ジグソー法で考える現代文『山椒魚』

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目次

1 はじめに

この授業は、NPO法人ROJE(日本教育再興連盟)の高校学習支援プロジェクトが、聖学院高等学校の2年生を対象に実践したものです。実際に行った全8コマのうち、この記事では最初の3コマ分をご紹介します。

2 概要

教材

井伏鱒二の『山椒魚』

今回の授業では、この作品の登場人物である山椒魚の心情の変化をテーマに、生徒に考えてもらいました。なお、この授業で使用したワークシートはこちらをご参照ください。

対象

聖学院高等学校 2年 特進クラス 14名

なお、聖学院高等学校はアクティブラーニングに力を入れている学校のため、生徒たちは発表やグループワークに慣れているといえます。

ねらいと目標

本授業のねらいは、生徒に「文学は客観的に読めるものなのだ」と実感してもらうこと。そのために、生徒が自分の解釈について、「なぜそう読めるのか」を説明できるようになることを目標としました。

なお、本授業で参考にした指導案では、学習指導のねらいは次のように書かれています。本実践では、次の1に重点を置いたと言えるでしょう。

学習指導のねらい

1. 優れた描写に対する正しい読解力を身につける。

2. 登場する生き物たちの行動や台詞から、その性格や心理を正しく読み取る。

3. 寓話の形をとったこの話から、話そのものの面白さとそこに内包された人生の主題に目を向ける

[*1] 大修館書店『現B310 精選現代文B 指導資料』

ルーブリック

手法

今回の授業では、『ジグソー法』という手法を採り入れました。ジグソー法は、生徒が対話を通し、より能動的に読み、また自分の意見を表明することを促す手法です。ジグソー法の詳細については、知識構成型ジグソー法によるアクティブラーニングの実践の記事をご参照ください。

3 内容

授業の流れ(50分×3コマ)

詳細な授業案は、こちらです。(第1回から第3回までがこの記事のものです)

通読(15分)

まずは全体の内容を把握してもらうために、通読してもらいました。(なお、設定した通読時間15分は、授業作成者が最初から最後まで声に出してゆっくり読んだ時にかかった時間です。)

高校2年生には難しい表現が多いと思われたので、語釈プリントを作成して配布しました。

事前活動(10分)

最初に感じたことを書いてもらいます。ここで書いたことを第3回の最後に振り返ってもらいました。

エキスパート活動(計30分程度)

物語を序盤(A)、中盤(B)、後半(C)に分けて作問しました。生徒を3-4人ずつの班に分け、各班でAを担当する人、Bを担当する人、Cを担当する人を決め、A担当の生徒同士、B担当の生徒同士、C担当の生徒同士でそれぞれ考えを深めてもらいました。

作成した問題は次の三つです。

A問題
次の2つの山椒魚の台詞からは、山椒魚のどのような考え方・気持ちが読み取れますか。また、なぜ、どのような部分から、そのように読み取れますか。グループごとに話し合い、かつ書き込んでいきましょう。(主に参考にする部分は、p.116 1行目からp.119 9行目)

  p.117 4行目「いよいよ出られないというならば、俺にも相当な考えがあるんだ。」

  p.119 4行目「なんという不自由千万なやつらであろう!」

B問題
次の文の、「合点のゆかないこと」とは何でしょうか。また、山椒魚は、「合点のゆかないこと」に対して、どのような思いを抱いたでしょうか。また、なぜ、どのような部分から、そのように読み取れますか。グループごとに話し合い、書き込んでいきましょう。(主に参考にする部分は、p.119 10行目からp.123 6行目)

  p.122 13行目 その結果、彼のまぶたの中ではいかに合点のゆかないことが生じたではなかったか!

