倉本龍先生インタビュー①「日々アップデートしながら、遊ぶように学び、学びながら遊ぶ」(N高等学校・S高等学校)

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作成者:瀬崎 颯斗 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2021年3月12日に行われた学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校・S高等学校(以下、N高等学校・S高等学校と表記)倉本龍先生へのインタビューを編集したものです。

インタビューでは、主に倉本先生の教育観とキャンパスの運営で大切にされていることついてお話を伺いました。今回の記事では倉本先生が自身の教育観として実践されている「わたしのプロジェクト」を持つことと「遊ぶように学び、学びながら遊ぶ」ことの重要性についてご紹介します。

本インタビューは2部構成になっています。ぜひ他の記事もお読みください。

こちらの記事では、倉本先生がキャンパスの運営で心掛けていることや、若手の教職員の育成・研修についてご紹介しています。

2 インタビュー

倉本先生の教育観

倉本先生にとって「教育」とは?

私はこれまで様々な学校で教員として働いてきましたが、実は「教育」という言葉があまり好きではありません。「教え育む」というのが完全に指導者目線で、知識を伝達する側の目線になっている言葉だからです。1つの事象に関しても、生徒が何を学ぶのかは一人ひとり違います。そのため、生徒一人ひとりが何を学んだのかを大事にし、主体者を生徒にしていきたいと考えています。例えば、1つの題材を取り上げて国語の授業を行っても、30人の生徒がいると30通りの解釈があります。生徒自身が、捉えたものを自分の人生にどう活かせるのかを常に考えることが重要だと思います。また、自分の解釈の仕方、考え方や捉え方を知ったうえで、自分を分析できてこそ、何かしらのアウトプットに繋がります。そういう意味で「主体的な学び」はとても大切になってくると思います。

最近の教育業界では、アクティブラーニングや主体的な学びなどが流行りになっていますが、一方で教育において「知識の伝達」ということも大事な要素だと考えています。これは、元々存在している学問体系や知識を受け渡すという意味ではありません。学校の勉強を好きな人と嫌い人がいると思いますが、基本的には教養を身につけることが学校の勉強の本質であると考えています。そのため、生徒が学校の勉強を好きか否かに関わらず、学校教育の中で新しい知識を習得しながら、教養を身につけていくということは非常に重要です。

また、自分が没入感を得られ、のめり込めるようなことが見つかったときに、そのことに没入できる基礎体力を持っておくことも必要になります。そのためにも、学校で勉強するのはもちろんのこと、色々なことをリベラルアーツ的に学ぶことは必要だと思います。教員に教えられても、本で読んでも、ネットで見ても、自分になかったものが新しくインプットされるということ自体には変わりありません。学校内であろうと学校外であろうと、色々なことを学ぶと、自分の引き出しが増えていきます。「学校で教えられたから大切」という感覚ではなくて、その情報をどう自分のものとしていくかが肝心です。自分の特定の範囲を深く学びながら、一つの物事を色々な視点で考えることができる人を育てていきたいと考えています。だからこそ、アクティブラーニングも大切ですし、しっかりと体系的な知識を身につけることも大切になるのです。

生徒と接するうえで意識していること

「わたしのプロジェクトを持ちましょう」

———倉本先生が日々の教育活動の中で生徒に伝えているメッセージはありますか?

「わたしのプロジェクトを持ちましょう」というメッセージを伝えています。これは生徒だけでなく、大学生のTA(ティーチング・アシスタント)、教職員にも伝えているメッセージです。私は、目指したい姿として「自分なりの活動と信念を持ち、自信を持って他者に説明できる人財」を掲げています。例えばパーティーの立ち話のときに、名刺に書いている肩書き以外のことで、自分が取り組んでいることを他者に自信を持って説明できるような人が増えたら良いなと考えています。

ここでの「わたしのプロジェクト」とは、一言でいうとその人がワクワクすること、自分自身や自分の周りの人が笑顔になれることだと思っています。例えば、N高等学校・S高等学校の文脈でいうと、起業することや何かの作品を作ることかもしれません。もしくは、大学に合格するために受験勉強をすることかもしれません。また、毎朝7時に起きること、毎日3食の食事をとることでも良いのです。取り組むことの大小に関わらず、自分が達成したいものや、大事にしていることがその人のプロジェクトになると思います。

やりたいことがないことに悩む生徒には?

———やりたいことがないことに悩む生徒にはどのようなサポートをされていますか?

