学校の先生方へ「知ってほしい…病気の子どもたちのこと」③

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作成者: EDUPEDIA編集部 (Edupedia編集部)さん

本記事は、赫多久美子(かくたくみこ)さんによる全10回連載の第3回目となります。
 第1回『A君の入院』  http://edupedia.jp/entries/show/1415
 第2回『保健室で』  http://edupedia.jp/entries/show/1480

この連載で扱われるケースは全て赫多さんのご経験などを基にした架空のお話です。

〈解説〉

A君が入院して7日が経った。一昨日、A君のお父さんから、治療方針が決まり最低でも5ヶ月の入院になると電話が入った。主治医の勧めもあり、A君は院内学級に入級することになった。


1 第3回 校長室で


今日はお母さんが必要な書類を受け取りに学校に来られることになっていた。

私(担任の春野)はA君のお母さんを玄関で迎え、大山校長、養護教諭の深見先生が待っている校長室にご案内する。


とてもお疲れのご様子のお母さんに、校長先生が声をかける。相手を包み込むような穏やかなアルトの声だ。


「お待ちしておりました。どうぞこちらにおかけください。…突然の入院で私共も大変驚いているところです。A君の具合はいかがですか?」


「ありがとうございます。昨日から点滴の治療が始まりました。痛みは薬で収まっていますが、これから副作用でちょっとどうなるか…。入院した日は布団を被って口もきかなかったのですが、2日目にはお隣のベッドの5年生のお子さんともうすっかり仲良くなって、一緒にゲームをしたりレゴを組み立てたりしてました。そのお子さんは入院して2ヶ月になるそうです。

一昨日、主治医からこれからの治療の説明を受けたのですが…親が言うのも何ですが、とてもしっかりしていて。『早く病気を治して早く学校に戻りたい。だから頑張る。』って、言うんです。」


お母さんはハンカチで目を押さえる。

主事の桜木さんがお茶を出してくれる。


「ありがとうございます。主治医の先生から、病気が早い段階で見つかって本当に運が良かったですよと言われました。今のところ、他に転移は見つかっていません。症例も少ないし早期の発見が難しい病気だそうです。あの日、深見先生に受診を勧めていただいたおかげです。」


お母さんが頭を下げる。深見先生は頭を小さく振りながら言う。


「A君がちゃんと足の違和感や痛みについて話してくれたからです。」



「小さい頃からサッカーをしていて捻挫や打撲はしょっ中だったので…それに最近身長が急に伸びてきていたものですから、成長痛だろう、そのうち治るだろうと本人も私も軽く考えていて…まさかこんな病気だなんて…すみません、書類を取りに伺ったのに、つい…。」


「いいえ、本当に大変な中わざわざお越しいただいて。お母様、冷めないうちにお茶をどうぞ。…担任の春野から聞いておりますが、入院が半年近くになるとか。」


「ええ、10週間の化学治療で腫瘍をできるだけ小さくしてから手術をすることになると言われました。その後、リハビリがあるそうです。でもあくまで予定で…点滴のお薬の効き具合にもよるそうです。」


 (一昨日の夕方、A君のお父さんからの電話で聞いた内容だ。その時は腫瘍という言葉だけで膝がガクガク震えてしまった。院内学級に転校するために必要な書類についてメモするのがやっとだった。)


「…長期戦ですね。今回、緑が丘小学校のあおば学級に学籍を移すことにはなりますが、A君は、これまでと同じように 'ひなた第三小学校' の子どもです。我々も全力でサポートします。その点はどうぞご安心下さい。」


「校長先生、本当にありがとうございます。あの子はとにかく 'ひな三' に早く戻りたいと…。

あの…学級通信やプリントも届けていただいて。一緒に入っていた春野先生からの折り鶴のメッセージとタケル君からのカードをしばらくじっと眺めてました。タケル君はクラスで一番絵が上手いそうですね。ルフィのイラスト、ホントに上手でびっくりしました。今、両方ともベッドの横にある棚に飾ってあります。ありがとうございました。」


