大学教授に聞く!「大学の学び」と「大学入試」

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目次

1 はじめに

本記事は、2017年5月21日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2017『大学入試改革!問われる新たな能力~現場と家庭は何をすべきか~』に関連して、慶應義塾大学教授である長田進先生にインタビューしたものです。大学教授の立場から、長田先生の個人的見解についてお話をしていただきました。

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パネルディスカッション(前半)
パネルディスカッション(後半)
基調講演(石川一郎先生)
基調講演(山内太地氏)
石川一郎先生インタビュー
隂山英男先生インタビュー
鈴木寛先生インタビュー
山内太地氏インタビュー

2 インタビュー

大学入試について

——大学入試改革についてどのようにお考えですか?

大学での選抜方法が現状のままで問題がないとは思わないので、改革を行うことで学生の能力を正当に評価しようとする姿勢について疑問はありません。今までの大学入試は、一度の入試の時の知識量と集中力を中心に見ていたのだと思います。しかし、実際の学生は試験の成績は優れているが、じっくり考えて書き上げるレポートの出来はあまりよくない、あるいはその逆など、能力にはいろいろな側面があります。そういった能力の測り方を動かすという面では、大学入試改革を指向するのはよいことだと思います。

ただし、現在の話題として取り上げられている方法では、信頼性と実現可能性について問題が出てきやすいと思います。例えば、論理力についての試験を行うことで論述式試験の導入を進める話が出ていました。これを実現するには大きく評価方法に関する問題とコストの問題があります。

論述試験で客観的評価を明確にしようとすると、解答に制限を加えることが多くなりそうですが、それでは現状の選択式の試験と似たものになります。論述式の特徴を強化すると、多様な答案が大量に出る可能性が高まり、それに対応するための準備を相当綿密に行う必要が出てくると思います。その点で評価の正当性を確保するには多くの人員と時間がかかります。それは莫大なコストの増大を意味します。大学入試にはある程度の速報性が求められることを併せて考えると、手間のわりに変化が少ないと個人的には思います。

それに加えて最近の塾業界は、一般的な入試に関するものだけでなく、AO入試ですら専門の塾ができるなどして分析していると聞いています。入試出題側と塾との追いかけっこになってしまい、入試を通じて伝えられる、大学から受験生へのメッセージが薄くならなければいいと思います。

何はともあれ、現在の入試改革は国家レベルで取り組むものであり、受験者数が多く与える影響は大きなものとなります。そのため小手先のテクニックで対応するものだという誤ったメッセージが受験生に広まらないことを希望します。

話は少し外れますが、「東大の入試で〇〇を考える」といった入試問題を題材にした本を世間で結構目にします。これは「東大」とつけることで注目を集める点に意味があるのでしょうが、実際に本を手に取ってみると、問題に対してある程度の知識をもとに論理的思考力を用いて説明を行ってみよう、理解してみようという姿勢を重要視しているように思われます。これは、東大だからと思われるかもしれませんが、大学入試問題集などを見てみると、いろいろな大学がすでにいろいろな工夫をしていることがわかります。このいろいろな入試問題を見てみると、きちんとした論述式の入試問題を出題する大学は多くあるのに、なぜそれほど大々的な入試改革が必要になるかについての議論が拙速に思えて不思議に思う時もあります。

——私立大学の入試問題の特徴について教えてください。

普段の授業でも話すように気を付けているのですが、試験とは、出題者と回答する学生のコミュニケーションだと思っています。これを入試に当てはめると、入試問題とは出題者側から受験者へのメッセージだと考えています。すなわちどのような受験生に、学部での学問に興味を持ってほしいと考えているか、どのような力を兼ね備えていてほしいのか、を問いかけるものだということです。そして答案はそのメッセージについてどのようにとらえたのか、どのような能力があるのか、について示す機会であると思っています。

例えば慶應義塾大学の経済学部では地理歴史の試験範囲を1600年以降にしていますが、これは「近現代の中から経済をダイナミックにとらえてほしい」というメッセージだと考えてみたらどうでしょう。きっと勉強の仕方や回答の仕方などに影響が出るのではないでしょうか。

この考えの延長で考えると、私学の入試問題の特徴としては、学風や校風が強く出されているはずですし、出されるべきです。近年の大学・学部の評価について、それぞれの大学・学部からのそういったメッセージについてあまりシリアスにとらえられておらず、偏差値が高いとか低いとかの話が先行しているように思われるのをもどかしく思います。

望ましい大学生について

——どのような学生が望ましいとお考えですか?