先ほどの「わたしのプロジェクト」の話でいうと、やりたいことが見つからない生徒でも、好きなことを探す練習をしたり、実際に探してみたりすることが、その生徒のプロジェクトになると思います。

「やりたいことがない」ということは、何も悪いことではありません。私は、18歳時点で自分の将来の進路を決めるのは難しいと思っています。なぜなら、運命的な出会いはいつ起こるかわからないからです。例えば、歌舞伎役者の息子のように物心ついたときから歌舞伎役者になることを考えている人もいれば、45歳になって会社を辞めてラーメン屋さんを開く人もいます。「現時点でやりたいと思えることがなくても大丈夫」という気持ちで、生徒のサポートをすることは心掛けています。

また多くの生徒は、「やりたいことがない」のではなく、「自分にはできない」と思い込んでいるのだと思います。自分には無理だと諦めてしまう場合や、スキルがないから自分には向いていないと考えている場合が多いのではないでしょうか。自分のスキルに自信がない場合でも、明確な目的や目標がない場合でも、まずは自分の手元にあるものを色々やってみたら良いのではないかと思います。そうすると、自分の選択肢が増え、自分が面白いと思えることが見つかってきます。たとえやりたいことがなくても、いくつかの種類の選択肢に触れていたら、その中から自分のやりたいことは何かを考えたり、自分に向いているものが見つかったりするのではないでしょうか。

「日々アップデートしている今の自分の目線を大切に」

このことは進路指導における教育観とも大きく関わると思います。例えば、この大学に行きたい、こういう仕事をしたいというところから逆算して学部を選んだり、勉強の方針を決めたりすることがあります。この考え方は、バックキャスティングモデルといわれるもので、理想的な未来の状態から逆算して現在を考える思考は非常に大切です。

しかしそれと同時に、今この瞬間のときめきや好きなことを積み重ねていくと、自分のやりたいことが見つかっていくこともあるでしょう。人間は日々アップデートしているので、明日になると新しい自分になっていると思います。誰しも過去の自分にとらわれる部分と、とらわれない部分があると思いますが、今の自分の目線で生きていたら良いのではないでしょうか。そのときの衝動で動こうとするのも素敵なことなので、日々アップデートされている自分を感じながら生きてもらいたいです。

信念を持って1年間取り組んだことだとしても、今の自分が違うと思ったらすっぱり止めても良いのです。多少信念が変化する場合があったとしても、今の自分が思うことが正解になるのではないかと思います。だからこそ、今この瞬間のときめき、今の自分が好きなもの、今やりたいことを積み重ねることも大事にしてほしいです。

日々の対話から生徒の細かい変化に気付く

———自分が日々成長し、アップデートできている実感がないことに悩む生徒にはどのように接していますか?

まずは、日々の対話の時間をしっかりと取ることが大切です。何かの仕掛けというよりは、なにげない雑談や対話の時間を取る中で、生徒の細かい変化に気づくことが大切だと思います。例えば、髪型や服装の変化や、自習の際にいつもと違うことに取り組んでいる様子などです。

特に生徒の変化やできるようになったことを察知して、事実として意識的に伝えるようにしています。こちらから「前よりだいぶ進んでいるね」「先週と違うことやっているよね」という事実を言葉にして投げかけると、生徒の方から「今面白いことをやっているんです」「実は悩んでいるんです」と説明してくれるときがあります。

また、「最近何か変わったことない?」と直接聞いてみて、対話していくことも大切だと思っています。こうした対話の大切さは、N高等学校・S高等学校でも40人クラスの一般的な学校でも同じです。少しの時間で良いのでその生徒のことを気にかけて意識的に声をかけてみると、そこでの対話から何か良い効果が生まれるかもしれません。

「遊ぶように学び、学びながら遊ぶ」

私は元々理科の教員だったので、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)で生徒の探究的な学習の指導を行うことが多くありました。そのときの経験から、探究的な学習においては課題発見が一番難しいと思っています。「この社会問題を解決したい」と思っている人が課題発見をすることは簡単です。しかし、小学生の自由研究のように「何をしても良い」と言われると、自分が何に興味があるのか見つけるのに困ってしまい、課題発見は非常に難しくなります。こういった問題に対しては、自分が好きなことから動機付けをすると良いと思います。例えば、スイーツを食べることが好きな生徒がいるとすると、「なぜ食べ物は焦げるのか」「その料理をどこまで焦がすと美味しいか」などをその生徒の問いにしてみると良いかもしれません。遊びながら自分が好きなことをしていくなかで、学びが生まれることは多くあります。自分の好きなことを通して、自分なりの問いが生まれてくると思っています。