(そうなんだ…タケル君はカードを添えてくれたんだ。先週、3日分たまったA君用のプリントをフォルダにまとめていたら、タケル君が「ぼく家が近いから、A君の家のポストに入れに行くから」と自分から申し出てくれたのだ。)


「あっ、これ、Aが春野先生に渡して欲しいと…。」


手渡されたのは漢字のミニテストと算数のプリント、それに班ごとに作っている歴史新聞の分担記事だった。丁寧に書き込んである。テストの名前の欄の横に


「春野先生 つる ありがとう。ぼくはヒマです。人間ヒマだと勉強したくなることを発見! なんちゃって(^.^)」


とある。おどけたA君の口調が聞こえたような気がして、クスっと笑ってしまった。隣に座っている深見先生にそれを見せると、


「たくましいね、A君は。将来は大物間違いなし!」


と、校長先生に回す。


「ほぉ~、A君はなかなかしっかりしたいい字を書きますね。やっぱり子どもって、本当にすごいわねぇ。」


校長先生は眼鏡をかけ直しながら感心して眺めている。お母さんが少し微笑む。


お母さんがバッグから院内学級のパンフレットを取り出してこちらに差し出した。担任名の欄に、風吹爽太、友田明美とある。


(昨日、あおば学級の風吹先生が電話をくださった。とても優しい声の男の先生だった。「入院中、ひなた第三小学校の大事なお子さんAくんをあおば学級でお預かりします。退院して必ずそちらに戻ります。その間いろいろ連絡を取らせていただくことになりますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。」と言われ、少し心が落ち着いた。院内学級に転校してしまったら、A君が自分の手の届かない存在になってしまうような気がしていたのだ。)


ノックをして熱井教頭先生が入ってきた。


「お待たせしました。今、ちょうど緑が丘小学校の教頭先生とお電話が繋がりまして、転出入日が決まりました。こちらが在学証明書でこちらが教科書給与証明書です。公印よし、日付けよし。では、これをあおば学級の先生にお渡しください。」


「お手数をおかけしました。ありがとうございました。」


校長先生がこちらを見て言う。


「ところで春野先生、クラスの子どもたちへはどのように?」


「A君は病院で検査をうけているとだけ話しました。皆とても気になっているようです。同じサッカーチームの子はA君が入院しているのを知っているようです。」


「分かりました。お母様、他の子どもたちへにはどのように伝えましょうか。」


「クラスの皆さんには、Aは足の治療で大学病院に数ヶ月入院するけれど、足が良くなれば退院してクラスに戻ってくると伝えて下さい。入院したことはサッカーの監督にも伝えてあります。」


校長先生が頷く。


「では春野先生、そのようにしてください。それと転籍についてはクラスメイトに話す必要はありませんよ。これは子どもたちには関係ないことですからね。

ひな三の子どもが、入院中あおば学級さんにお世話になるというだけですから。あちらと協力してA君をしっかりサポートしていきましょう。…お母様、これからも何か気になることがありましたらいつでもご連絡ください。」


そうだ、校長先生の言う通り、A君は院内学級に籍が変わっても、6年2組のメンバーのままだ

風吹先生はできるだけこちらの学習内容や進度に合わせて指導して下さると仰っていた。

昨日頼まれた年間指導計画と月別指導計画、この3日間の配布物やテストはここに準備してある。

さあ、私にできることは他に何があるだろう。明日、子どもたちに入院のことを話して、A君を励ますためにできることをクラスの子どもたちと考えよう。


転籍しても

長期間の入院で、病院内にある学校(病弱特別支援学級、特別支援学校の分校・分教室・訪問学級等)で教育を受けるには転校手続きを取ることになります。しかし、子どもにとっての「自分の学校」は、それまで通っていた学校であり学級です。一時的に籍は移っても、今まで通り担任としての関わりを保って下さい。

第4回 靴箱の前で

http://edupedia.jp/entries/show/1548

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