C問題
次の山椒魚の台詞から、山椒魚のどのような気持ちが読み取れますか。また、なぜ、どのような部分から、そのように読み取れますか。グループごとに話し合い、書き込んでいきましょう。(主に参考にする部分は、p.123 7行目からp.126 9行目)

  p.126 1行目「そんな返事をするな。」

A, B, Cの各グループに大学生がつき、議論が行き詰まっているようならヒントを与えるなどサポートをしました。このとき、山椒魚の心情がどのようかだけでなく、なぜそう読めるのかについても考えるよう伝えます。

ジグソー活動(計30分強)

班に戻り、各グループで議論したことを同じ班の他の生徒に伝え、さらに議論を深めます。大学生は、エキスパート活動と同じように就きます。「なぜそう読めるか」に着目するのも同様です。

ジグソー活動のために作成した問題は次のものです。

問題
前回は、グループごとに山椒魚の心情について考えてもらいました。今回は、班ごとに次のワークを行ってください。(もちろん2がメインです。)

  1. 各グループでの話し合いの内容をそれぞれ班員に伝える。

  2. それをヒントに、次の3点について考えながら、山椒魚の心情や考えの変化を読み取る。

    a. 変わったポイントはどこでしょうか。

    b. どのような気持ちからどのような気持ちへ変わったのでしょうか。

    c. なぜそのように変わったのでしょうか。

  ◎「なぜ、どの部分からそう言えるのか」を意識しつつ、考えてみましょう。

ファシリテーターからの解説

クロストークはファシリからの説明に差し替えました。これは、どのようにしたら客観的に読めるのかを示したかったためです。指導案を元に解説プリント(第1-3回 ジグソー法 解答・解説)も作成し、配布しました。

4 留意した点

留意点など

  • ジグソー法は生徒の動きがやや煩雑なので、どう動くべきか生徒に丁寧に説明しました。
  • ジグソー法に限らずですが、生徒の発言を重視する授業では、生徒がどのように考えどのような発言をするのかを事前に予想しておくことが極めて重要です。その予想に沿って問題の難易度を調整したりヒントを準備したりしておくことで、円滑な授業進行が可能となります。(これは、この授業で提示した問題がやや難しすぎたことへの反省点でもあります。)
  • 生徒の発言を予想するために、その問題を見たことのない人(今回は大学生)にワークの問題を事前に解いてもらいました。
  • グループワークでは、グループの全員が議論に参加しているか、よく確認する必要があります。参加していない・参加できていない生徒がいる場合、ジグソー法の魅力は半減してしまいます。
  • 今回の授業では、各回の終わりにワークシートを集め、生徒が疑問に思っている点を探し、次の回に生徒に伝えることを新たに考えたり、それをサポートの大学生に伝える資料を作成したりしました。

生徒がつまずいたポイント

  • 「合点がゆかないこと」とは何か
  • 「くったくしたり物思いにふけったりするやつはばかだよ」の解釈(えびを馬鹿にした発言だと捉えてしまった)
  • 山椒魚の気持ちの変化(はっきりとは捉えられなかった)
  • その他、生徒が疑問点として挙げていた点については、現代文 表現の解説をご参照ください。教師用指導案を元に作成した解釈とともにまとめてあります(なお、このプリントは、第4回の授業で配布しました)。

生徒がつまずくと思われたが、つまずかなかったポイント

  • ワークシートAの読み取り
  • 山椒魚が「暗闇」や「深淵」に対してどのように思ったかなど

5 授業を終えて

授業作成者から

生徒たちはしばしば、ここは難しいだろうと思われたポイントも自分たちだけで乗り越えてくれました。以前、聖学院の伊藤豊先生から「グループワークをすると、生徒は指導案レベルの解釈は自分たちだけでできてしまう」とのお話を伺い、その時は半信半疑だったのですが、今回の授業で生徒たちはそれを成し遂げてくれました。これは何も聖学院の生徒たちに限らないと思います。私たちはしばしば生徒たちの力を甘く見ているのではないか、と反省させられた授業でした。

関連資料

授業の概要.docx

ワークシート 第1回-第3回.docx

授業案 第1回-第8回.docx

語釈プリント.docx

現代文 表現の解説.docx

第1-3回 ジグソー法 解答・解説プリント.docx

サポート大学生向け資料(第2回用).docx

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