【インタビュー(中村伊知哉先生)】五月祭教育フォーラム2019『”教育改革”のその先へ~新時代に求められる人物像とは~』

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作成者:瀬崎 颯斗 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2019年5月19日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2019『‟教育改革”のその先へ~新時代に求められる人物像とは~』終了後、登壇者である中村伊知哉先生(慶應義塾大学教授)へのインタビューを記事化したものです。

本記事では、主に2020年開学予定のi専門職大学(仮称)の構想と学校教育の在り方について、中村先生のお考えを伺いました。

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中村先生基調講演

工藤先生基調講演

パネルディスカッション第1部

パネルディスカッション第2部

パネルディスカッション第3部

隂山先生インタビュー

工藤先生インタビュー

鈴木先生インタビュー

2 インタビュー

●"超ヒマ社会”について

本フォーラムを終えての感想をお聞かせください。

中村先生:五月祭教育フォーラムという場が、学生主導で毎年開かれているということに希望を感じました。あのような形でたくさんの人たちが集まって、教育について真剣に議論をしているというのは素晴らしいことだと思います。日本の未来は明るいと思いました。

パネルディスカッションに関しては、今回登壇した4人はそれぞれ立場は異なりますが、新しい教育を作り、新しい時代に向けて日本を改革していこうというところは共通していたと思います。4人とも基本的には同じ方向を向いているなと感じました。

パネルディスカッションの中で、中村先生の唱える”超ヒマ社会”は「格差が広がる社会だ」というご指摘が他のゲストの方からありましたが、このことに関してどのようにお考えですか?

中村先生:私が言っている”超ヒマ社会”は、”AIを使いこなす社会”のことです。AIを使わなかったら、国内の中では格差が起こらないかもしれないが、国際化の中では日本は負けていってしまいます。日本が、AIを使いこなすアメリカや中国のような国々の下請けになってしまうということなんです。国内的な格差が広がる前に、日本は海外に比べて沈んでしまうので、AIを使いこなす社会になりましょうと言っているんです。

実はこのことはずっと昔から言われています。経済学の巨人であるケインズは1930年代に、これから新しいテクノロジーを使って人類はどんどん暇になっていくと予測しました。オートメーション化した工場や自動車がでてくると、今ある仕事は機械に任せることができるので、減っていきますよね。だからその空いた時間をどう使っていくかというのが一番の問題なのです。

そのような社会は実際に実現しましたが、実現してみんなが暇になったかというと、そうではありません。むしろ、空いた時間に新しい仕事を増やして、以前よりも働くようになりました。僕はもう一度このような時代が来ると思っています。

今やっている仕事を機械にやらせることで、私たちは”超ヒマ”になります。でも結局、それはもの凄く忙しい社会になることを意味します。なぜなら、今まではできなかったやりたいことを、スピードを上げてどんどん行うようになるからです。例えば、思いっきり遊ぶことや思いっきりスポーツをすること。そして、これまでのような嫌々ながらの勉強ではなくて、思いっきり勉強することで、僕たちはとてつもなく忙しくなります。

ただし、AIを使いこなせる人とAIを使いこなせずに社会の波に乗れない人での格差は広がっていくと思います。そのためには隂山先生も仰っていたように、ベーシックインカムといった分配が大事になります。これまでは、モノをどうやって生産をするかが大事でしたが、これからはAI やロボットをどうやって分配するかの方が大事になっていきます。

その中で一番大事なのが教育の分配だと思います。誰もが豊かな教育をちゃんと受けられることが一番重要なことです。そのためには、工藤先生が仰っていましたが、様々な学校があるといいでしょう。いろんな種類の学校を用意することで、生徒は自分がやりたいことができるような学校を見つけやすくなります。私は自分で慶應や東大ではない自分の学校を作って、そうした学校の一つになれたらいいと思っています。

●i専門職大学について

教育の分配というお話がありましたが、多様な学校選択をできるようにするために中村先生はi専門職大学をお作りになられたということですね。ただ親や先生を含めた社会の価値観が変わらないとi専門職大学を進路先に進めるのは難しいと思います。そのためにはどのような変化が必要だとお考えですか?

中村先生:誰かのせいにしていたら世の中は変わりません。待っていては変化は来ないので、自分で生み出すしかないんですよ。そのために、僕はi専門職大学という新しい学校を作って、「絶対あそこ行きたいよね」と思われるような環境を作って、実際にそこから面白い卒業生を輩出していくという活動をしていきます。つまり成果を出していくということでしか、変化は起きないのではないかと思います。

何を学ぶか、誰と学ぶか、どこで学ぶか、と様々な観点があると思いますが、i専門職大学はどこを重視しようとお考えですか?

