【ICT文具論①】学校へのICT導入の障壁とは(豊福晋平氏インタビュー)

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作成者:瀬崎 颯斗 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2020年12月10日に行われた、国際大学GLOCOM主幹研究員・准教授(2021年5月現在)豊福晋平氏へのインタビューを記事化したものです。ICT文具論をテーマに、理論と実践の両側面からお話を伺いました。今回は、これまで学校へのICT導入がうまくいかなかった理由について詳しく解説しています。

本インタビューは3部構成になっています。ぜひ他の記事もお読みください。

ICTを子どもの文具として活用するための根幹となる発想について解説してます。子どもたち自らがICTを道具立てすることの重要性、豊福先生がICT文具論を考えるようになったきっかけについてもお話を伺いました。

ICT文具論の基盤となる学習者中心の学習観について解説しています。また、子どもたちが1人1台端末を持つ時代において注目されているデジタルシティズンシップ教育についてもお話を伺いました。

2 これまで学校へのICT導入がうまくいかなかった3つの理由

———今年度は新型コロナウイルス感染症対策と並行して、1人1台端末の整備を進めるGIGAスクール構想が進められてきました。これまで学校へのICT導入がうまくいかなかったのはなぜでしょうか。

「GIGAスクール構想」とは

* 1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育環境を実現する

* これまでの我が国の教育実践と最先端のICTのベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す

文部科学省「リーフレット:GIGAスクール構想の実現へ」より引用)

理由① 学校と家庭のデジタルデバイドを問題視してこなかった

学校へのICT導入がうまく進まなかった理由は大きく3つあります。1つ目の理由は、学校と家庭のデジタルデバイドを問題視してこなかったためです。

元々デジタルデバイド(情報格差)というのは、国内ではビジネスや社会的格差(経済・地域・人種・教育等による格差)のことを意味していました。たとえば、都市部では当然受けられるようなサービスが過疎地では受けられないので、情報インフラの恩恵を受けられるか否かが、経済的な格差や就業のチャンスの格差に結びつくから良くないという考え方です。しかし、学校で今問題にすべきは学校と家庭の間のデジタルデバイドが大きいことです。多くの人が、家では普通にデジタルテレビを見て、パソコンやスマホを日常的に利用しています。しかし、勉強に必要ないものという理由だけで、学校にはそれらを持ってきてはいけないことになっています。

元々、明治期に設立された近代的な学校には、普通の家庭にはないものがたくさんありました。例えばミシンやオルガンや映写機などです。この頃の学校は、こうした近代文明の普及の役割を担う近代化のセンターでした。しかし、1980年代以降の学校はどんどん時代遅れになってしまいました。今の学校はまるで山の上の宗教施設のようです。子どもたちは電気がないような場所で、掃除をして座禅組み、精神統一して俗世に帰る。それが今の学校教育になっています。

これは、社会と学校教育がどんどん乖離しているということです。21世紀になり、技術革新が進み、必要とされる知識や職能も変わってきていますが、学校教育のシステムは全然対応できていません。私は、学校教育自体がICTを入れた形でこれまで以上に変化していく必要があると思います。しかし、日本の多くの学校はそのスタートラインにも立っていません。

理由② 研究授業がICT活用のハードルを上げていた

2つ目の理由は、日本の学校教育におけるICT活用のハードルが高かったためです。私が学校の先生方に対してお話するときに強調していることがあります。それは「学校でICTを使うのに、力こぶを入れて無理ばかりしてきませんでしたか?」ということです。

その象徴的な例が研究授業です。研究授業では、ICTを活用した立派な授業がモデルとして紹介されます。しかし、参加するほとんどの先生は自分には無理だなと落胆してしまいます。

また、研究授業をしないといけなくなった先生も、1時間の授業のために非常に苦労をされています。普段使い慣れていない機材を使用すると、当日の授業で必ずトラブルが起きますよね。また、授業後には「教科教育の目標に沿ってICTが使えていたのか」といった質問がたくさんきます。授業を行うのも苦労し、授業の後にいろいろ責められるのも大変な状況です。そうした先生に、「同じことを学校の年間稼働日約200日ずっとやり続けられますか?」と聞くと、多くの先生は「いや、とんでもない。こんな授業はとても続けられない」と言います。どんなに素晴らしい授業でも、年間200日継続して実現可能でなければ、普及していきません。

こうした取り組みだけでは、授業に求めるICT活用のレベルが高すぎて、先生方は疲弊してしまいます。そのため私は、まずは、ICTを毎日普通に自然に使いましょうと主張しています。授業での利用するための土台作りとして、ICTの日常化が大切です。

