスポーツ選手や起業家のように、マイノリティと言われてきた人がマジョリティになるように、私たちが発想を変えていくということが、今回の大学入試改革では重要になってくるでしょう。

3 山内太地氏のプロフィール


教育ジャーナリスト/一般社団法人大学イノベーション研究所所長/島根県立大学客員教授

1978年、岐阜県生まれ。東洋大学社会学部社会学科を卒業後、ホテル、出版社などを経て独立。理想の大学教育を求め、47都道府県14か国及び3地域の884大学1174キャンパスを見学。また、年間150件ほど全国の高校で進路指導講演を行うほか、大学・高校のコンサルティングも手がける。

著書に『大学のウソ』(角川oneテーマ21)、『こんな大学で学びたい!』(新潮社)、『就活下克上』(幻冬社新書)、『高大接続改革 変わる入試と教育システム』(ちくま新書)など。




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