人間関係学科を語る・・・ストレスマネジメント

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作成者: 深美隆司さん

1 人間関係学科を語る・・・ストレスマネジメント

1.こころの成長を阻害するもの

「人間関係づくり」における重要なキーワードの中に「イラショナル・ビリーフ」というものがある。直訳すれば「不合理な信念」ということであるが、簡単には「固定観念」と考えていただければいい。ステレオタイプや偏見というふうに差別の問題へと発展させて捉えることもできる。人間が固定観念というものにとらわれると、自らに限界線を引き、それに縛られ、物ごとに対してネガティブな思考しかできなくなるのである。まわりにいくら働きかけても生産的な結果を得ることができなかった経験を積み重ねてしまった人は、「どうせ頑張っても・・・」という固定観念にとらわれ、ポジティブな思考や行動がとれずに受け身的な、萎縮した態度をとらざるを得なくなる。戦争時も同じである。戦争を推進する人たちは、相手に対する誹謗中傷をあたかも正当な考えとして様々な手段を使って流布させ、固定観念やステレオタイプや偏見や差別として社会の中に成立させる。そうすれば、相手方の一人ひとりの人格や個性や好みや感性やユニークさや素晴らしさなどのもろもろの良さを一瞬のうちにイラショナル・ビリーフでもって抹殺することができるのである。ましてや、相手方の文学作品を愛し、作者を尊敬するなどということは、例外としてしか起こりえないであろう。

人間が対象物に対して、感じたり見たりしていく状況や過程においては、いろいろな間違いをおかすことがある。使い古したトイレットペーパーを真っ直ぐに立てて上から撮った写真を見せると、何人かの人は「下皿付きの白いカップにコーヒーが入っている」と答える。「白・黒・丸い」という情報だけで判断し、第一印象が固定観念となり、思い込みをおかし、本当の姿が見えなくなってしまう。コンビニでもらえる白いプラスチックのスプーンを机の端に置き、膨らんでいる方向から真横に写真を撮ると、卵に見える。これは、部分を見て全体を見ないというケースである。このように、視覚的な事だけでも、様々な誤りを人間はおかしてしまうのである。

これが、子ども自身の行動や生活様式から派生する出来事や人間関係のことになってしまうと、深刻な事態となる。イラショナル・ビリーフによるネガティブな思考や行動は、負のスパイラルとなって子どもを襲ってくるのである。このイラショナル・ビリーフから子どもを解放していくということは、学校での大きな課題である。その際、有効なスキルに「リフレーミング」というものがある。リフレーミングとはフレーム、つまり枠組みをリセットしてしまう、つまり、思考の枠組みを変えてしまおうということである。人間関係学科においては、リフレーミングを使った授業を3年生の2学期に展開している。進路選択を目の前にした子どもたちが、面接等で自分をアピールするときに、自分の良さよりも欠点にばかり目がいき、自信をもって自らを表現できずに萎縮している姿がよく見られる。例えば、「しゃべるのが苦手」「あきらめが早い」などの欠点と思われる事も、リフレーミングによって「物静かで思慮深い」「くよくよしない」などの長所に変えることが出来る。これは、ネガティブな思考をポジティブな思考に変換するということの意味を子どもたちが感じることができるということが大切な事なのである。

2.イラショナル・ビリーフに負けないために

自分自身をポジティブに、かつ素直に表現していくためには、自分が何者であるかが分かっていなければならない。それを表す手段が枠組み(フレーム)というものである。「私は・・・です。」「私は・・・です。」という問いを自分自身に投げかけ続ければ、自分自身の中にある枠組み浮かび上がらせることができる。ふつう、人と接したり、物ごとに対処したりするとき、自分の枠組みにあてはまることは受け入れることができるが、枠組みからはずれると、受け入れられなかったり理解でなかったりするのである。それゆえに、自らの枠組みを認識し、表現することを繰り返していくことが、自分自身の枠組みをひろげていくための手段なのである。そのために、人間関係学科では、これを自己開示の授業として展開をしている。入学時の「わたしのジャガイモ」、学年が上がったり、クラスでの班替えの都度に取り組んでいる「サイコロトーキング」「すごろくトーキング」「コロコロトーキング」「ルーレットトーキング」「ガラガラトーキング」など、ポピュラーなものからオリジナルまで、多彩な形態で授業を展開している。クラスの仲間と、このような自己開示の授業を積み重ねていくことで、子どもたちは、いろいろな仲間の枠組みに接することができ、その枠組みを自分の中に取り込んで、自分自身の枠組みをひろげていけるのである。

