【インタビュー(工藤勇一先生)】五月祭教育フォーラム2019『‟教育改革”のその先へ~新時代に求められる人物像とは~』

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作成者: miyu (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2019年5月19日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2019『‟教育改革”のその先へ~新時代に求められる人物像とは~』終了後、登壇者である工藤勇一氏(千代田区立麹町中学校校長)へのインタビューを記事化したものです。

本記事では、 学校教育のあるべき姿について、工藤先生のお考えを伺いました。

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2 インタビュー

 常に物事を疑い、多様性を受け入れる姿勢を養う

ーー本フォーラムの感想を教えてください。

工藤先生:今回のフォーラムで、少しでもみなさんが元気になったならよかったなあと思います。最近思うことなのですが、世の中批判する人ばっかりなんですよね。その批判する社会そのものが学校に影響していると思います。

批判する社会には心理的安全状態がないので、変なことを言うと出る杭は打たれてしまいます。つまり、それは多様性が認められず、子どもたちが伸びない環境ができてしまうのです。

私は、日本の教育はまんざらでもないと思いますが、根本的に変えていかなければいけないのは「多様性を受け入れる」ことだと考えています。

ーー「多様性を受け入れる」教育の理想像とは具体的にどのようなものでしょうか?

工藤先生:例えば、小1プロブレムというものがありますよね。発達課題として問題視されていますが、あれは文部科学省がお金を取るために問題提起したものだと思います。つまり、「小学校1年生でいすに座れない子ども」を小1プロブレムと名付けることで、その小1プロブレムの子どもの支援を保障するために財務省からお金を取っているに過ぎないと思います。実は小1プロブレムという問題はなくて、発達段階の特性がそうであっただけではないのでしょうか。

今日のフォーラムでも、登壇者が話したことを鵜呑みにするのは危険です。聞いたその場ではバイアスがかかって「たしかに」と思うかもしれませんが、そこにある根拠は果たして何なのかを自分の頭で考えることが大切です。

このように、当たり前だと思っている課題を疑ってみたり、物事に対して「なぜ?」と問い続けたりするスタンスこそが、多様性を受け入れるうえで非常に大切になってくると私は考えます。だからこそ、授業でも生徒に「なぜ?」と問いかけ続けることで、「疑う」という学び方の訓練をすることが大切だと思います。

 対話を通して当たり前を変える

ーー工藤先生のような抜本的な改革を推進する先生が学校にいない場合、学校全体で当事者意識を持った改革を進めるにはどうすればよいでしょうか。

工藤先生:これは対話に尽きると思います。対話を通して、議論の場にいる人の価値観を疑い、受け入れ、そして自分の価値観を共有する。この繰り返しによって、一人ひとりに当事者意識が芽生えると思います。

私は生徒にリーダー論を教えることがあるのですが、そのときには、「どれだけ言葉の引き出しを持っているかが大切だ」と生徒に伝えています。同じような意味合いを伝えようとしても、言葉のチョイスは様々で、伝わりやすい言葉もあれば伝わりにくい言葉もあります。そのため、その人に伝わりやすいようなフレーズを探すことが大切です。

そしてもう1つ重要なことは、どのような順番で言葉を紡いでいくか、ということです。伝わりやすい言葉であっても、配列を間違えると逆に伝わりにくいこともあるのです。対話するときには、「伝わりやすい言葉を話しているか」「言葉の順番は伝わりやすいものになっているか」という2つの観点から考えてみて下さい。

ただ、相手に自分の想いを伝えることはたやすいことではありません。「言ったら伝わっている」と考えるのは大間違いです。むしろ、「上手く伝わらないのが当たり前」というスタンスでいるべきで、もし伝わらなかった時には「どうすればこの人に伝わるだろう」と戦略的に考えることがその人の訓練になります。

 これからは自分の突出したものを磨く時代

ーー今の学校のカリキュラムは多すぎるといった話があったと思うのですが、今の日本のカリキュラムの問題点はどのようなものだとお考えですか。

工藤先生小学校から高校まできつきつの教科学習を生徒が強いられていることに問題があると思います。1日が24時間しかない中で、すべてを網羅して学習することに無理があるのではないでしょうか。これからの時代は、自分の突出したものをいかに磨いていくかということが大切で、そこで得られた専門性やスキルがその人自身を価値づけていくのではないかと私は考えています。いつまでも専門性を持たずに広くやっている人は、自分の特徴が分からないので社会で勝負できなくなると思います。

ーー小中高の間で1つのことを追求できるような場の提供が大切だということですか?

