この記事は、2015年8月8日に行われた「漆間先生、河原先生から学ぶ社会科授業づくりの極意セミナー」をもとに作成しました。
1 はじめに
このページでは主に、アクティブ・ラーニングを実践するうえでの具体的な手法を紹介します。
・より理論的にアクティブ・ラーニングを知りたい方は
関連記事⇒社会科でアクティブ・ラーニング<理論編>
・「授業のネタ」の観点から、実践法についてさらに詳しく知りたい方は
関連記事⇒社会科でアクティブ・ラーニング<実践編②>~授業のネタ~
をご覧ください。
2 アクティブ・ラーニングの取り入れ方
中学校を例に、普段の社会科の授業の中で、どのようにアクティブ・ラーニングを取り入れていけばよいか、見ていきましょう。
1.授業づくりの手順
① 学習者を意識して、本時の目標を教科書や学習指導要領、身に付けたい能力や姿勢などから考える。
② 学習者を意識して、その目標を実現するための教材を準備する。
その際、
・興味関心を引き出す教材
・考えさせる教材
・納得させる教材
の3つの教材にわけて考えてみる。
③ 学習者を意識して、目標を実現するために、教材にどのような発問や指示や説明(教師の行為)をつけるか考える。
2.普段の50分間の授業の構成
50分の授業を15分、15分、15分の3つに分けて考える。(残り5分は自由に)
① 今日の授業で最も考えさせたい重要な知識や見方・考え方を学ぶ15分
ここでは、考えさせる教材を使ってアクティブ・ラーニングで(調べ学習・グループ学習・討論など様々な方法を使って)教えたい知識や見方や考え方を納得・理解させる。
② ①で学ぶ以外の多くの知識などをあまり時間をかけずに学ぶ15分
ここでは、納得させる教材などを活用して説明し、理解させる。
③ まとめや板書の15分
ここでは、本時の目標につながるよう説明してまとめる。
3.一年に一回もしくは数回、こだわって納得できるアクティブ・ラーニングの学習を設定
2.の①のアクティブ・ラーニングは、教えたい基礎基本を学ばせるためのもので、いわば教師の設定したゴールがあらかじめ見えているものです。
これだけでは面白くありません。
子どもたちの自由な発想が活きるアクティブ・ラーニングの授業を一年に一回もしくは数回、とことんこだわってつくりたいですね。
3 授業づくりに対する姿勢
上で紹介した授業づくりでは、教材をどのように出会わせるのかという教師の行為を考えながら、教材を準備(教材の加工)していくことの比重が大きいです。
① 目標と学習者へのこだわりが強く、
② 教材や教師の行為への学習者の反応を考え(シナリオづくり)、
③ その反応は目標の実現につながるか、そして授業が楽しいかを吟味し、
④ 教材や教師の行為の修正をしながら
授業をつくっています。
また、クラス全員が授業に参加できる雰囲気づくりのための一つの工夫として、
誰でも発言できるような発問を授業の中に少なくとも1つは取り入れること
が有効です。
普段から授業時間内に、近くの子ども同士で軽い内容についておしゃべりする時間を設けたり、なかなか話が弾まないときには話すテーマをさらに絞って指定したり、「一人3回は発言しようか」と提案したりするとうまくいくこともあります。
授業に全員参加させるためには、全員参加できる場を作ればいいのです。
4 実践例(長篠の戦いを扱った小学校社会科の授業)
最初の発問
「長篠合戦図屏風」を見て、気づいたことを発表しましょう。
教材
教育出版(pp.54~55)「長篠合戦図屏風」
想定される子どもの反応例
①「左側の織田・徳川軍は立っている人が多い」
②「数字や漢字の書いた旗や赤白の色のついた旗が多い」
③「絵の真ん中あたりには黒い煙のようなものがある」
④「武田軍には馬に乗っている人が多い」
⑤「織田・徳川連合軍の鉄砲隊が武田の騎馬隊を倒している」
