【パネルディスカッション第1部】五月祭教育フォーラム2019『‟教育改革”のその先へ~新時代に求められる人物像とは~』

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作成者:石川 桃子 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2019年5月19日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2019『‟教育改革”のその先へ~新時代に求められる人物像とは~』内で行われた、パネルディスカッションの内容を記事化したものです。

登壇者である隂山英男先生(隂山ラボ代表/一般財団法人 基礎力財団理事長)、工藤勇一先生(千代田区立麹町中学校校長)、鈴木寛先生(東京大学教授/慶應義塾大学教授)、中村伊知哉先生(慶應義塾大学教授)と、本フォーラムを主催するNPO法人ROJEの学生登壇者、椎名愛の5名が、議論を交わしております。

第1部では、主にOECD LearningFramework2030を踏まえて、社会の変化とそれによって求められる教育についてのお話を取り上げています。

関連記事も合わせてご覧ください。

中村先生基調講演

工藤先生基調講演

パネルディスカッション第2部

パネルディスカッション第3部

隂山先生インタビュー

工藤先生インタビュー

鈴木先生インタビュー

中村先生インタビュー

2 パネルディスカッション第1部

  


 

OECD LearningFramework2030について

椎名:それではみなさまよろしくお願いいたします。
まずはじめに、新しい教育観が必要となっている背景について、文部科学省で様々な改革を主導してこられた鈴木先生にお伺いしたいと思います。OECD LearningFramework2030の具体的内容と、作られた背景についてご説明をお願いいたします。
  
鈴木:中村氏、工藤氏の講演でも触れられていたように、AIによって世の中が劇的に変わります。文部科学省でも2020年から学習指導要領を相当変えて、新しい時代に備えていこうとしています。

工業社会はマニュアルを覚えて、それを高速に、そして正確に再現することが良い労働者の条件でした。それがうまくいったたために日本は工業化に成功したわけですが、今はそういった仕事はAIがやってくれる時代になりました。しかし残念ながら、いまだに人々の意識は変わっていません。

ここを変えていこうということで、OECDでEducation2030というプロジェクトが立ち上げられ、LearningFramework2030が発表されました。

もともとのきっかけは、2016年に開催されたG7教育大臣会合で「新しい教育の在り方を根本から問い直した方がいい」という議論になったことです。

しかし、もっと根っこにあるのは実は東日本大震災です。2011年3月11日の東日本大震災の後、OECDがOECD東北スクールというものを始めてくださいました。震災を経験して厳しい状況にあるなかで、生きるのに本当に必要な力とは何なのかを、企業の人なども入って一緒に考えるものです。東北三県の15歳から18歳までの約百数十名が集まり、3年間いろいろなことを学びました。最後はパリの公園で、15万人の前で、3年間子どもたちが考えてきたプロジェクトを発表しました。OECDの閣僚理事会にも行きました。

これを受けて、これからはこういう人材を育てないといけないんだな、ということで、今まで議論してきたことを一から議論しなおそうと始まったのが、Education2030というプロジェクトです。

LearningFramework2030の具体的な内容についてですが、1つめの「新しい価値を創造する力」は、まさに中村氏の講演にあったとおりです。「作ることを楽しむ人になろう」ということです。

2つめは「緊張とジレンマの調整力」です。これからはグローバル化どころの話ではなく、毎日、多様なバックグラウンドの人とコミュニケーション、コラボレーションをしなければならない時代になっていきます。当然、価値観が違いますから違和感やぶつかり合いもあるでしょう。そのような場面は日常的にもありますよね。

大事なのは、そことどうやって向き合いながら“熟議”をするか、ということです。そして、お互いの理解を深めて今までの思い込みや誤解を解消し、みんなで協力していくとどうなるのかを考えていくことが大事だと思います。

そうなると、教室の学びももちろん重要ですが、やはり世の中に存在する現実の課題に、様々な経験や能力を持った人々がチームとなって取り組んでいくことを教育の中心に据えていかなければなりません。そこで出てきたのが、課題解決型学習(PBL:Project Based Learning)です。日本でも、高校に総合探求や理数探求の時間が取り入れられるようになってきています。

3つめの「責任をとる力」については、この五月祭教育フォーラムを開催しているROJEが例として当てはまります。

ROJEの特徴は大人は何にもしないということです。ほとんど学生が運営しており、大人は頼まれたことだけする、というスタイルです。私はそこに今日まで罪の意識を持っていましたが、先ほどの工藤氏の講演で今までのやり方でよかったと確認できました。

