教員の多忙化とは(斉藤ひでみ先生) その1 ~多忙化の原因とその責任~

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目次

1 はじめに

本記事は、様々な教育問題の内容や争点を知るための企画『Debate with Student』の第1弾として、教員の多忙化について、斉藤ひでみ先生へ2020年1月11日に行ったインタビューを編集したものです。斉藤ひでみ先生は、公立高校教員で、教員の長時間労働の一因として問題視されている給特法の見直しを求め、署名活動をされています。

その1では、多忙化を引き起こしている原因と、その責任の所在についてお聞きしました。是非学生の方だけではなく、教員の多忙化に興味のある方もお読みください。併せてこちらの記事もご覧ください。
教員の多忙化とは(斉藤ひでみ先生) その2

2 教員の多忙化の原因

管理職の意識

4月の最初の職員会議では、各教員に様々な業務が割り当てられます。そこで重い負担を引き受けて土日に学校へ行っても、教員の残業は給特法によって「自発的行為」として見なされるので、各々が「好きでやっている」という扱いにしかなりません。

このことから、「残業時間を短くしなくては」という意識が管理職の中に生じにくいという問題があります。管理職は「頑張ってくださってありがとうございます。これからも生徒のためにできる限り努力をしていきましょう」と言うくらいのものです。これは管理職を批判しているのではなく、現状はそういう法律だということです。

しかし、時間外の部分がきちんと管理されていませんから、それぞれの教員がどのような業務で、どれくらい大変な思いをしているのかが見えづらく、人知れず相当な業務を抱え苦しむ現状が発生しています。

校務分掌

多忙化の原因として、特に高校だと校務分掌の問題が挙げられます。1人につきいくつもの担当が割り振られ、その組み合わせで考えると同じ業務内容の教員は1人もいないくらい、多種多様な役割を担います。

大変な分掌の一例が時間割担当です。小学校でも教員が毎週時間割を作りますが、小学校の場合は1限から6限まで全部そのクラスの担任が授業をしますから、1週間分の授業を自分で組み立てます。高校の場合は、時間割担当の2人か3人で、50人以上いる全ての教員の時間割を毎週修正しなければなりません。教員1人の授業を時間割のどこかに移動させると、他の教員の授業も移動させる必要が出てきます。そのため、結局は時間割の全体修正をしなくてはならなくなります。そのような授業の組み換えを勤務時間外まで行うことが度々生じます。授業準備はままなりません。

また、重い分掌として、奨学金担当があります。様々な団体が行う年間15件ほどの奨学金について、高校教員が窓口になっています。中には、在学中の奨学金でないものもあります。本来大学生の時に申し込むはずの奨学金なのに、高校3年生のうちからあらかじめ申し込めるような予約制度があり、その窓口業務を高校教員が肩代わりしています。書類の配布・説明・申し込み受付・チェック・整理・送付などの業務を高校教員が担っているのです。そんなことをしていたら定時で終わらないうえに、その時間は授業準備ができません。「これは教員の業務ではありません」と管理職なり、教育委員会なりが突っ張ねてくれたらよいですが、立場の弱い誰かがその「お願い」を引き受けざるを得ないのが現状です。

仮に奨学金業務が負担で心を病み、倒れたとしても、その教員が好きに引き受けて、好きに頑張って、好きに倒れた、という扱いになってしまうのです。結局残業が自発的な行為であると見なされている限りは、こうした不幸は続きます。本来人を働かせるためには対価が必要ですが、「教員を自発的に働かせればタダで済む」という現実も少なからず影響していると思います。

時間割担当や奨学金担当は一例に過ぎず、様々な校務分掌で限られた時間が奪われてしまっています。高校では、校務分掌に関する業務を少なくしたり、外部化したりして、この問題に何らかの対処をするべきだと思います。

テスト作成

高校では、課題テストも含めると年に6回くらいテストがあります。テストの作成は、1科目につき3時間から4時間くらいかかります。テスト作成もまた、定時外でしなくてはならない業務の一つです。複数作る必要がある場合だと、教科にもよりますが、作成にかかる時間は、私の場合8時間から10時間くらいです。テストを実施した後は採点もしなくてはなりません。テストの点数や成績の入力、欠点の生徒のための再試作成まで含めると採点業務は1回のテストにつき12時間から14時間くらいかかっています。テストの前後は土日が潰れてどこにも行けない、ということもしばしば起こります。それも労働として扱われない、好きでやっている扱いだということです。

その他の校務

その他の業務に関しては、授業準備、学級経営、また部活動も実質強制されています。教員の一日は、授業をして、帰りはホームルームをやって、掃除をするという流れで、その時点で15時20分。週に2回は7限までありますから、16時20分になります。勤務終了は16時50分のため、ようやく生徒から解放されて自分の仕事をしようとしても、勤務終了まであと30分しかありません。週に1度補習もあり、その場合16時45分になってしまうため勤務終了の5分前になります。それに加えて会議が放課後や時間割の中に入ってくるので、長い時間拘束されます。授業の空きコマの時間も、校務分掌の業務をしたり、学級経営の業務をしたりしないといけません。

