【基調講演(石川一郎先生)】五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』

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目次

1 はじめに

本記事は、 2017年5月21日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』内で行われた、石川一郎先生(香里ヌヴェール学院学院長)による基調講演の内容を記事化したものです。

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2 基調講演

3つの問題の紹介

まず、いきなり入試問題から見ていきたいと思います。
 

これは実際に順天堂大学医学部で出題された入試問題です。
いきなり入試会場でこの問題を見せられて、1人でこれに取り組むのはとても大変です。しかし、これを解かなければ入学できないわけですから、受験生はなんとかして答えを探していきます。この問題を解くうえで大事なことは、発想です。今の教育では、こういった、何かを見たときに「どう感じるのか」「どう考えるのか」という問いが死滅しています。「どうやって解くか」という問いは多いと思います。
しかし、この問題の本質は、1枚の写真の中にあるいくつかの要素を取り出し、いかにまとめて話をもっていくかだと思うのです。
 「赤い」ことや「風船」であることがどういった意味合いを持つか考えてみましょう。風船だけでなく、男が階段を登っている(降りている)ことをどう意味づけするのか、さびしいと見るのか笑っていると見るのかなど、解釈は無数にあります。

次は東大の問題です。

さて、この問題で何が問われているのでしょう。これは「60語から80語で書きなさい」という英語の問題なのですが、まずは20語程度で状況を事実に即してまとめ、残り40語から60語で自分が思ったことを述べることが求められ、根拠も加えて、自分の意見を言うということが問われています。英語で言うと、「I think…, because ….」という構造です。
以上の3点が、問いに関して書かなければいけないことです。「過不足なく書く」ということです。

続いて、東大の帰国生入試を見てみましょう。

「世界が東から西に自転したとしたら、世界は現状とどのように変わっていたと考えられるか。いくつかの視点から考察せよ。」

さて、漠然とした問いですが、何を考えればよいのでしょうか。例えば、自転の向きが変わることで、おそらく今までとは海流の流れが変わるでしょう。海流が変われば日本の気候も変わり、気候が変われば日本の農業や生活も変わっていくでしょう。
あるいは時差について、日本は日付変更線のタイミングが早いほうの時間帯から遅いほうの時間帯に変わります。そうなると、日本の経済マーケットというのは一番最後に開くようになります。現在はニューヨークが一番遅く開くので、ここが1日の経済の指標になりますが、日本の経済マーケットが最後に開くようになれば、この役割を日本が担うかもしれないのです。
もっと砕けたことを言うと、マンションを買おうと思ったとき、西日が東日になったり、お日様が上がってくるのが逆になったり、といった発想もできます。

つまり、どういうこと?

 今やった3つの問題なのですが、タイプが違っています。1つ目は発想を組み立てる問題、2つ目は問われたことを過不足なく答えていく問題、3つ目はクリティカルシンキングが問われています。要は、現実に無いことを、「もしそうだったら」と物事をひっくり返して考えます。よくクリティカルシンキングと言いますが、問題にするとこういう例なのです。

帰国生向けの問題というのが、東大にもあります。東大の問題のうち、面白い問題は帰国生向けの問題と推薦入試の問題です。しかしこれらは、日本で育った子どもに関しては、「この問題はハードルが高いだろう」「いきなり出したら、点数が取りにくいだろう」と考えなければなりません。外国で学んだ子はクリティカルシンキングを学んでいるので、この問いを解けるのではないかという思考回路から、このような出題になっていると思われます。

実はすでに、新しいタイプの問題が出題されている

次に、この問題を見てみます。

「親友と最近連絡が取れません。どうやら親友はひどく落ち込んでいるようです。何度か連絡を試みた結果、なんとか明日親友と直接会って話すことになりました。そこではどのようなやり取りが繰り広げられるでしょうか。」

登場人物は、大学生くらいを想定しているのでしょう。相手から返事が来ないと困りますよね。

この問題自体は、やり取りを書くだけではなくて、「なぜ、そのやり取りを書いたのか答えなさい」という問題なのです。「友達から連絡が来ないけれど、相手がどんなことを考えているんだろう。」「僕だったら(私だったら)、こういうことは連絡しないけれど、あの人もそうなのかな。」などと考えて、それをまとめるということなのです。

そしてこういった問題こそが、「正解のない問い」なのです。正解は決まっておらず、相手の中で自分の価値観が問われているのです。「もしかしたら、全く外れているかもしれない。」「この行動をとったら、相手と絶縁になってしまうかもしれない。」ということを考えさせる問題です。これは実は慶応大学医学部の問題なのです。

このように、一部ではありますが、新しいタイプの問題もあります。

新しいタイプの問題に求めること

新しいタイプの問題について、今回の教育改革がどうなっていくかというよりも、教育改革において、子どもたちにこうあって欲しいという理想に注目しています。世の中が大きく変わって、AIが出てきて、そういう中でも生き残ることが出来る子どもたちを育てていきたいということに主眼を置きながら、こういった新しい問題にこだわっていきたいと思っています。

問いの構造とは?