工藤先生:そうですね。そのようなきっかけを与えることが大切だと思います。それは教科学習では見えてこないものです。麹町中学校には、様々な分野のプロフェッショナルがいます。カメラマンや料理人、農業コンサルタント、プログラマーなど、世の中を知る刺激がたくさんあるため、生徒は変化していきます。生徒は勝手に変化していくので、教員はそのために必要な人を生徒に紹介すればいいのです。

最近はそこまで人の紹介が大変ではなくなっています。教員同士対話していく中で、教員の誰かしらはそういったプロフェッショナルとつながっていることに気付くはずです。今は自校の取り組みが注目されているので声をかけてくださる方も多いですが、地方であっても人脈作りは困難ではないと思います。地元企業の方や地方の年配の方でもよいでしょう。そういった人脈を生徒の学びに還元していくことが大切です。

ーーこれからの社会で求められる資質能力が、生徒にどのくらい身に付いているか測る手段にはどのようなものがあるでしょうか?

工藤先生:まず前提として、人に評価されることは大切です。しかし、人からの評価は数値化できないために、平等性はありません。今までの日本は、数値化できない不平等な評価を恐れてきたために、ペーパーテストで学力を数値的に測って、そのランク付けで学力の高さを判断してきました。しかし、数値的評価だけだと学校内の多様性は担保できません

アメリカでは、テストで満点を取ったとしても合格できないことがあるといいます。男女や人種、学力の地方間格差などを考慮したり、大体同じ成績の人を並べて、その中で試験官の印象がいい人を選んだりなど、多様性を高めるために様々な評価方法・判断基準を設けています。このようにして、様々なバックグラウンドを持った多様な生徒が入学できる仕組みを作っていかなければ、社会に出て様々な人とコラボレーションする能力を生徒に身に付けてもらうことはできません。なぜなら、学校の中で化学変化を経験しないまま卒業してしまうからです。

ここに、評価方法のヒントがるのではないでしょうか。数値化できない評価を嫌っていては、この先の社会でも生きていけないと思います。学校教育の中にもこうした評価方法を取り入れていくべきです。

ーーこれからの教育を担っていく教員像はどのようなものだとお考えですか?

工藤先生生徒と変わりません。自校の教員はみんなそのことを分かっていますし、心がけていると思います。

生徒が対話するように、教員同士でも、15分と言っているのに2時間から3時間平気で議論しますし、20代の新米教員も主張が激しいです。ただ、最上位目標からはずれないように意識して対話しているので、もし対話の方向性が分からなくなったら最上位目標に戻るようにしています。目標の合意形成に向かって対話していることの証拠です。

ーー対話する際の最上位目標は何でしょうか?

工藤先生平和でしょうね。みんな違ってみんなよいという価値観を共有し、みんなが幸せになること、みんなが受け入れられることを目指す。これが民主主義だと私は思います。この目標に向かって生徒同士、教員同士、そして生徒と教員が対話し続けることが大切です。

学校は、生徒に社会で役立つスキルを身に付けてもらうためだけでなく、多様性を受け入れるスタンスを身に付けてもらうためにもあるのだと思います

ーー学校の先生方にメッセージをお願いします。

工藤先生:人のせいにしないようにしてください自分が当事者だということを意識し、周りの人との対話を通して目標の合意形成を図ってください。そうすればコンピテンシーが広がり、幸せな社会になっていくのではないかと思います。

3 登壇者のプロフィール

工藤勇一先生

千代田区立麹町中学校長

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。
教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEd Tech研究会委員、文科省若手有志による「教育長・校長プラットフォーム」発起人など、公職を歴任。
(2019年6月25日時点のものです)

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