中村先生:鈴木先生が仰っていましたが、学校に大事なのはどこで学ぶか、つまり場だと思います。個別具体的な授業はネットにたくさん載っているので、専門的な勉強はやる気があればどこでもネットでできます。だからこそ学校の役割は、仲間と一緒に議論してみる場の提供ではないでしょうか。新しい知識を組み合わせて、議論して、世の中の問題を解決するアクションが生まれていく。学校の意義は、そのようなクリエイティブな場を提供することにあると思います。

私は「日本の弱点は大学にある」と言いましたが、まさにそのような場ができていないのだと思います。私が行っていた MIT(米国マサチューセッツ工科大学)のメディアラボはいろんな種類の研究者がいるだけではなくて、その周りに150社ぐらいの企業スポンサーがいます。その企業スポンサーのコミュニティが素晴らしく、企業の人たちが大学を媒介することによって新しいサービスを生み出しています。今日本のプログラミング教育で一番使われているスクラッチというゲームは、そうした企業と大学の話し合いの中で生まれたものなのです。

i専門職大学には、どういった思いを持った学生に集まってほしいとお考えですか?

中村先生:どこ行けばいいかわからなくて何となくおもしろそうだという子でも構いませんし、具体的にこんなことをやりたいといった子でも構いません。学生の多様性が重要なのではないかと思います。

i専門職大学は学生として社会人を積極的に受け入れるということでしたが、例えば現職の学校の先生も入学可能なのでしょうか?

中村先生:もちろんです。先生も学生になってくれればいいし、もしその先生にスキルがあるなら教える側になってもらってもいいと思います。どんどん客員教授を増やしていきたいと考えています。

このようにして、i専門職大学を学生が本当にやりたいことを実現する場にしようと思っています。大人の役割は、若い世代がやろうとしていることを実現させることです。大人達が考えてることをやれよと押し付ける時代はもう終わりで、学生がやりたいと思っていることをどう実現するか、それを一緒に考える場にしたいと思っています。そのためのフォローとして、たくさん教員を呼びたいと考えています。

●これからの学校の在り方について

i専門職大学がやろうとしていることは、工藤先生が行っている麹町中学校を社会に開放して色んな企業と連携していくという取り組みと同じことのように思いました。公立の学校や大学を社会に開かれたものにするにはどういった点を改善していけばよいのでしょうか?

中村先生:日本は、教育面において先進的な事例を導入するという観点では後進国です。なぜかと言うとそれは鈴木先生が仰っていたように、日本の教育が素晴らしかったからです。従来の日本の教育は、工業社会に非常に知識力の高い学術的な人種を生み出す事に成功しました。世界一成功したと言ってもいいと思います。世界中から日本の教育が素晴らしいと思われてきましたし、日本の先生方もそう思ってきました。

ですから IT とか AI といった新しいものが入ってくることによって、教育がガラッと変わることに対して不安があるんですよ。これは仕方のないことだと思いますが、そういうものが入ってきたときにそれを使いこなす力は間違いなく日本の先生方は持っていると思います。先生方がICTを導入して使いこなすようになるかは時間の問題です。新しい教育を導入すれば、日本の教育水準は再び世界のトップレベルになると思います。

今までは、公立学校での改革事例がほとんどありませんでしたが、工藤先生の麴町中学校では改革が進んでいます。工藤先生の取り組みを見て、自分たちもやっていいんだ、じゃあ自分たちでできることをやろうかなと思う人もいれば、ちょっとやめとこうかなと思う人もいるでしょう。しかし、だんだん麹町中学校の取り組みがスタンダードになってくると、改革をしている学校とそうでない学校の間での格差が生まれてきます。すると、「なんで麹町中はやっているのに私の学校ではやっていないのか」と生徒や保護者が言い出すはずです。この現象をなるべく早く起こすべきで、そうすれば学校改革は加速度的に進んでいくと思います。

今回フォーラムに来て下さった来場者の方や、全国の学校の先生に最後に一言お願いします。

中村先生:教育再生はいま絶対に一番にやらないといけない最大のテーマだと思っています。日本の過去100年の教育は大成功したけれども、今世界からみて、学校だけが取り残された場所になっています。私が小さかった頃は、学校が村で一番先進的な場所だったんです。ピアノがあったり、顕微鏡があったり、プールがあったりと、家ではできないようなことが学校に行けばできました。でも今は、学校ではスマホも使えないし、ゲーム機も使えません。家でできること・面白いことが学校だけではできないようになっています。私はこの状況を全部ひっくり返したいです。学校を面白いことに溢れている場にしたいと思っています。そうすれば、日本はすごい国になるのではないでしょうか。

3 登壇者のプロフィール


中村伊知哉先生
慶應義塾大学教授
1984年ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当するが、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。
1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学教授。
2020年開学予定のi専門職大学(仮称)学長に就任予定。

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