そして、自己開示の授業ばかりではなく、様々なグループ・アプローチによる授業を通じての仲間の様々な「気づき」にふれることで、さらに自分自身の枠組みをひろげていくことができる。その上、総合的な学習の時間や地域本部事業などの取組において、出会う地域の大人たちの枠組みも、大人のモデルとして自分自身の未来像の一つとして取り入れることができるのである。リフレーミングも、子ども自身が枠組みをひろげていく一つの手段として捉えることができれば、子どもたちの「気づき」として、子どもたちは抵抗無くリフレーミングを実行することができるのである。つまり、基本的なスキルの土台に、発展的なスキルが可能になるということである。

3.ストレス・マネジメントはイラショナル・ビリーフに効果がある

人間関係学科では、1年生のあいだに、人間関係学科の基礎的なことを学んでいく。特に、2学期に取り組んでいるストレス・マネジメントは、人間関係学科のプログラムの中核をなしている。ここで、何を主体に置くかといえば、やはり、イラショナル・ビリーフへの対抗ということになる。で、何でもって対抗するかというと、自らの「ストレスへの気づき」と「他者の気づきへの気づき」である。現代はストレスフルな社会と呼ばれ、困った行動や、まわりからのプレシャーや、過度の緊張した場面に出くわすと「ストレスが溜まる。」という表現がすぐに出てくる。それだけ、ストレスというものが社会的な認知を得ているばかりでなく、社会の中に普通に蔓延している表れであるということである。しかし、人間の中にストレスが発生するプロセスや、ストレスに対処する方法(「コーピング」と呼ばれる)について、どれだけ理解されているのだろうか。

人間関係学科では、この部分を学んでいくのである。その一部を紹介しよう。

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「はい、じゃ、今から一枚のワークシートを配ります。行きわたりましたか? 」

「ワークシートを見てみましょう。A4の紙に、マス目が書かれていますね。縦が15列、横が15列、合計何マスありますか? そう。225マスです。計算速いですね。すごく期待が持てます。左上のマスを見て下さい。数字が書かれてますね。そう、1000って書いてあります。で、今からみなさんがチャレンジしてもらうことですが、1000からある数字を引いてもらいます。」

「そうですね。7を引いていきましょうか。1000−7は? そう、993ですね。ますます期待が持てます。あっ、まだ書いちゃだめですよ。次に、993から7を引きます。そしてその答えからまた7を引いた答えを書きます。そして、何回も何回も7を引いていくと、最後には7以下の数字になってマイナスになっちゃいますね。もうこれ以上引くとマイナスになるってとこまで引いていって下さい。そこがゴールです。」

「答えは、縦に書いても、横に書いていっても構いません。やりやすいように書いて下さいね。でも、バラバラなマスに答えを書かないでください。あとで、全部答えの数字を合わせますから。制限時間は3分です。3分たったらストップをかけますから、できているところまでで計算をやめてください。ルールは理解できましたか? 質問はないですか?」

「 そうそう、私の今までの経験から言えば、だいたい6割の人はクリアできます。頑張ってくださいね。それでは、えんぴつの準備はいいですか?」

「はい! それでは始めたいと思います。」(ストップウォッチを高く掲げて)

「用意! はじめ!・・・ません。やめときます。」
(子どもたちからは、驚きの声−「えっ」とか、「あっ」とか、時には抗議の声も)

