パラリンピック教育と教育計画を結びつけよう!~おさえておきたい2つのポイント~(特集企画 #02)

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目次

1 はじめに

イベントで終わってしまうこともしばしばあるパラリンピック教育を、子どもたちの変化や学校の教育計画の達成に結びつけていくにはどうしたらよいのでしょうか。

連載第2回となる今回は、パラリンピック教育推進事業として、『I’mPOSSIBLE(アイムポッシブル)』日本版の教員研修で日本全国を飛び回っているマセソン美季さん(国際パラリンピック委員会教育委員/日本財団パラリンピックサポートセンター)が、パラリンピック教育と教育計画との関連づけに役立つ2つのポイントについてお話してくださいました。

なお、本企画はI’mPOSSIBLE日本版事務局(公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会/日本財団パラリンピックサポートセンター)とのコラボ企画となっております。JPC『I’mPOSSIBLE』日本版サイトにも教材の詳細や活用事例等が掲載されていますので、合わせてご覧ください。

https://www.parasports.or.jp/paralympic/iampossible/

2 パラリンピック教育を取り入れるときに大切なポイント

〈2019年8月に千葉県で行われた教員研修で先生方と交流するマセソン美季さん(写真左)〉

「パラリンピック教育」と聞いて、何を連想されますか? 来年の東京2020大会の機運醸成、パラスポーツの体験会や、選手や関係者らの講演会でしょうか。パラリンピックのことを教えられる教員がいない。予算がない。年間スケジュールに組み込まれていない。など、様々な理由で着手できないという話を伺うと、とても残念です。

パラリンピック教育は、新学習指導要領にも明記され、大会終了後も教育現場に残るものです。むしろ大会を会場やテレビで観戦した後でさらに意義が増大するもので、一過性のイベントのための教育ではありません。パラリンピックを題材にして、共生社会を実現するための考え方などを学ぶことに教育的意義があり、それをご理解いただいた上で積極的に取り組んで頂きたいと思います。

アスリート本人から話を聞くインパクトが大きいことは確かですが、関係者らをゲスト講師として招くスタイルでは、予算の確保をはじめ、講師との内容調整や、何より、誰にどのようにして依頼すればよいかわからないなどの様々なハードルがあり、学校教育の直接的な担い手である先生方が意図した通りに学習を進めることができない困難さがあるようです。そこで、パラリンピックについての知識がほとんどなくても、現場の先生方にご負担なくパラリンピック教育を行っていただけるよう開発された『I’mPOSSIBLE』について、まずはおさえていただきたい2つのポイントをお伝えします。

ポイント1:『I’mPOSSIBLE』日本版で目指すパラリンピック教育の3つのステップ

『I’mPOSSIBLE』日本版は、大きく3つのステップに分かれています。

①パラリンピックの基礎知識・魅力を学ぶ

まずはパラリンピックの特徴、競技、歴史などについて学び、諦めないことの大切さ、限界に挑戦することの尊さ、「できない」を「できる」にする工夫を学ぶ。

②パラリンピックの価値を学ぶ

パラリンピアンの活躍や、そこに至るまでの日々の様子を通して、パラリンピックの4つの価値「勇気」「強い意志」「公平」「インスピレーション」について理解し、自分ならどうするかを考えたり、パラリンピックの価値を自分の生活の中でどう生かしていくかを考える。

③パラリンピックを題材に共生社会を考える

障害のある人の日常にも想像力を働かせ、生活場面でのバリアを探し出したり、どんなことに気をつけると良いかを考えたり、障害のある人にとっての解決の手立てを考えたりすることができるように、パラリンピックを切り口として、共生社会を作るための考え方を学ぶ。

こうした3つのステップを経ることで、単にパラリンピックについて知るだけでなく、共生社会につながる気づきを得られるような学びを実現することができるのです。学校で計画している活動が、このどれに当たるのかを考えながら、③まで到達できるように教育計画を策定してみるとよいでしょう。ただし、どのユニットも単独で使用できる内容になっています。単独でお使いの場合には、どのステップに該当しているのかを意識して取り組まれると効果的です。

国際パラリンピック委員会公認教材『I’mPOSSIBLE』日本版は、現場の悩みを解決すべく開発された教材です。座学とパラリンピックスポーツ体験ができる実技で構成されています。それぞれの授業を行う際に必要な指導案、授業中に活用いただける映像資料や投影資料、ワークシートや実技を行う際の用具やコートの準備、進め方など、段取りを紹介する映像も用意されています。中でも、豆知識や補足情報を収録した教師用授業ガイドは必見です。この教材は全国の学校に無償で配布されている他、ウェブサイトでも全ての資料が公開されています。ぜひご活用ください。

ポイント2:パラリンピック教育を通じて児童や生徒に届けられる力

『I’mPOSSIBLE』にあるような活動全体を通して、主体的、対話的な深い学びを実現できるよう、対話や議論の場が盛り込まれていて、以下のような教育効果があります。

・「できない」を「できる」に変える工夫、考え方に気づく

・障害のある人は「特別な人」「助けられるべき人」という認識を覆す

・他人との違いを受け入れ、個性を尊重しあえる関係を築くことの重要性に気づく

学習指導要領の前文に「これからの学校には、・・(中略)・・一人一人の児童が、自分の良さや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められている。」とありますが、これらは、パラリンピック教育で網羅できる内容です。

学校の教育目標とこうした効果をどのように結び付けられるかを考えて、計画に盛り込んでいただけると、単なる一過性のイベントのための教育に終わらない学習の機会にできると思います。

3 具体的な取組例

教育計画策定の際に、既存の学習とどう結びつけ、どう発展させるかを考え、年間計画に落とし込む際のご参考に、いくつか事例をご紹介いたします。

例1)

  • 点字学習

   ↓

  • 実技「ゴールボール (視覚に障害のある人たちのために考案された球技)」を体験(「2−3 ゴールボールをやってみよう!」を使用)

   ↓

  • 実際に視覚を遮った状態でスポーツを体験することで、言語や音声、触感等による情報取得についての気づきを得ることができ、知識の習得だけではない実感を伴った学びに発展

   ↓

  • パラリンピック観戦

例2)

  • 人権教育

   ↓

  • 座学「1−3 公平について考えてみよう」を通して、身の回りの公平・不公平について考える

   ↓

  • 座学「2−1 パラリンピックスポーツについて学ぼう!」から、公平性を担保するために、パラリンピックに取り入れられている用具やルールの工夫を学ぶ

   ↓

  • パラリンピック観戦

例3)

  • パラリンピック観戦

   ↓

  • 座学「1−5 パラリンピアンが学校に来るとしたら」を通して、身近な場所でのバリアフリーについて考える

   ↓

  • より良い街を作るためには、何をすべきなのか調べ学習

   ↓

  • 課題解決に向けて、コミュニティを巻き込んだ取り組みに発展

4 おわりに

学校教育において、これまでとは一味違う切り口から、共生社会の意味や実現するための具体的な考え方を学べるのがパラリンピック教育です。児童や生徒たちにもたらすことができる効果を意識しながら、ぜひ学校計画のなかに組み込んでいただければと思います。

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