本当は授業準備をやりたいところですが、勤務時間内にその時間はありません。私の場合は、できる限り質の高い授業をするために、私生活の時間に1時間から2時間くらい授業の準備をしています。そのとき作ったプリントを印刷する作業を授業の空きコマにやっていたらあっという間に定時が終わってしまいます。

最近ではようやく、諸々の業務の残業時間が計測されるようになりました。しかし、持ち帰り業務の時間は残業時間の中に含まれていません。学校での残業時間と持ち帰る業務の時間を合わせると、平均80時間から100時間は働いていると思います。過労死ラインを超えています。

3 残業の責任

給特法

残業というものは必ずしも皆やりたくてやっているわけではなく、やらないといけないからやっている現状があります。それでも、給特法という法律がある限り、残業は自発的に行っているものとみなされ続けます。今年の4月からは、残業時間を月45時間までにするという指針が学校現場に降りてきますが、結局残業の責任は各々にあることになると思いますので、業務を自ら整理して減らすことが求められます。残業が「自発的行為」であるからには、民間のように管理職に対する罰則はつきようがないのです。

こうしたことを考えた時に、法律が制定された50年前から変化している現状に合わせて、法律を直していくべきです。給特法という法律が作られたことの是非は置いておくとして、この法律を50年間見直してこなかったことが何より問題だと思います。

それぞれの教員が私生活を犠牲にすることで今の教育水準は保たれていますが、それも限界を超えてしまっています。本当はこんな体制が続くのはおかしいと思います。時間の制約や予算の制約の中で、業務量が自然と適正化されていき、はみ出している分は人員が配置されるということが行われていくべきです。本来は正式な労働が何時間で、それに何人必要なのかを考えるわけですが、給特法があることで自発的な労働で全体の業務が賄われているゆえに、人が増やされないというのが現状です。

法律以外の問題

個々の教員の意識も、多忙化の一因であったということは確かだと思います。「生徒のために可能な限りいくらでもやりましょう」ということで業務が増えてきた側面があります。

それにしても、肥大化を許してしまう法的土台が給特法です。給特法は、「残業に規制をかける法律」ではなく、「残業は自発的にいくらでもやって下さいね」という法律ですので、時間外勤務抑制の動機を管理職のみならず、一人一人の教員からも奪ってしまいました。「給特法を変えないままで教員の意識だけ変えましょう」ということでは結局限界があります。体制が変わって初めてそれに付随する教員の意識も変わっていくため、給特法を抜本的に見直していくことで意識の変化を促す必要があると思います。私は給特法を意識し始めてから、現場の多くの問題が給特法に行き着くことに気が付きました。逆に、給特法を変えればほとんどの問題を改善できるということです。多くの多忙化にまつわる問題の根本は給特法に繋がっていると思います。

部活動

多忙化の原因は部活動にもあります。部活動を学校から手放すか、すぐにそれが難しくても、まず顧問という業務が任意であることを認めれば、中高の超過勤務はかなり改善されるでしょう。少なくとも残業は月45時間よりは少なくなります。

私は、この問題も結局は給特法に結びついていると考えます。給特法がなくなったら、部活動は自発的行為にはならず、管理側の責任として残業代を支出しなくてはならないからです。部活動に不慣れな素人顧問にも残業代を支払うのか、それなら顧問は教員でなくてもよいのではないかという議論にもなるはずです。制度的に無理がある部活動が存続しているのは、給特法によってそれが管理側の責任にならないということが関係していると考えています。

4 プロフィール

斉藤ひでみ先生

岐阜県公立高校教員。本名、西村祐二。2016年8月よりツイッターで教育現場の問題を訴え始め、給特法の抜本改正、変形労働時間制の撤回を求める署名活動を行う。署名は国会や文部科学省へ提出、記者会見や国会参考人陳述で数々の提言を行なった。共著に『教師のブラック残業』(学陽書房)、『迷走する教員の働き方改革』(岩波書店)。ツイッターアカウントはこちら。(2020年1月11日時点のものです。)

5 関連書籍

教師のブラック残業~「定額働かせ放題」を強いる給特法とは?!

迷走する教員の働き方改革——変形労働時間制を考える (岩波ブックレット)

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7 編集後記

この取材を通して、給特法により授業準備や部活動だけではなく、校務分掌やテスト作成など現場以外からは見えにくい業務で苦しめられている多忙化の現状を知ることができました。1人でも多くの方にこの記事を読んでもらい、教員の多忙化の現状を知っていただきたいです。
(EDUPEDIA 編集部 編集・文責:安藝航/取材:安藝航、千葉菜穂美)

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