「学校の多忙化」の改善(業務改善)2 ~学校の業務改善をどう考えるか

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目次

多忙化はなぜ深刻化したか

教師の多忙化についてはもう何年も問題視されてきたにもかかわらず、教師も学校も多くの「不備な点」を抱えていたため、「多忙化の改善より先に指導の改善だろう!」という世論があったため、多忙化の改善はなかなか進みませんでした。2000年~2015年辺りの期間は教師・学校はずっと批判にさらされてきました。この時期は学力低下、学級崩壊、モンスターペアレンツ問題、いじめ、体罰の横行などの危機的状況に襲われ、学校現場はどんどん追い詰められていったように思います。確かに学校(文科省・教育委員会・教員)の脇の甘さに関しては、責められても仕方がない所も多々あり、いまだにマスコミに叩かれる案件が発生し続けています。
事件とまではいかなくとも、昔の学校側・教師側には枚挙にいとまがないくらいの「不備な点」がありました。学力低下、学級崩壊、モンスターペアレンツ問題を招いたのは自業自得であった面も否めないと思えた時期もありました(2010年頃までは、ほんとうに酷かったです)。しかし、学校はずいぶんそういった「不備」を改善してきています。「今の先生(学校)は質が落ちた」という論調がありますが、それは現場を知らない方々の思い込みであって、過去に遡れば遡るほど上記のような状況がまかり通っていました。昔に比べればよっぽど不備は改善されています。この「不備の改善」の過程で、生まれたのが「過剰対応」です。過剰対応の例は枚挙にいとまがないので、3点だけ挙げてみます・・・

・運動会の練習中に水筒を地面に置かせていると、「不衛生だ」との保護者のクレーム。毎日、水筒を置くための長いすを出し入れする羽目に。不衛生かどうかは意見が分かれるところだと思いますが、とにかく「よりしんどい方向」に物事が進んでいきます。
・個人情報の保護が話題になると、個人情報を含む書類を全面的に封筒に入れて渡す羽目に。歯科検診の結果まで封筒に入れて渡すように養護教諭からの指示が。「虫歯の本数」がそれほど保護すべき個人情報でしょうか。裏向けて配ればそれで済む話だと思うのだけれど・・・
・水泳指導の中に「着衣水泳」が入り始め、当初は6年だけが実施していたのがいつの間にか1~6年生全学年で実施になってしまっていました。準備・片づけに時間がかかり、「着衣水泳」そのものを実際に指導し、体験させているのは45分中の15分程度。命は大事、溺死をしないように教育してあげるのは大事だと思うのだけれど、全学年で実施するだけの価値があるのだろうか・・・。指導要領に「安全配慮」に関して書かれてはいますが、「着衣水泳」を「全学年で実施すること」など書かれてはいません。

・・・上記3点を書きながら、改めて思いました。一つ一つは取るに足らないような案件です。こういった雑多な案件が積もりに積もっていて、何から手を付けたらよいのか見当がつかないことが、学校における業務改善の推進を難しくしているのかもしれません。「地面に水筒を置くのは不衛生」「個人情報は保護すべき」「着衣泳は命の授業」・・・どれも正論なのかもしれませんが、正論は往々にして人を追い詰めることがあります無定見に業務を増やし、教師の多忙化が際限なく続けば授業や指導の質が落ちることは目に見えています。

業務改善に関しては以下の記事もご参照ください。

「教員の多忙化」というキーワード の学習指導案・授業案・教材 一覧
【五月祭教育フォーラム2018】「教員の多忙化」記事特集ページ
「学校の多忙化」の改善(業務改善)1 ~「残業の見える化」から始める
「学校の多忙化」の改善(業務改善)2 ~学校の業務改善をどう考えるか
「学校の多忙化」の改善(業務改善)3 ~具体的な業務改善のアイデア
「学校の多忙化」の改善(業務改善)4 ~具体的な業務改善のアイデアICT編

休憩時間(時間外労働)に関する管理職の義務違反について

不断の業務改善

「ちりも積もれば山となる」を痛感しています。一つ一つの案件は「まあ、どうにかなるのでやりましょう」と考えて引き受け、採り入れ、盛り込んできたことなのです。要求に応じてきた一つ一つの案件は「果てしない善意に基づく多忙化」となり、教員を苦しめてきています。