これを生徒には「遊ぶように学び、学びながら遊びましょう」と伝えています。これには意味が3つあります。1つ目は、遊ぶ過程と学ぶ過程は同じだということです。遊びと学びにはどちらも、「態度」と「知識理解」と「理解力・行動力」の3要素が存在します。私は、この3要素のサイクルで遊ぶ過程と学ぶ過程は成り立っていると考えています。

2つ目は、遊ぶ余裕があるから学べるということです。学問というのはもともと貴族の道楽でした。貴族の趣味が、哲学や音楽などの「〇〇学」になったのです。余裕がある貴族だったからこそ遊びが学びに繋がったように、心に余裕があると自分が何を吸収したいかを考えることができます。そもそも学びは心の余裕があるときにする遊びであり、時間や心に余裕がない状態で何かを学ぶことは難しいのです。

3つ目は、先人の知恵というフィルターを通すと普段やっている遊びも学びになるということです。「学問の眼鏡」をかけて物事を見てみると、あらゆることが何かの学問に繋がっています。自分にとって身近な日常や好きなことが、既存の学問や先人からの知識とリンクしたときにはとてもワクワクしますよね。しかし、「遊ぶように学び、学びながら遊ぶ」という感覚がないと、このような視点で物事を見ることが難しくなるのではないかと思っています。

人生で何が役に立つかはわからない

———大人は自分自身で「これは本業として一生懸命やるべきこと」「これは趣味でやること」と分けている場合があると思います。生徒が学んでいく際に、大人から生徒にそうした区別をさせることも必要ないということでしょうか?

生徒自身が、自分の中で「本業」と「趣味」のように優先順位を付けて取り組むことは大切だと思います。しかし、そうした区別を大人が無理やり行う必要はないと思います。

例えば、3Dで色々な物を作ることにはまっている生徒がいるとします。その生徒が看護学校に進学し、看護師になりたいと言っています。一般的には、「3Dでの物づくり」と「看護師」は遠い分野なので、趣味と本業で分けて両方に取り組むことを勧めてしまうかもしれません。しかし、今の時代、遠隔医療や内視鏡手術の発展により、「臓器の3Dモデリングを用いてどうすればガン細胞が見つかるのか」という研究も進んでいます。そうすると、看護師で3Dモデリングをできる人は世の中にめったにいないので、物凄くかけがえのない存在になります。

かのスティーブ・ジョブズも「人生の点と点をつなげる(Connecting the dots)」と言いましたが、これは点を置いた後でないとわからないのです。今やっていることは無駄ではなく、必ず将来どこかで何かの役に立つと思っています。だからこそ、自分が楽しいと思えることは、一見本業とは関係のなさそうに思えることであっても、ぜひやり続けてみてほしいと思います。

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4 プロフィール

倉本 龍 先生

<現職>
学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校・S高等学校 通学コースカリキュラム編成課
全国展開する通学コースのカリキュラムマネジメントを担当し、授業やプロジェクト学習、課外活動を企画・運営することで「ネットを駆使した未来の学校づくり」を率先して行っている。
(プロフィールは2021年6月時点のものです)

5 関連情報

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学校法人角川ドワンゴ学園では、生徒へのコーチングから学校運営補助、校内イベントの企画・運営など、様々な場面で長期インターン生が活躍しています。インターン生に求めていることは、生徒へ勉強を教えることだけではなく、生徒の成長をサポートする環境そのものを創ること。「教える」ではなく「創る」仕事です。自由な発想で、主体的に、正解のない「未来の学校づくり」に挑戦していただきます。

学校法人角川ドワンゴ学園は、新しい時代に合った、新しい学びの場を提供し、
新しい社会システムを創造していくことに取り組み続ける組織です。

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詳しい募集職種・条件は下記ページよりご参照ください。
https://open.talentio.com/1/c/nnn-ac/requisitions/2223

6 編集後記

今回の記事では、様々な学校で教員としてキャリアを築かれてきた倉本先生の教育観についてご紹介しました。今回紹介されていた内容はN高等学校・S高等学校独自の活動ではないため、読者の皆さまの日々の実践にも取り入れられることが多くあったのではないでしょうか。私自身も生徒との日々の対話を大切にし、日々アップデートしながら学び続けていきたいと思います。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 瀬崎颯斗、清川美空、鎌田真衣)

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