⑥「3000丁の鉄砲を持った3列の鉄砲がいる」
①~③は屏風からはっきりと読み取ることができます。一方、④~⑥は屏風から読み取ることはできません。①~③のような意見をあまり重視せず、④~⑥の反応を取り上げ
「織田・徳川連合軍は馬の侵入を防ぐ柵を作り、武田軍の騎馬隊の侵入を防ぎ、3000丁の鉄砲を三列に並べて切れ目なく発射することで武田の強力な騎馬隊を撃破し戦いに勝利しました」
と結論付けてしまいそうですが、④~⑥の反応一つ一つに「武田軍には本当に馬に乗っている人が多いですか?」「屏風から倒している様子がわかりますか?」「3列の鉄砲隊はどこにいますか?」というように再度発問するところから、アクティブ・ラーニングがはじまります。
上に挙げた結論について、「本当かな?絵からわからないし納得いかないぞ」と感じた子どもたちの問題意識を授業に取り入れましょう。
ここで、「社会科でアクティブ・ラーニング<理論編>」で挙げたように、「見方・考え方を養う」ために、「この屏風は一体いつだれが何の目的で書いたのか」という視点を授業に持ち込むといいでしょう。それこそが、本当に資料を使って考えるということといえます。
(※長篠合戦図屏風は尾張藩が後の時代に合戦時の史料を使って描かせた、徳川寄りに描かれた屏風)
次の発問
『こんなに変わった歴史教科書』(山本博文,2011)によると
- (3千挺は後世の脚色であり)千人の鉄砲隊を1kmの幅に3列で並べると間隔が3m(英軍は56㎝)、また、寄せ集めの軍で3段撃ちはそう簡単にできない。
- 1572年の武田の騎馬隊の軍役を見ると28人中3騎程度。
- 馬の大きさはポニー程度。
という研究成果があるらしい。
このうち、1. について本当かどうか調べて確かめてみましょう。
教材
2万5千分の1の長篠付近の地形図「三河大野」「三河富岡」
手順
鉄砲隊が並んでいる場所を見てみる。
本当に鉄砲隊の間隔は3mになるだろうか?
→山や川があり、土地の起伏もある。それらの自然地形を活用すれば、
鉄砲隊を並べる必要がある距離は1kmよりも短くて済むのではないか。
ならば、間隔ももう少し狭くすることができるだろう。
→なるほど3段撃ちでも大丈夫なのか!!
※地図を使用する際には、子どもたちが住んでいる地域の同縮尺の地図なども一緒に配り、
「ものさし」代わりにして比較してみるのも良い。
5 実践者プロフィール
漆間浩一(うるしまこういち)先生
1954年生まれ。元横浜市立中学校教諭。
指導主事、校長、指導部長、横浜教師塾アイカレッジ塾長、教育次長を歴任。
「いじわるよっちゃん」の社会科授業で有名。
現在、鎌倉女子大学教育学部教育学科 教授
6 編集後記
アクティブ・ラーニングをどのような配分で取り入れればいいのか、また具体的にどのような授業づくりがあるのか、実践的な内容についてもお話しされました。いかがでしたでしょうか?
1年に1度、こだわったアクティブ・ラーニングの授業をしようと思って、その授業内容をいつも考えていると、普段の授業づくりにも活きてくることがあるともおっしゃっていました。毎回毎回の授業をすべてじっくりと考えるのは難しいですが、年に1回だけでもとことんこだわった授業をしようと意識していれば、いつのまにか毎日の授業もレベルアップしているかもしれません。
関連記事
「社会科でアクティブ・ラーニング<理論編>」ではより理論的な内容を、
また「社会科でアクティブ・ラーニング<実践編②>」では、「授業のネタ」の観点から、アクティブ・ラーニングの実践法について紹介しています。
そちらもぜひご覧ください。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 横山尚人)
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