4秒間の中で(鎌田憲明先生)

1 1.はじめに

一冊の本との出会い

数年前の1学期のある日,1冊の本が寄贈されたと回覧が回ってきた。「一秒の世界」(寄贈後発刊 ダイヤモンド社 責任編集 山本良一 Think the Earth Project 編)という本だった。1秒間の間に起きる世界の出来事を集めたもの。ペラペラとめくっていくと,楽しそうな内容がたくさん書かれていた。

1秒間にハチドリが55回はばたく。太陽系が銀河を220Km進む。人口が2.4人増えるということなど。もちろん,これは総数を時間で割った平均値であるので,1秒のうちに必ずしもあるとは限らないものもあるが,そのユニークなまとめ方に大変興味を引かれた。

授業への思い

その中でとりわけ目についたものに「1秒間に0.3人,4秒間にひとりが飢えによって命を落とし・・・」という所だった。読んだ瞬間に武者震いがして,いてもたってもいられない。この現実を絶対に子どもたちに教えてあげたいとその部分をコピーしておいた。というのも,私の学級では多い方ではないが,給食での好き嫌いが見られ,何とかしなければいけないと思っていたからだ。牛乳の飲み残しは当たり前。野菜は食べない。好きな物だけはお代わり。「世の中には食べられないで死んでいく人もいるんだよ。」,「人間が生きるために,他の動物の命を犠牲にしているんだよ。」と言っても,その場限りで子どもには響くはずもない。自分に関係がないからだ。最近ニュースで取り上げられる凶悪犯罪も,自分たちが住んでいる所より,遠く離れた所の出来事くらいにしか考えていない。だからこそ,ぜひこの現実を子どもたちに突きつけてあげたかった。しかし,ただこの事実だけを話すだけでは,ほんの1分にも満たない。何とか自分の行動に振り返って考えさせるようなものにしたいという願いから指導案を立て授業を試みた。

確かにこういう授業は,稀かも知れない。物語を読み,感想を持たせ,主人公の気持ちを考える。そして,自分の行動に照らし合わせ,反省をする。といった一般的な授業ではない。現実の「教え込み」である。授業者である私が,子どもに一方的に教える授業。それが,良いか悪いかは分からない。ただ,今目の前にいる子どもが,少しでも向上的変容が見られるよう願っただけである。

2 2.この記事で紹介する実践

参考資料名 『一秒の世界』 ダイヤモンド社 責任編集 山本良一

Think the Earth Project 編

ねらい

・自分の行動を振り返り,食べ物を粗末にしない態度を身につける。

・飢餓で困っている人たちのことを考え,どんなことをしてあげられるか積極的に考えることができる。

指導内容 〈内容項目 1-(1)節度・節制・自立 3-(2)生命尊重 4-(8)国際理解〉

3 本時の様子

導入

「昨日の給食には,何がでましたか。」

→クイズ形式で出題した。「りんご」,「ラーメン」・「牛乳」・「アーモンド入り小魚」など,思い出すままにどんどん発表した。昨日のことなのに,すでに忘れている子どももいる。

「昨日の給食で一番好きなものは何ですか。また,残したもの,嫌いなものはありましたか。」

→「ラーメンが好き。」と答える子がほとんどだった。しかし,問題は後述の方である。もちろん,展開で振り返った時のことを考えてのこと。「牛乳がきらい。だって,くさいんだもの。」,「小魚が生臭い。」,こんなものもあった。「いつも食べているから,りんごが嫌い。」これは地域性であろう。学区にはりんご畑が広がっている所が多いのである。給食に野菜が出ていれば,ほとんどが野菜になっていたに違いない。

展開

「目をつぶってください。」(4秒間,目をつぶらせる。)

→4秒間の短さを実感させた。

「今と同じ時間(4秒間)で何ができるか考えてみてください。」

→4秒という短い時間で起こる事柄を考えさせた。さすが子どもである。「ひらがなが5文字は書ける。」「漢字だったら4文字は書ける。」「トイレまで走っていける。」「3人と握手できる。」と具体的だった。椅子を机に上げるのを実際やらせた。一様に4秒間でできた。

