「わかる」「できる」「身につく」「使える」の差

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目次

1 「理解した」から、「身に付いた」へ

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学習の成熟度を何段階かに分けた表現を見たことはありませんでしょうか。「ラーニングピラミッド」で検索してみてください。色々な表現の仕方の検索結果が出てくると思います。「聞く~教える」まで、何段階かに分かれて学習の効果の度合いが示された図をたくさん見ることができます。
EDUPEDIAにも下記の記事がありますので、ご参照ください。
ラーニングピラミッドで授業の学習定着率がわかる
この稿ではこれとは少し違った表現で、学習の成否について説明をするために、以下のようにA~Dの段階に子供の変化を便宜的に分類してみます。

※この記事ではA~Dの段階に分けましたが、
1.言う→2.伝わる→3.理解する→4.できる→5.定着する→6.使える
の6段階で考えてみるのも良いかもしれません。
特に「1.言う→2.伝わる」の間が難しいかもしれません。下記の記事をご参照ください。
「何度言ったらわかるの?!」と、怒り、嘆いてしまう前に

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A:理解する
頭の中で理解する段階です。例えば「2桁×1桁のかけ算の筆算」がどういう仕組みで答えが出てくるようになっているのかを理解する段階です。
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B:できる
「理解ができたればできるのかというと、そんなことはありません。やってみなければできるとは言えません。理解ができたら実践に移してやってみます。「2桁×1桁のかけ算の筆算」なら、一人でノートの上でそれをやってみます。
「理解する」と「できる」がほぼ同時に起こる場合もありますね。
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C:身に付く
できるだけではいけません。身につかなくてはいけません。身につくようになるには、集中的に何度も反復練習をすることも必要だし、長い期間をかけて体全体に染み付かせていくような作業も必要です。たとえば、「深々とお辞儀をする」ということは、分かるし、できるけれど、所作として身に付いていないという場合は、多々あると思います。
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D:使える(テスト問題、実践的場面として、あるいは生活・人生の場で現実的問題の処理として)
テストがすべてではありませんが、テストをしたときに、今まで習った内容を使うことができなくてはなりません。算数の公式であれば、文章問題で例示した実用的な場面を読み解いて利用できなければなりません。
国語の漢字が熟語で使える、文章の中で使えるなども、実践的場面で役立てるという意味でも大事なことです。面接の場面で「深々とお辞儀をする」が美しくできれば、それは使えたということになるでしょう。
テストで頑張るだけではなく、教室で学習したことを教室で応用するのでもなく、学習したことを自分の生活・人生の中で生じてくる課題の解決に応用的に活用できることは大事です。生きた場面で利用ができてこそ、学習の値打ちがあるのです。
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ラーニングピラミッドでは「人に教えることができる」が最も価値があるように書かれることが多いです。「人に教える」ということも、「使える」に入るかも知れませんね。
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「先生、分数を勉強しても私の人生は分数とはほとんど関係がなさそうです。」などと訴えてくる子どもがいます。確かにそういう「お勉強」は多いと思います。直接的に活用できたのではなくても、思考力を鍛えておくことが、何らかの場面で生活の役に立つことがあります。大げさに言うと「お勉強」したことはいくらか、「人生に役立つ思考回路の形成」に影響すると考えてもいいのではないでしょうか。

2 「できる」「身につく」が、おろそかにされている

A~Dのどれが大切で、どれがそれほど重要ではないというようなことは簡単には言えないでしょう。どれも大事、どれも大切です。ただ、学校教育の中で意外とおろそかにされ、抜け落ち気味になってしまうのは、「B:できる」「C:身につく」の段階ではないかと思っています。学校教育の現状では、B・Cが抜け落ちていることが多いように感じるのです。B・Cの段階では、「分かったので、できるようになり、繰り返すことによって身につく」でなければなりません。ところが、学校教育では「分かってはいるけどできない」「分かってはいるけど変わらない」「分からない人は、分からないまま放っておかれる」という状態のままになってしまいがちです。
 B・Cの段階は意外に難しく、ここで躓いている場合が多いです。この難しさに直面すると、教師も子どもも、親も、「諦めモード」や「怠慢モード」に入ってしまいます。

授業で誰か一人が正答を答えればみんなが分かったことにして進めてしまう。誰かができたらそれでよしとしてしまう。誰ができて誰ができていないのかも曖昧で、できていない子供に対する対処法もわからない。「分かった=できた=身についた」と思ってしまい、それぞれの段階の違いをあまり意識できていないのではないかと思っています。
そうして、分からない(できない・身につかない)のは子どもの責任にしてしまっているのではないかと思います。私自身もいや、教師なら誰にでもそんな部分があると思います。

