主権者教育の基礎基本(4)カリキュラムをデザインする

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作成者:Akihiko Yamaguchiさん

主権者教育の概要

主権者教育の概要は、次のようにまとめることができます。

◎教育のねらい

  • 有権者としての判断を適切に行うことができるように指導
  • 話合いや討論等を通じて生徒が自らの考えをまとめていくような学習
  • 現実の具体的な政治的事象を取り上げる
  • 模擬選挙や模擬議会等の具体的・実践的活動を取り入れる

◎学びの特色

  • 正解が一つに定まらない問いに取り組む学び
  • 学習したことを活用して解決策を考える学び
  • 他者との対話や議論により、考えを深めていく学び

◎身につけさせたい技能

  • 論理的思考力(とりわけ根拠をもって主張し他者を説得する力)
  • 現実社会の諸課題について多面的・多角的に考察し、公正に判断する力
  • 現実社会の諸課題を見出し、協働的に追究し解決(合意形成・意思決定)する力
  • 公共的な事柄に自ら参画しようとする意欲や態度

カリキュラムデザイン

主権者教育を、学校全体の取り組みとして、どのようにデザインすればよいのでしょうか。

◎教科学習における指導
  例 公民科「現代社会」「政治経済」 家庭科「家庭基礎」

◎「総合的な学習の時間」における指導
  例 模擬選挙、模擬投票の実施

◎ホームルーム活動における指導
  例 投票と選挙運動について 外部講師による特別授業

カリキュラムデザインの際の留意点は以下の3点。

  • 全ての教員が主権者教育に関わるため、学校全体として指導計画を立てる。
  • 年間指導計画に、『副教材』の活用場面や活用時期等を適切に位置付ける。
  • 指導場面ごとの指導目標に合うよう、単元の指導計画を立てる必要がある。

主権者教育のデザインの3つの柱

様々な学校教育の場面で、主権者教育の具体的なデザイン(企画)をするうえで、基本となる3本の柱を意識すると良いでしょう。その3本の柱は「知識」「技能」「意識」です。そして、それぞれのバランスの軽重を調整しながら、学校内で分担、学年間で分担すると良いでしょう。

◎知識
  ・政治のしくみ
  ・議員の活動
  ・選挙の流れ
  ・公職選挙法の内容
  ・投票の方法  等

◎技能
  ・論理的な思考力
  ・判断する力
  ・情報収集の力
  ・合意形成する力
  ・意志決定の力 等

◎意欲
  ・社会活動への参画
  ・主権者としての責任
  ・模擬投票等の体験 等

学校外との連携

外部の関係機関、関係者と連携する際の留意点について、模擬選挙を事例に考えてみましょう。

模擬選挙を実施する際には、選挙管理委員会や選挙啓発団体との連携が考えられます。それらの機関では投票箱や投票記載台などの貸し出したり、職員等をゲストティーチャーとした派遣しています。専門家の知見を教育活動に生かすことができるというメリットがありますが、その反面、全てを任せきりにすると、学校が意図しない内容になったり、生徒のニーズやレディネスに合わない内容になる場合もあります。そうならないためには、以下のような点に留意すると良いでしょう。

  • 事前に年間指導計画を作成した上で学校外部の方々と打合せを行う。
  • 打合せでは、学習活動の目標、大まかな指導の流れ、振り返りのさせ方等を説明する。
  • 学校外部の方々にどのタイミングでどのような関わりをしてもらいたいのを明確に伝える。
  • 単発のイベントで終わらず、継続的に実施することも協議すると良い。

模擬住民投票の実施

「○○問題の是非を問う」など、地域の問題を取り上げて模擬投票を実施すると、身近な問題であることから生徒が主体的に学習に取り組むことが期待されます。その反面、様々な利害関係が絡む現実の問題を取り上げることから、大きな問題となることも予想されます。そうならないためには、以下のような点に留意すると良いでしょう。

  • 特定の政党を支持し、又は反対するための政治教育とならないよう、校長を中心に組織的に取り組む。
  • 現実の具体的な政治的事象は、内容が複雑であり、評価の定まっていないものも多い。
  • 地域の課題などについては保護者も含め生徒の周囲の者が、現実の利害の関連等を持つ場合がある。
  • 一つの見解が絶対的に正しく、他のものは誤りであると断定することは困難である。
  • 自分の意見を持ちながら、議論を交わすことを通して、自分の意見を吟味していくことが重要である。
  • 一つの結論を出すよりも結論に至るまでの冷静で理性的な議論の過程が重要であることを理解させる。
  • 特定の事柄を強調しすぎたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げたりするなど、特定の見方や考え方に偏った取扱いにより、生徒が主体的に考え、判断することを妨げることのないよう留意する。
  • 新聞など様々な資料を活用する場合は、客観的かつ公正な指導資料に基づき指導するように留意する。
  • 新聞等を活用する場合は、多様な見解を紹介するために複数の新聞等を使用して、比較検討することが望ましい。

神奈川県のシチズンシップ教育

神奈川県では、平成23年度から全県立高校でシチズンシップ教育を実施しています。神奈川県では、キャリア教育の4つの柱の一つとして政治参加教育を実施しています。

  • 政治参加教育
  • 司法参加教育
  • 消費者教育
  • 道徳教育

神奈川県では、参議院議員通常選挙に合わせて、模擬投票を全県立高校で実施しています。投票だけでなく、事前指導から事後指導までのひとまとまりを重視した指導を行い、政治の中立性、公平性を保つよう注意を促して実施しています。

例えば、政策の是非など教員の価値判断を伴わないようにしたり、特定の政党のマニフェストだけを扱うことがないようにしています。模擬投票は授業時間外に自由投票で実施し、投票行為は学習評価の対象とはしていません。ある模擬投票の事後アンケート結果では、「政治や社会に対する興味・関心が高まった。 57%」「選挙権を得たら選挙に行こうと思った 64%」と良好な結果が得られているようでする

話し合いや合意形成を重視する指導事例

岩手県盛岡市内の小学校では、児童会の役員を選挙で決める小学校が激減しています。その理由は、人気投票になりがちな投票選挙を避け、児童の話し合いによる合意形成を重視するとのこと。具体的な方法としては、自己推薦や他者推薦、立候補した児童の話し合いなどを行っています。

この事例は、校内投票の実施を否定するものではありませんが、児童会活動の根本は子どもたちの望ましい集団作りや人間関係の構築と位置づけ、「主権者教育イコール投票活動」ではなく、話し合いや合意形成の学びを重要しようとする、貴重な取り組みであると思われます。

シリーズで投稿しています。
主権者教育の基礎基本(1)いま何が求められているのか
主権者教育の基礎基本(2)世界の大きな潮流から考える
主権者教育の基礎基本(3)政治的中立とは
主権者教育の基礎基本(4)カリキュラムをデザインする

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