まず、好奇心が強い人です。なんでも面白がれるというのは、世の中で起こっている事柄に対するアンテナが優れているという点で、素敵な才能だと思います。

次に、「これだ」と思ったものに一点集中できるタイプの子がいると面白いと思います。大学生はサークルやバイト遊びなどやることが多いので、大学の課題をこなすことだけに精一杯になってしまっている人がたくさんいます。したがって、ただこなすだけでなく、自分の大事だと思ったものに集中できる力が大切になってくるのです。

なお、私の授業では都市問題・地域問題について取り上げています。実際の社会にはいろいろな人が一緒に生活して成立しているわけですから、いろんな学部や地域出身の学生が集まることで様々なアプローチや考え方ができるので面白いと感じます。そういう多様な学生が授業にそろうとうれしく感じます。

——大学生を伸ばすためのタイミングとポイントはどこにあるのでしょうか?

学生数の多い大学の場合、多くの講義を大教室で受けることになります。大教室では学生と教員との距離も遠く、受け身で参加するだけになってしまいます。

これは、教員の立場から見ると、学生に自分の意図を読み取ってもらいづらいと感じているわけです。私の場合、授業に関して意見や質問を言いに来る学生を大事にしたいと思っています。なぜなら、そういった意見や質問は、教員にとってのフィードバックと考えているので、それらを通じて学生が授業を理解できるかがわかるからです。

この点で、大学生には掘り下げる能力が必要になってきます。そういうわけで、大学生にとって、大学で開講される少人数を対象にした講座を履修して学生と教員の距離を縮めることは重要だと思います。今日の多くの大学では少人数教育を充実させていますので、そのような授業になるべく早く参加することを強くお勧めします。

——掘り下げる能力を身に付けるためにアクティブラーニングは重要でしょうか?

アクティブラーニングを絶対視するかのような風潮については疑問を持ちますが、今までに経験した学習と異なる学習方法を経験するという意味では重要だと思います。学び方にはいろいろな方法がありますし、知識や問題解決の方法は1つではなく、いろいろなものの組み合わせがあることを理解することが重要だと考えます。例えば、基礎知識を学習して身に付けることは大切ですが、知識を学習する中で答えがないと落ち着かない、という勉強方法に固まってしまうことは問題です。

大学以降「答えのない問題」に出会う機会が多くなり、そのような問題にどのように取り組むかという姿勢が大切になってきます。その時には、大学入学以前の勉強とは別の方法をとる必要があります。この点でアクティブラーニングを体験しておくことは助けになるでしょう。もちろん、大学に入学してからもそのような学習方法を経験することはできます。

大学入試受験生へのメッセージ

——大学入試受験生へのメッセージをお願いします。

大学入試の合格はゴールではなくあくまで通過点なので、入試終了後に燃え尽きる人にならないでください。燃え尽きないためには、やらされている感覚ではなく、「自分はこうしたい」という意思をもって勉強することが重要だと思います。自分の責任でやっているのであれば燃え尽きずに頑張り切れると思います。入学後にやりたいことをしっかりと考えて、大学入試後に燃え尽きないように頑張ってください。

あとは、大学はいろいろな情報が詰まっていますので、知的に遊ぼうと思えば本当に遊べる場所だと思います。大学入学後に広がる世界を楽しみに受験勉強に励んでほしいと思います。

3 長田進先生のプロフィール

慶應義塾大学経済学部教授。専門は都市地理学、経済地理学。慶應義塾大学経済学部 卒業後、ロンドン大学政治経済学院(London School Of Economics and Political Science)地理環境学部博士課程終了(Ph.D.)。京都大学経済研究所 COE研究員を経て2005年4月より慶應義塾大学経済学部准教授として着任。2012年4月より教授。

(2017年9月1日時点のものです)

4 編集後記

大学での学び方やそれに必要とされる力を指摘していただき、大学入試を新たな視点でとらえることができました。試験問題のメッセージ性は、大学入試の問題に限らず、あらゆる場面で重要視されていくべきであると考えます。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 上田茜)

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