また、この3つの力以外にもう1つ重要なキーワードとして挙げられるのが「エイジェンシー」です。日本語には当てはまる言葉がないのですが、工藤氏の講演でも出てきた「自律」という言葉がかなり近いと思っています。生徒のエイジェンシー、教員・保護者のエイジェンシー、地域社会のエイジェンシーを考えることが必要です。

そして、これらを達成するために一番大事なのは、教員のマインドセットや、教員の役割の再定義です。また、教員だけではなかなか難しいので、学校のあり方の再定義も必要になってきます。つまり、学校というコミュニティに巻き込んでいく人たちのスカウトと育成について議論していかなければならないのです。
  

キーコンピテンシーは普遍的なもの

椎名:ありがとうございます。工藤先生はOECDに定められた新しい教育観を重視しており、PBLなどを実践しておられますが、このOECDの提案についてどのようにお考えでしょうか?
  

工藤:3つのキーコンピテンシーは目新しいものではなくて、いつの時代も変わらない普遍的なものだと思うのです。ただ、技術革新のスピードが速すぎて、このままの状況だととんでもないことになるというだけの話だと思います。この3つの力は、明治維新や戦後の日本にも当てはまります。これをもう1回取り戻そう、と言っているような気がします。

麹町中学校の教育目標は、「自律、尊重、創造」です。これらはそれぞれ、OECD LearningFramework2030の「責任をとる力」「緊張とジレンマの調整力」「新しい価値を創造する力」に当てはまるものだと思います。自分で言うのもなんですが、麹町中学校の教育目標はすごく本質的だと思っています。

ところで、みなさんは今まで、小学校、中学校、高校の通知表の所見欄に「がんばった」と書かれたことはありませんか? この「がんばった」とは何のことを指しているのでしょう?

日本の教育は、価値づける際に情緒的なのです。チームで何か成功した時に、仲が良かったから成功した、などと理由づけしたりしますよね。では、仲が良くないチームは絶対に成功しないのでしょうか?

自分の力で生きていく子どもを育てるためには、自分自身を俯瞰的に、客観的に見る力を身につけさせることが必要です。しかし、子ども時代から「がんばったね」と褒められる状況があります。非認知スキルについて「がんばった」と言われても伸びません。「団結」「協力」という言葉に意味づけられると、なぜ自分が成功したかが分からないからです。

三日坊主だな、と思ったことがある人はたくさんいると思います。なぜ三日坊主になるのでしょうか。ガッツが足りないからだと思っていませんか?

おそらく、そうではありません。私は今脳神経科学の研究をしていますが、三日坊主は自然なことだとわかりました。自分の生命を維持するために、人間の脳は新しいものを拒否します。つまり、頑張ろうと思っても、新しいことをやりづらい脳になっているのです。だから、三日坊主を克服するためには、「頑張る」ことではなく「続ける」ことが大事です。続けられない理由を探し、自分の行動パターンをよく知って戦略を練り、三日坊主にならない工夫をしていくのです。こうした力を言語化して意味づけていくことで、子どもはそれを繰り返そうとします。

これからの教育は、このような、教員が経験を通して得た力を、上手に言葉にして意味付けして子どもに伝えていくことが大事になってくると思います。すると、子どもはそれを繰り返そうとし、自分の中にその力を落とし込み、自走できるようになります。昔から、優れた人はこういうことを自分の子どもや教え子に伝えていたのではないかと思います。成功の理由を、情緒的な要因に求めない教育が必要だと感じます。
  


  
  

キーコンピテンシーの土台は基礎基本

椎名:キーコンピテンシーは普遍的なものだというお話がありましたが、長年現場で教員をされてきた隂山先生はどう思われますか?
  

隂山:まさしくその通りだと思います。新しいAIの時代にどう備えるか、ということを考えること自体が意味がないと思います。どう変化するかということは誰もわからないのですから、変化した時、変化しつつある時に考えたらいいじゃないか、と私は思います。それよりも大事なのは、変化に対して俊敏に対応できる反射神経ではないでしょうか。すなわち「基礎基本」です。