問いの構造について言及すると、海外で一般的に使われるブルームのタキソノミー分類というものがあります。問いの構造を特徴ごとに分類するのです。

「ブルーム・タキソノミー」というのは、色々な解釈がありますが、基本は6段階です。1から6と示してありますが、俗に言う思考、知識、判断や、主体性など、「文科省ワード」が並んでいます。この6段階のうち、今までだとせいぜい、3や4くらいまでの問題が主でした。先ほど、クリティカルシンキングの問題が出ましたが、あの問題は今まであまり取り入れられてこなかったのです。

問いの構造から考える

以上のことをもう少し分かりやすくするため、問いの構造から首都圏模試センターの思考コードで考えてみます。問いの構造は「A・B・C」に分かれています。

問題を紹介すると、今まではAの問題では、ザビエルの写真を見て「この人物の名前を答えなさい」「ザビエルがしたことを正しいものを答えなさい」「ザビエルがしたこととして年代を古い順に並べなさい」など、Aの問題は大半が知識を覚えているか覚えていないかを問う問題なのです。

大学入試でも、定期テストでも、やはりこのタイプの問題が多いです。これを難しくすると、クイズのような「ザビエルが上陸したと思われている場所は日本のどこか」「何年何月に来たか」といった問題が出ます。

Aの問題も必要ですが、このような問題ばかりではいけません。そのため「目的は何ですか。50字で書きなさい」「キリスト教を容認した大名を一人答えなさい」「この政策を行った目的を100字以内で書きなさい」のような別のタイプの問題も織り交ぜてみます。この場合の別のタイプであるBの問題はまとめ、英語で言うサマライズです。「ここに書いてあることに関してまとめなさい」という問題です。

問題構成として、A問題を20%、B問題を80%というパターンが多いです。さきほどの東大の問題はB3の問題です。英語で答えるので、複雑になっていますが、Bの問題が大半なのです。

そしてここで気づいてほしいのは、Bの問題には正解があるということです。日本の今の評価基準であれば、採点しやすい問題なのです。Bの問題を混ぜておくことで、テストの平均点が6割とか7割に落ち着いていくというのが、今までの構造です。

そして、中堅辺りの大学になると、点が取れないので努力すれば点が取れるAの問題を多様化するというのが現状なのです。

しかし、自分が一番重要だと思うのはCの問題です。さきほどのブルーム・タキソノミーで言うと、5から6の問題です。Cの問題を見てください。共通してある文字があるのです。それは「もし」です。if問題、とNHKの方は名づけていました。「もし」というのは、現状にないことを問う、クリティカルシンキングです。

例えばCの図には「もし、あなたがザビエルだとしたら、布教のために何をしますか。具体的な根拠とともに、400字以内で説明しなさい」という問題があります。

将来、役に立つ問題があるかもしれない

これらは、世の中に出ても「使える問い」なのか疑問に思うかもしれません。しかし、「あなただったらどこかに行って何かをする場合、何をしますか」というCの問題は、思いつきだけでは書けないのです。さきほどのザビエルがしたような動き、そのときの日本の動き、日本の歴史を俯瞰して学べていると、この問題はより解答に深みがでるわけです。

よく学校でアクティブラーニングを始めると、思考や発想は進むけれど、知識や基礎学力がなくなって、学力は低下するという議論があります。このように、断片的に切り取るのではなく、新しい問題では「トータルに見積もる力」が重なり、その結果、将来自分たちが生きていく上で学校で学んだことが役に立つということが大事なのです。

これから必要になる問題

AとBの問題に圧倒的に強いのはAIです。人工知能は、答えがある問題は簡単に答えを出すでしょう。しかしCに関しては、無理とは言わないですが苦戦します。そういう意味で、Cの問題がこれから人間が生き残っていく上で必要になっていきます。そのため、日本の大学はCの問題を大いに採用してほしいと思います。

大学入試の現状を考えると、東大の入試も主に日本における教育を受けた人を対象とする一般入試はB3の問題を用い、C問題は帰国生向けにしています。

東大の人も、日本の教育で育つ能力と海外の教育で育つ能力の違いを良く分かっています。一般入試を受ける人もC問題に対応できるように、変えていけるかということが大切になってきます。

新しい問題には、あるメッセージが込められている

さて、変わっている問題の例として、駒場東邦の問題を見てみます。

「今まで算数を学んできた中で、実生活において算数の考え方が活かされて感動したり、面白いと感じた出来事について簡潔に説明しなさい」

これは先生からの数学を通じて何を学んでほしいかというメッセージであり、新しい、根源的な趣旨をとらえた問題だと考えます。この場合新しい手法が大事なのではなく、根源的には何を学んだうえでどうしていきたいのかということを問うていると思います。

今は受験や就職など、何かのために我慢して学ぶという状況です。この問題では、そのような学びではなく、学ぶことで何かに生かされ、感動し、幸せになってほしいということ『メッセージ』として打ち出しているのです。

最後に僕の中学校の入試問題の話をします。

「これからより良い社会にしていくために、あなたはどのような自動販売機を作りますか。またなぜそう考えましたか」

こういった発想を整理していく問題がこれからの新しい問題だと思います。難しい問題を問うだけではなく、途中どういった過程で考えるかを重視します。議論をして、「どのような未来を作っていくか」を考えていくことが大切です。この問題の中の「より良い社会のために」という文章にもあるように、そうした学校側のメッセージが込められています。

これからの学び

これからの学びは、学んだことを多様な人と話し合うことにあります。それを通じて、子どもたち自身が未来を作っていけるような教育をしていきたいと考えています。

3 石川一郎先生のプロフィール

香里ヌヴェール学院学院長 / 21世紀型教育機構理事

1962年、東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクール、かえつ有明中・高等学校などで教鞭を執る。前かえつ有明中・高等学校校長。早くからアクティブラーニングを研究・実践し、「21世紀型教育を創る会」を立ち上げ幹事も務めた。

著書に『2020年の大学入試問題』(講談社現代新書)、『2020年からの教師問題』(ベスト新書)(2017年6月29日のものです)。

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