「世界では,たった4秒間でどんなことが起きているのでしょうか。考えてみましょう。」

「世界では,4秒間で自動車約○台が完成している。」

→この問題にたくさんの答えが出てきた。おおかた「4秒じゃ車はできないよ。」という意見が大勢だった。答えは,5台である。

「車の他にはどんなことが起きるのかな。考えていこう。」

ワークシート(資料1)を渡す。
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~世界中では4秒間のうちに~
「世界最大のハンバーガーチェーンに○人が来店している。」
「にわとりが○個の卵を産んでいる。」
「車が○台完成している。」
「人の心臓が○回脈を打つ。」
「人が○人増えている。」
「人が○人」

→子どもは意欲的に取り組む。「先生。最後意味分からない。」分からなくて当然である。今までの授業はこの最後の問題のためである。

PowerPointで作ったスライドで答えを次々と紹介する。(スライド10まで)

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「次は,この人数を当ててもらいます。」スライド11(資料2)を見せた。


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→今まで道徳の授業だと聞いていたのにクイズみたいな問題に楽しんでいた子どもたちの表情が一変した。「何だ?」「えっ?」という言葉が発せられなくとも分かった。「この写真に写っている人は,大人ですか?子どもですか。」もちろん「子どもです。」と答えた。「では,どうしてこんな風になっているのかな。」と問うと,何秒かの沈黙ののち,「病気。」と子どもたちは口々に言った。中には,「栄養不足。」という子もいた。「近いけれど,実は栄養が不足しているというより,食べ物を食べていないんだよ。」と言うと,また一段と真剣なまなざし。「この子は,この後どうなったかな。」に「死んだ。」と口々に言った。

 「人が○人」は,実は,「4秒間に餓死した人が○人」という問題ということを知らせ,人数を想像させると4秒間に7,8人から上は2万人まで様々だった。前で出していた問題の答えが多いものから少ないものまで多様であったため,当たり前の答えだ。答えは1人と告げると,「なんだ。」といった具合。「多い?少ない?」と聞くと,一様に「少ない。」と答えた。


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しかし,グラフ(資料3)に示したように「1秒で1人だけれど,1分では17人。みんなが「ボケー」とゲームをやっている1時間では1000人。何もやることがなかった。つまらないとよくみんなが日記に書いてくる1日では2万4000人。」と現実を伝えると,「多いんだ。」とようやく気がついた。さらに,明日急に餓死するのではない。2万4000人の餓死した人の周りには,8億人飢餓にさらされ人たちがおり,そのうち3億人は児童であるということも伝えた。子どもたちは真剣そのものだった。「目をつぶったたった4秒で1人が死んでいるなんて考えもしなかった。」「1人の死んだ理由が餓死なんて信じられない。」

「最後のスライドにいるハゲワシは、何をねらっていると思いますか。」

→想像もつかないようである。まさか、今にも死にそうな子どもを狙っているなんて。

プリントを配り,教師が説明を加えながら読む。

黒柳徹子さんがタンザニアを訪れた後の講演でお話なさった内容である。(資料4)
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 ユニセフ親善大使として最初に訪れたのは,アフリカのタンザニアでした。少し前は,1日に600人くらいの子供たちが,タンザニアで死んでいました。

 ~飢えは,考えていた以上に恐ろしいもので,赤ちゃんの時にちゃんとした栄養が与えられないと,6歳でも地面をはったままで満足に歩けない。…

→「考えてもいなかった。」「かわいそうだ。」がほとんどだった。真剣そのものの子どもたち,その状況が目に浮かんでいるようだった。それも,展開前半部が生きていたことを証明していた。

「みなさんは,苦しんでいる人たちのために,どんなことができますか。」

→「募金をしてあげる。」「食べ物を送ってあげる。」などが出てきた。自分に振り返ってもらいたいということから,「みんなが,普段の生活でできることはないかな。」と聞いたが沈黙。ここで導入に戻り,「どうして初めに給食について聞いたと思う?」と聞くと,給食を残した4・5名が下を向いた。下を向いた子を指名し聞いてみると,「食べ物を粗末にしないようにしなければならないと思います。」と発表してくれた。とても恥ずかしい様子が伺われた。勿論,それは,当てられた恥ずかしさからではない。内省である。

