主権者教育の基礎基本(1)いま何が求められているのか

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作成者:Akihiko Yamaguchiさん

主権者教育の歴史

主権者に対する教育は、今にはじまったことではありません。1950年代から1960年代にかけて、日本の有権者に対して、様々な教育が行われていました。当時は、買収や選挙妨害などの選挙違反が非常に多かったからです。その成果もあり選挙違反は激減しました。衆議院選挙を例に挙げると、1952年に25,590件だったのが、2012年には180件になりました。

選挙違反は少なくなりましたが、投票率が低下傾向にあり、これが新たな主権者に対する教育の必要課題となってきました。なかでも、20代、30代の若年層の投票率が大きく低下しています。今回の公職選挙法改正による選挙権に関する年齢規定の変更は、このような社会的な動きを背景としています。

公職選挙法の改正内容

選挙権を有するものの年齢が、満18歳以上に引き下げられました。これは同時に、選挙運動ができない年齢が満18歳未満に引き下げられたことになります。この改正内容は、平成28年6月19日に施行されます。合わせて、漁業法や農業委員会等に関する法律等でも、年齢規定が変更されました。

また、この改正に合わせて、在外選挙人名簿や、選挙犯罪に関する規定、民法の成年年齢の引き下げなども議論されています。

学校での予想シーン

今回の主権者教育では、学校がその中心的役割を担うと期待されています。

  • 短期目標:若年層の投票行動を促すこと
  • 中期目標:有権者として積極的に社会参画する人材を育成すること

しかし、満18歳以上が有権者となったことで、高等学校では今までとは違う、様々な場面が想定され、それぞれに対する準備も必要となります。

  • 選挙当日の校内教育活動、校外教育活動における対応。
  • 期日前投票や不在者投票への対応。
  • 高校生の校内での選挙運動、校外での選挙運動に対する指導。
  • 満18歳以上の高校生と満18歳未満の高校生に対する、それぞれへの指導。
  • 教育活動における、生徒の政治的中立と教職員の政治的中立の確保。

5つの「ふ」

 「総合的な学習の時間」やキャリア教育の導入期には、さまざまな「ふ」の声が聞かれました。また押しつけられるのかという「不満」、役に立たないという「不要」、自分にできるのかという「不安」、ますます忙しくなるという「負担」、どうせ一時的なものだろうという「不信」などです。主権者教育についても、いろいろな「ふ」の声が聞こえています。

  • いままで政治活動はするな、と厳しくいわれてきたのに、今度は積極的に選挙や政治について指導しろといわれても、困ってしまいます。
  • 選挙前に、授業やクラスでの私の発言が、政治的な意味で、誤解されて伝わってしまわないかと、正直、怖いのです。
  • 政治や投票のことはくわしくないので、地歴科や公民科の先生に、お任せしたいですね。
  • 投票するかどうかは個人の判断ですし、20歳までは親の責任で指導してほしいですね。何でもかんでも学校の責任にしないでほしいよ。

どうしたら、教職員の共通理解を得られるのでしょうか。指導計画や役割分担を、どうつくればいいのでしょうか。そして、自信を持って指導するには、どうしたらよいのでしょうか。

生徒からも、様々な意見が聞かれます。肯定的な意見もあるようですが、否定的な意見も多いようです。今回は、現実的な行動としての投票に関わる問題なだけに、このような生徒の声に、正面から向き合う必要があると考えなければなりません。

  • 選挙に行かない理由は、投票のしくみを知らないということではないと思います。そもそも政治に関心がないというか、たかだか自分の1票で何も変わらないという気持ちがあるうちは、たぶん投票には行かないと思います。
  • 政治や選挙については、中学校から習っていますし、「いまさら何」ってな感じですね。模擬投票もしましたが、模擬でやれば、本番にも行きたくなると、本気で思っているんでしょうか
  • 政治には全く興味がないッス。将来、政治家になる可能性ゼロだし、誰が議員かや、どんな政党があるのかもさっぱり・・・。一生懸命な人たちだけで「勝手にやれば」ってなところッスね。

どうしたら、社会をつくる一員としての自覚や責任を育てることができるのでしょうか。政治に対する無力感を払拭するには、どうしたらいいのでしょうか。主体的に考え、行動する能力を育てるために、どのような指導が必要なのでしょうか。

副教材のねらいとは

今回の主権者教育を学校教育の中で進める指針として、文部科学省は副教材「私たちが拓く日本の未来」を刊行し、全ての高校生に配付しました。その構成は、以下の通りです。

<解説編>
 第1章 有権者になるということ
 第2章 選挙の実際
 第3章 政治の仕組み
 第4章 年代別投票率と政策
 第5章 憲法改正国民投票
<実践編>
 第1章 学習活動を通じて考えたいこと
 第2章 話合い、討論の手法
 第3章 模擬選挙
 第4章 模擬請願
 第5章 模擬議会
<参考編>
 第1章 投票と選挙運動等についてのQ&A
 第2章 学校における政治的中立の確保
 第3章 調べてみよう

この副教材の構成を見ると、投票行動と選挙運動が中心であるため、「投票行動を促す教本」と見られるかもしれません。しかし、若者の投票率さえ向上すればいいのでしょうか。第二次世界大戦中の日本の国政選挙の投票率は80%以上でした。投票させればよい、というのではなく、社会を形成するものとしての責任や判断力を身につけるための教材と考えるべきでしょう。そのことが、この副教材の「はじめに」に以下のように示されています。

  • 高校生世代が(中略)自分が暮らしている地域の在り方や日本・世界の未来について調べ、考え、話し合うことによって、国家・社会の形成者として現在から未来を担っていくという公共の精神を育み、行動につなげていくことを目指したものです。
  • 本書を通して、在るべき自分の姿を探求し、社会参画につなげていってください。

では、「公共の精神」の育成や、「あるべき自分の姿を探究」するためのプロセスや、「社会参画」への誘いを、具体的にどのように進めていったらいいのでしょうか。

シリーズで投稿しています。
主権者教育の基礎基本(1)いま何が求められているのか
主権者教育の基礎基本(2)世界の大きな潮流から考える
主権者教育の基礎基本(3)政治的中立とは
主権者教育の基礎基本(4)カリキュラムをデザインする

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