3 「サッカーの授業」場面を挙げて、C・Dが抜け落ちている授業を説明します。

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1.サッカーの試合をしていて、みんながボールの周りに集まってしまっています。
2.教師は再三にわたって、「広がれ、ボールから離れろ」等と声をかけます。

くどいほど言われていること「ボールから離れてコートに広がれ」は頭の中ではたいていの子どもは理解しています。しかし、分かればできる(広がれる)かというと、そうでもありません。子どもにはボールを追いかける習性があります。4年生ぐらいまではどうしてもフラフラとボールに集まってきてしまうものです。「わかっちゃいるけどやめられない」のです。
サッカーの授業については、
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サッカー全員シュート(全員得点)達成への道
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を是非ご参照ください。
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4 「2桁×1桁のかけ算の筆算の授業」場面を挙げて、C・Dが抜け落ちている授業を説明します。

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1.かけ算の筆算「26×4」の仕組みに関する説明を聞く。・・・6×4を先にして、20×4をして、合計する。
2.筆算の書き方の手順と約束を確認する。
3.例題を1~3問やってみる。
4.類題を6~8問やってみる
5.各自の進度に応じて類題(ドリル等)をやってみる。

たいていの場合、教師は1~3に多くの時間を割いてしまいます。そうすると4・5で個別に指導をする時間・習熟の時間をとってあげることができにくくなります。その結果「分かる」にとどまる子供が多くなります。

よくあるパターンではないでしょうか?1~3に多くの時間を割いてしまっていては「分かる」が「できる」「身につく」に変化するでしょうか?これでは授業を通して、「分かる人:できる人」の人数の比率はそう大きく変わらないと思います。

サッカーとかけ算の例を挙げて説明してみましたが、このほかにも、「できる」ように指導する「身につく」ように指導することを意識せずに、漫然と授業をやってしまいがちになってはいないでしょうか。

5 「分かる」を「できる」に変えるには、

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①「できるまで」「身につくまで」やらせる。・・・・・何と言っても、これが大事です。あきらめたり、いい加減で放置してはいけないのです。(あまり追いつめてもいけませんが)休み時間や放課後に残して頑張らせるのもいいと思います。
②スモールステップを作る
これについては書き出すと長くなりますので、
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スモールステップという「原則」
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をご参照ください。
③かならず全員が「できる」になったことを確認する。あるいは「できる」になっていない子どもを確認する。
④「わかる」→「できる」→「わかる」→「できる」→を繰り返しながら進める。・・・・・できると分かることも多いです。「ほら、できたでしょ。どうしてできたかというと、~~~~だったからです。じゃあ、もう一度、やってみようか。」反復は大切です。
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6 「できる」を「身につける」に変えるには、

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①とにかく反復する
とにかく、とにかく、反復が第一に大事です。
②反復する時間を確保する
授業の始まり、終わり、朝の時間、放課後などに、定期的に反復(復習)をする時間を設定しましょう。
③反復に合った教材を使う
④個に応じて反復させる
もう十分に身についているのに反復ばかりさせられては子供も迷惑です。個々の子供に応じた反復のさせ方を工夫しましょう。たとえばこんな教材を作ってみるのもいいかもしれません。
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計算検定~筆算の力を積み上げていくために
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を是非ご覧ください。
⑤組織的に「身につける」ことのできるシステムを構築する
一人の教師が頑張っていてもなかなか学年全体・学校全体のレベルを上げることは難しいです。6年間を見通した「身につける」学習システムを作り上げることができれば最高なのですが。

①~⑥まで挙げてみましたが、どの作業もかなり面倒な作業です。「分かる」「できる」ことにも個人差はありますが、「身につく」ことに関してはさらに個人差が大きくなります。「できる」イコール「身につく」くらいに吸収の速い子供もいれば、「できた(わかった)」ことがすぐに「できなくなる(忘れてしまう)」子供もいます。定着度が悪く、身につくどころか時間が進むにつれてできなくなる方向に落ちていく子どももいます。「分かる」の段階で落ちこぼれてしまう子どもと同様に、「身につける」段階で落ちこぼされてしまう子どももけっこう多いです。身につくまでさせるためには、「さかのぼり学習」が必要です。是非、
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学力保障~学校の荒れを防ぐための最優先事項
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をご参照ください。詳しく書かれています。

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