終末

「ワークシートに今日の学習を振り返って,感想を書いて発表して下さい。」

以下はその感想である。


「飢餓に苦しんでいる子どもが3億人もいると聞いて,びっくりしました。それに比べて,私たちは,朝・昼・夜にきっちり3食食べられるし,おかしだって食べられるので幸せです。今まで食べ物をそまつにしてきました。食べ物をそまつにしないように,今度から残さないようにしたいです。」

「飢餓になって苦しんでいる人が8億人もいると聞いて,びっくりしました。日本の人口の約7倍もあるのです。ユニセフ募金にぜひ協力したいです。給食や家で食べるごはんは,きちんと残さず食べたいです。」
「食べられないで死んでいる人がいることをはじめて知りました。大勢いることもわかりました。」

教師の説話

「夏休みでも連休でも,どこかに連れて行ってもらいたいなど特別なことがないとだめになっているみなさん。その特別なことが,当たり前になってきているのではないでしょうか。今日勉強したように,当たり前に思える食べること,着ること,住むことなど,もう一度考えて欲しいと思います。しかし,考えて,どう行動に移すかはみなさん次第です。

最後に「マザーテレサ」という人が言った言葉を書きます。彼女を知っていますか?「先進国に住む私たちの心の飢餓が世界の飢餓を生んでいる。」これはどういう意味なんでしょうね。10秒考えて下さい。飢餓に対する関心のなさ,乏しい知識を含めた自己中心的な私たちが世界の飢餓を作り出しているということです。」

4 最後に

道徳の授業で副読本を使うことも大切だが,それだけではなく現実を現実として必要なことを子どもたちに伝え,どう感じ,何ができるかを考えさせることも重要だと考えている。

今回,子どもたちの感想から掲げた目標がほぼ達成されたと思う。その後の子どもたちの給食の様子を見ると,食べ残しは少しあるものの,牛乳の飲み残しは,全くない。「いただきます。」の後は,おかずの増減は自由で,残すのが続く子は,お代わりなしというのがクラスのルール。野菜などが苦手な子は,減らしに来る。それはそれで良いと思う。減らしても,食べようという気持ちがある。また,「ごちそうさま。」の段階で残す子も数名いる。しかし,だれもが申し訳なさげだ。そういう気持ちが大切なのである。

例えば,ごみが落ちているのを知らない顔をして通り過ぎるのと,拾えばよいのだけれど,今は拾えないからと通り過ぎるのとでは,大違いである。気にすることもできないと,行動には起こせないからである。
 何かに理由を付けてやらない人ができてしまうのではと仰る方もいるだろうが,そういう気持ちで行動することを,日々,子どもたちに教えているだろうか。

今の子どもたちを考えると,生きるのが当たり前。服を着るのが当たり前。食べるのが当たり前。ゲームを買ってもらうのが当たり前。夏休みや冬休みにどこかへ連れて行ってもらうのが当たり前。そして,平和な世の中で当たり前なのである。そして,自分にとって,利益が無いといい一日ではないのだ。何が普通で,何が変なことなのかをよく考えることができない。だから,遠くで起こっている事件や事故も何とも思わない。自分に置き換えることができないのだ。本当に憂慮すべき事態である。しかし,そのままでよい訳がない。目の前にある問題をやり過ごすことはできない。

自分の学級を見た時,その他にも山積みに問題がある。机の中の整理整頓から昼食の食べ方,後片づけの仕方,そうじの仕方,言葉遣いなどなど。言っているこちらがいやになることもある。きりがない。

「身」に「美しい」と書いて,「躾」。家庭での躾が疑わしく思えることもある。かく言う私は…,となると棚に上げていることもあるか知れない。しかし,だれが見たって変なことは,指導していかなければならない。変なものは変と。家庭ばかりに押しつけず,毎日少しずつやっていきたいと考えている。

5 編集後記

現実を知る。それだけで、全く違う世界が見えてきます。「4秒間に世界では何が起こっているのか。」この現実は、受け入れがたいものです。しかし、目を背けずしっかり受け止めることで、子どもたちの意識は変わってくると思います。この実践を通して、子どもたちは自分たちの「当たり前」を疑うきっかけになったのではないでしょうか。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 齋藤千秋)

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