「みんな有り難う。協力していただいて。」

「ところで、今、あなたたちの今の気持ちや感じたことをしっかりと掴んで下さい。大丈夫ですか。しっかり受けとめましたか。」

「そしたら、今の気持ちを聴かせてもらいます。Aさん、どんな気持ちですか。」

A−「ほっとした。計算は苦手なので、間違ったりしたら、格好悪いやろ。」

「Bさんは?」

B−「めっちゃ残念やわ。自信あったから絶対クリアしよ思ってたから。」

**********************************

というように、大きく分けると「ほっとした。」「残念だった。」という二つのパターンに分かれるのである。ここで、子どもたちになぜ、二つのパターン分かれたのであろうか。「計算をしなければならない」という、一つの刺激が「ほっとした」「残念だった」という二つの評価に分かれてしまったということに着目するのである。「ほっとした」グループには、「嫌なことをさせられる。嫌だ。嫌だ。」という感情を起こさせた。「残念だった」というグループには「ようし、やってやろう。」という意欲を沸かせたということである。「ほっとした」グループには「計算をしなければならない」ということが、ストレスとなって表れるということがわかるだろう。つまり、「計算をしなければならない」ということがストレス発生の原因(これを「ストレッサー」と呼ぶ)となり、「ほっとした」グループにストレスを発生させた。人間はストレッサーからの刺激を受けると、それに対する「評価」を下すシステムが存在する。その「評価」の結果により、「ほっとした」グループに対するようにストレスを発生させたり、「残念だった」グループに対するように意欲を高めたりするのである。ここで、問題になるのは「ほっとした」グループが計算を無理矢理させられてしまったとしたらどうなるか、ということである。多かれ少なかれ、何らかの反応となって表れてくる。それが、体にあらわれたり(例:疲れた)、心にあらわれたり(例:イライラする)、行動にあらわれたり(例:怒りっぽくなる)する「ストレス反応」と呼ばれるものなのである。

室温が40℃の蒸し暑い部屋に4人の人間が座って個々の仕事をしているとしよう。室温がさらに上昇し、そのストレッサーにより発生したストレスをどうにかしたいと思った4人は、それぞれのストレスに対処する行動をとり始めた。Aさん−「冷蔵庫の中を覗いて冷たい飲み物を探す。」、Bさん−「クーラーのスイッチを入れる。」、Cさん−「上着を脱ぐ」、Dさん−「我慢する」(実は、これらの答えは、松原七中を学校訪問された先生方にストレス・マネジメントの説明させていただいた時に、答えて頂いた内容である。)これらの行動の中には、好ましい対処(積極的コーピング)と好ましくない対処(消極的コーピング)があることに気づくだろう。Dさんの「我慢する」という行動は、さらに、Dさんのストレスを増幅させ、何らかの新たなストレス反応を発生させるのではないだろうか。人間の生活は、このようなストレッサーとストレス反応の連続であるといっていいだろう。このような、負のストレス反応のスパイラルを断ち切ることが、大きな課題ではないだろうか。

ストレス・マネジメントの学習を進めていくと、子どもたちはそれぞれの「気づき」から、自分の枠組みを膨らませていく。「えっ、ムカついた時に、壁蹴ったり、物叩きつけたり、相手殴ったしないやついるの?」普段の行動を見ていたら、そんな事、当然見えているはずなのに、自己認識ができていなければ、自分の行動を確認できていないということは、よくあることである。しかし、学びとして「気づき」を引き起こし仲間の中で共有した時に、自らの行動を客観視し、自分をふりかえることができるのである。「ムカついたら、暴力であらわすものだ。」というイラショナル・ビリーフに囚われている子どもも、自己の枠組みを拡げることで、じゃ、「外に出てボールでも蹴って気分を紛らわそう。」という好ましい対処の仕方に気づいていくのである。

指導案)
ストレス対処「100マス計算」
http://www.aiainet-hrs.jp/11shidoan/stress-coping.pdf

人間関係学科シリーズ
「もめごとだって解決できるさ」(深美隆司先生)
人間関係学科とは・・・
人間関係学科の三要素
人間関係学科の三側面
人間関係学科・・・教員に求められる力
人間関係学科を語る・・・ストレスマネジメント
自分の成長時間(深美隆司先生)

コラム
「もし学校の教師が岩崎夏海の『もしドラ』を読んだら」

http://edupedia.jp/entries/show/1175
「もし学校の教師が岩崎夏海の『もしドラ』を読んだら」その②

http://edupedia.jp/entries/show/1178
「もし学校の教師が岩崎夏海の『もしドラ』を読んだら」その③

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