このAIの時代の変化は、明治の文明開化の時の変化とよく似ていると思います。

宇和島藩の職人が蒸気船を作ったのは、ペリー来航のたった数年後です。その1年前には薩摩藩がオランダの技師の指導を受けて作っていますが、日本人が独自で蒸気船を作ったのはこの時が初めてです。作ったのは宇和島藩の嘉蔵(かぞう、後の名は前原巧山)という街の職人です。この嘉蔵がもともと何を作る人だったかというと、提灯です。びっくりしますよね。ただ手先が器用だというそれだけの理由で、宇和島藩の殿様が嘉蔵に蒸気船作りを命じたのです。ちょうど大村益次郎が来ていて、長崎の出島で蒸気船を見せてもらって、その理論書を見ながら完成させたわけですが、嘉蔵はその前から科学を勉強していたのでしょうか。もとから蒸気の仕組みを理解していたのでしょうか。そんなことはありえないですよね。全ては、その時々で頭をフルに動かして、自分の経験から生み出していったものだと思うのです。そして、その土台にあったのは、結論的には寺子屋の教育しかないのではないでしょうか。つまり、読み書き計算を通じて、脳そのものの働きが高度化していくということです。

また、最近もう一つ気がついたことがあります。工藤氏も言っていたように、子どもたちがいろいろなものを見て、感動して憧れてそれを始めるということはよくあります。しかし私は、感動がスタート地点なのではなく、感動した瞬間に子どもはすでに伸びているのではないか、と思います。だから、感動のある授業や、面白いと感じさせることがすごく大切なのです。読み書き計算、そして感動する体験もひっくるめて基礎基本と言いたいと私は思います。

キーコンピテンシーの大事さはよく言われますが、その土台となる基礎力については実はあまり語られていません。これは大きな問題だと思います。子どもたちの基礎力を伸ばしていくためにはどうしたらいいのかという具体的な実践に基づいたカリキュラム、学習課程の議論が必要です。
  
  

「想定外」に対応する

椎名:中村先生は先ほどの講演のなかで今後「超ヒマ社会」が到来すると述べられていました。そのような社会変化の中で、教育はどのように位置付けられるものになっていくとお考えでしょうか?
  

中村:超ヒマ社会は変化の社会だと言えます。

ムーアの法則というものがあって、これまでの20年ほどのITの世界は、「これぐらいの速度で社会はこう変化する」ということが予見可能でした。しかし、AIの時代は予見不可能な社会になります。そうなれば、変化を楽しむ以外に生き残れないだろうなと思います。

どんな変化が起こっても自分の持っているもので対応していく、新しいことに対する学び方を学ぶ、ということが必要です。
  


  
  

鈴木:今のお話を受けて補足します。キーコンピテンシーの話で言いたいことは、一言でいうと「炎上をエンジョイできるマインド」が必要だということです。対立や違和感、未知と出会った時に、世の中そんなもんだ、それが普通のことだ、という態度でじたばたしないことです。

超ヒマ社会、仕事が変わる社会が到来するということを危機だと感じて、不安に思ってしまう人もいるのではないでしょうか。不安ばかりではなくて、不安と期待が入り混じるぐらいの気持ちを持ってほしいと思います。「危機」という言葉には「危険」と「機会」の二つの意味が含まれています。日本では「危機」というと悪いことばかりというイメージがありますが、危機は危険半分、機会半分なのです。

「想定外」に出会った時に泰然自若と、その状況をエンジョイできるようになったらいいなと思っています。

3 登壇者のプロフィール


隂山英男先生
陰山ラボ代表/一般財団法人基礎力財団理事長/NPO法人日本教育再興連盟(ROJE)代表理事

1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒。反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月、尾道市土堂小学校校長に全国公募により就任。2006年4月から2016年まで、立命館大学教授を務める傍ら、立命館小学校で副校長、校長顧問を歴任。
現在は陰山ラボ代表、一般財団法人基礎力財団理事長、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、徹底反復研究会代表を務める他、全国各地で学力向上アドバイザーを務める。文部科学省中央教育審議会特別委員、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員長を歴任。
  


工藤勇一先生
千代田区立麹町中学校長

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。
教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEd Tech研究会委員、文科省若手有志による「教育長・校長プラットフォーム」発起人など、公職を歴任。
  


鈴木寛先生
東京大学教授/慶應義塾大学教授/NPO法人日本教育再興連盟(ROJE)代表理事

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。慶應義塾大学SFC助教授を経て、2001年参議院選挙当選(東京都)。文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ、文化、情報分野中心に活動。
2014年2月より、東京大学教授、慶應義塾大学教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。
現在は東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科教授、日本サッカー協会理事を務める。文部科学副大臣、文部科学大臣補佐官を歴任。
  


中村伊知哉先生
慶應義塾大学教授

1984年ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当するが、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。
1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学教授。
2020年開学予定のi専門職大学(仮称)学長に就任予定。
  

椎名愛
東京都出身。現在早稲田大学文学部2年に在籍。本フォーラム主催団体であるNPO法人ROJEでは先生のための教育事典EDUPEDIAに所属。

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