更地に家を建てるとなったときに、いきなりどういう内装を作ろうか、どういう家具を置こうかと考える人はいませんよね。家を建てるには、最初に土台を作らないといけません。家を建てる土台があって、電気や水道のインフラを引っ張ってきて、やっと家の形ができるのだから、まずは土台を作ることから始めましょうというのが私の主張です。

まずは、手元のデバイスで写真を撮ったり、メールやメッセンジャーを利用したデジタル連絡帳を利用したりすることから始めます。先生方や子どもたちが、滞りなく日常的な利用ができるようになって初めてICTを授業で使えるようになるのです。

理由③ 短時間の利用のみでICTに教育的効果を求めてきた

3つ目の理由は、短時間の利用のみでICTに教育的効果を求めてきたことにあります。これまでの学校教育では、ごく限られた時間と場面でしかICTを活用できていませんでした。

ICTが大きな効果を発揮する要因は大きく2つあります。

1つ目の要因は、持っているだけでワクワクするということです。今まさにGIGAスクール構想の進展により、ICT端末が学校に次々と導入されています。すると、子どもたちも新しいパソコンを手にしたことで、期待を膨らませながら使ってみようとするわけです。

これを、期待効果または客寄せパンダ効果といいます。皆さんも新しいスマホやパソコンを買うと嬉しくなると思います。しかし、嬉しいのは最初の2週間ぐらいで、時間が経つと普段通り使いますよね。また、今回のGIGAスクール導入では、ICT端末が届いても準備にとどまってすぐには使えず、そのうち子どもたちの期待も薄れてしまうような事例も見られます。このように、期待効果というのは持続性がない一時的な効果なのです。

もう1つの要因は、ICTを長時間使用し、使い慣れてより賢く使えるようになると、その効率が上がることにあります。私たちがスマホなどのICTを利用する理由は、便利だからですよね。スマホを持っていると、音楽を聞いたり写真を撮ったりメールのチェックをしたりすることもできます。スマホを持っていることで、情報効率が飛躍的に上がるのです。

スマホなどICTの性質としては、使えば使うほど、多くの情報量を得られます。裏を返せば、まとまった情報を得ようとすれば、ある程度持続的に使わなければいけません。しかし、これまでの学校のICT活用は、45分の授業の中で、たった5分程度しか使わせないケースが多くありました。あとの40分が普通通りの授業では、ICTが効果を発揮するわけがありません。

また、情報量が増えたとしても、それをすべてYouTubeの動画視聴やゲームの時間に割いてしまったのでは、学力向上にはつながりにくくなります。例えば、パソコンで作文をしたり、スマホで撮った写真でコラージュして作品を作ったり、そうした生産的創造的な使い方をすることで教育的な効果に転換できるわけです。だから、前提条件としては、まず子どものICT利用総時間(総情報量)を増やし、さらに、それらを学びに結びつけてはじめて教育的効果が飛躍的に大きくなるということです。

まとめると、学校へのICT導入がうまく行かなかった理由は、①家庭と学校のデジタルデバイドを無視してきたこと、②研究授業がICT活用のハードルを上げていたこと、③短時間の利用で無理な効果を求めてきたことの3つになります。

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本インタビューは3部構成になっています。ぜひ他の記事もお読みください。

ICTを子どもの文具として活用するための根幹となる発想について解説してます。子どもたち自らがICTを道具立てすることの重要性、豊福先生がICT文具論を考えるようになったきっかけについてもお話を伺いました。

ICT文具論の基盤となる学習者中心の学習観について解説しています。また、子どもたちが1人1台端末を持つ時代において注目されているデジタルシティズンシップ教育についてもお話を伺いました。

4 プロフィール

豊福 晋平(とよふく しんぺい)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主幹研究員・准教授
北海道出身、横浜国立大学教育学部(心理学)卒、横浜国立大学大学院教育学研究科修了、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程中退
専門は学校教育心理学・教育工学・学校経営。一貫して教育情報化をテーマとして取り組み、近年は、北欧諸国をモデルとした学習情報環境(1:1/BYOD)の構築に関わる。

5 著書紹介

『デジタル・シティズンシップ:コンピュータ1人1台時代の善き使い手をめざす学び』

著者:坂本旬・芳賀高洋・豊福晋平・今度珠美・林一真、出版社:大月書店、発売日:2020年12月18日

6 編集後記

今年度は新型コロナウイルス感染症対策と並行して、GIGAスクール構想によるICT端末の整備が進められてきました。学校教育の現場に次々と導入されるICTを活用していくには、まずは日常的な利用が大切だということが印象に残りました。またICTの教育的効果は導入の直後には効果が表れにくいかもしれませんが、長期的な視野で考えていくことが大事なのだと感じました。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 瀬崎颯斗、千葉教生、杷野真弓)

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