1 はじめに
この記事は、伊丹市立天王寺川中学校で実施された畑井克彦先生の授業「2つのカップで計量「いかに問題を解決するか」条件を変える」をまとめたものです。
授業の題材は、一般的に「水の分配パズル」「水の移し替え問題」「水の量り方問題」あるいは単純に「バケツ問題」と呼称されているものと同一のものです。
この授業は、伊丹市立伊丹高等学校で数学科と情報科の教諭としてご活躍された畑井先生が定年退職を迎えられるにあたり、初任校の天王寺川中学校の中学1年生37名に対して実践されたものです。参観の先生も24名いらしていました。
2 実践内容
単元名
課題学習
単元目標
目盛のついていない2つのカップで指定された容量を量るというパズル的な教材を利用し、問題解決するアプローチについて学びます。その基礎として、条件を変えてみることから構造について考えます。
今回は、思考を深めるための教材として、4Lと6Lの2種類の質量の水を量り取るという教材を用意します。
『考え方を見える化(ことば化)』することが、本時の目標です。
評価規準
関心・意欲・態度
パズル的な問題から、数学的な考え方を導き出そうとする。
数学的な見方や考え方
取り組みの過程を表現し、トレース可能にすることができる。
表現・処理
自分の考えを、言語化し伝えることができる。
知識・理解
数量の変化について表現する手法を知っている。
指導計画
3 実践したクラスの状況
活発でものごとに対して意欲的に取り組むことができるクラスです。自分の意見を持ち考えようとし、発言して説明することができます。日頃から4人班をつくって相談し、お互いの意見交流を行っています。
4 授業の際の生徒たちの反応
それぞれの生徒が思い思いの絵図を描いて考えていくのではないかと想定していましたが、「まず5Lから3Lに移して、それから…」という具合に、図示せずに言葉だけで解こうとして詰まってしまう生徒がおり、急遽考え方の一例を示すことになりました。
<図①>
これは解き方の一例で、思考のプロセスを表すこうした図がたくさん出てくることを期待していました。
しかし、実際には5Lと3Lの2つのカップの絵を描いて、最後まで解ききれずに途中で終わってしまっている生徒がいました。
5 導入により期待される効果
生徒は試行錯誤して問題を解決していきます。この授業では、いったん解決をしたあと、解決までのプロセスを分析することを通してそこに隠された構造を見ていく力をつけることができます。数学で問題を解く意味を理解しようとする意欲が増すことを期待した実践です。
今回の教材は、まずカップの絵を描いて考えるというところから始まり、上の図①のような数字による解答プロセスを考えつき、最後は数学的に格子点の問題として扱うことができる、奥行きの深い教材です。
<図②>
今回の問題の場合、5Lの容器にx回水を入れて満たし、3Lの容器をy回水を入れて満たす操作をするとすると、5x+3y=4の関数を解くことになります。
そして、この関数のグラフの格子点のうち、(x,y)=(2,-2)という解が、4Lを上の図①の手順でつくった場合の解となります。(すなわち、5Lの容器に2回水を入れ、3Lの容器に-2回水を入れる(つまり水を2回捨てる)という場合を表しています。)
カップのなかの水の移動という具体的なところから、抽象化を進めた結果が上の図①のような考え方だといえます。そして、使用する容器と量り取る容量を変えて再び考えてみることで、この課題に隠された構造を見ることができます。発展事項として、図②のように関数と格子点で考えるところまで行きつけば、どの手順が最短の手順なのかまでわかるようになり、最も考えが抽象化された形といえます。
今回の授業では、関数と格子点の話まで行きつくことは叶いませんでしたが、「関数的に考えることもできますよ」という紹介まではしておきました。
6 授業を進める上での工夫
今回は参観にきた先生にも協力していただき、生徒がどのように解答しているかについて記録をお願いしました。
ノートを使って考えたところから発言にいたるまでの過程で、各班の生徒が考えたことを記録して参観の先生に伝えてもらうことで、より詳細に生徒1人1人の考えをトレースできるようにする狙いがあります。
考えを深めることに対してはじめから強い興味をもった生徒がいたので、そうした生徒の面白い発想を参観の先生から伝えてもらうことができました。頭の中でもう答えがわかっているような生徒についても、参観の先生が間に入ってその考えの過程を伝えていただくことができました。
また、今回の授業では、一目で今日の授業での思考がトレースできるような板書になるように工夫しました。
7 課題点、改善点
「教える」というような授業内容ではなかった点がこの授業の面白かった部分でしたが、今回は単発の課題学習授業となったため、考え方などの事前学習をしてから取り組めばより様々な発想が生徒から挙がったのではないかと考えられます。
8 実践者プロフィール
畑井克彦先生
総務省地域情報化アドバイザー
伊丹市立天王寺川中学校数学科教諭,伊丹市教育委員会事務局指導主事,伊丹市立伊丹高等学校数学科教員を経て、同高等学校情報科主任(2002年~)
2016年3月に伊丹高等学校を退職し、現職(2016年8月現在)
9 編集後記
カップを使って数学的思考力を養う実践でした。いかがだったでしょうか。
具体的な課題から考え始めて、再度分析してみることによって他の問題にも適用できるような考え方を生みだしていくという思考プロセスは、問題解決を迫られる様々なシチュエーションで求められる力だと思います。
最近はコンピテンシーの育成が叫ばれていますが、問題解決能力の育成のために数学という教科指導にできることは大きいと感じました。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 横山尚人)
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