「欲張りすぎるニッポンの教育」苅谷剛彦/増田ユリヤ 著 (講談社現代新書)
で苅谷氏は、「ポジティブリストの長大化」という表現で学校現場の多忙化の抜き差しならぬ状況を指摘されています。
一つ一つの案件が善意に基づき、小さいからこそ、いちいちそれについて「やめよう、縮小しよう」と唱えるのが面倒くさく、億劫になるのです。また、学校には「頑張ることは美しい」というガンバリズムが賞賛される独特の学校風土があります。一方で不備を抱えて厳しい批判にさらされながら、もう一方ではガンバリズムに支配されるという状況が数十年続いてきた結果、本来業務が立ち行かなるほどの多忙化を抱え込んできたのです。泥沼にはまったように前に進めなくなり、ずぶずぶと「学校丸」は沈んでゆきます。黙り込んで「とにかく正しく業務をこなす事」が主眼となり、「子供を育てる」という本来業務が疎かになれば、学校は荒廃し、その対応でさらに仕事が増えるという悪循環に陥ってしまいます。これら一つ一つを普段から業務改善し、不断の業務改善を続けていかなければなりません。そして、「悪魔は細部に宿る」です。普段の業務をしっかりと見つめなおし、何が本来業務を阻害しているのか、何が本来業務を促進するのかを見極めなければなりません。

学校の業務改善にやっと「追い風」が

ありがたいことに、学校の業務改善は一昔前に比べれば前向きに捉えられています。国会で働き方改革が議論されるとともに中央教育審議会で「学校における働き方改革特別部会」が開かれ、学校がブラック企業であることがマスコミにも取り上げられるようになって注目を集めていることが業務改善の追い風になっています。管理職を含め、現在学校で働いている世代のほとんどが自分のクラスや隣のクラスが学級崩壊でたいへんな状況に陥った経験をしているし、本務が立ち行かなくなるほどの雑務の多さに辟易としてきたという経緯があります。
一昔前なら「自分は大丈夫。できない教員は力量不足。」との見解を持つ管理職が多かったですが、そんなことを言っていられる状況でないことが身に染みて分かってきています。現時点の教育現場は新人類世代(55歳)~ゆとり世代がほとんどを占めています。思ったことを口にする人材が増えているのも要因の一つでしょう。内田良准教授や妹尾昌俊氏のような、学校に対してフラットな立ち位置で提言をしてくださる論客の出現も大きな追い風になっています。

内田准教授は「教育は無限,教員は有限」 つまり「リスクは無限,(安全確保のための)資源は有限」との名言を披露されておられます。短く分かりやすくインパクトのフレーズは業務改善を推進する原動力になっていると思います。また、妹尾氏は「相互不干渉な職場 多忙化と個業化」が進んでいることを指摘されておられます。妹尾氏は中教審や各自治体で発言・講演をされており、学校を俯瞰的な立ち位置から分析して下さっていることは大変ありがたいと思います。
この記事を書いている平成30年現在、まだ追い風は吹いています。今がチャンス、またとないチャンスだと思って業務改善を進めなくてはなりません。

一方で何故、盛り上がりに欠けるのか

「追い風」と書いたものの、では現場で本格的な業務改善が進んでいるのかというとそうでもありません。業務改善を推進する一つの手段として、給特法の撤廃(残業代の支払い)や部活動からの撤退等が議論されているのに、現場では今一つ議論が盛り上がりません。なぜ盛り上がらないのかというと・・・

① 給特法の問題点が分かっていない教員(存在自体を知らない教員)が多い。
② 残業代が本当に支給されると1兆円ほどの支出が増えるため現実的ではないと諦めてしまう。
③ そんな議論をしている時間的・精神的な余裕がない。
④ 思い切った業務改善をやりすぎると学校が不安定になって機能不全に陥るのではないかという懸念。
⑤ 特に部活(小学校ではスポーツ活動)は撤退してしまうと子供をコントロールすることが難しくなり、学校が荒れるのではないかという懸念。
⑥ 滅私奉公が美しいと思ってしまう学校の風土。
⑦ 滅私奉公をしていると出世するのではないかという忖度。
⑧ 忖度に応える管理職と教育委員会。
⑨ 業務改善を熱心にすると管理職から睨まれるのではないかという懸念。
⑩ 業務改善に熱心な教員を冷遇する管理職と教育委員会。

等が挙げられるでしょう。前途多難です。

業務改善は子供のため?先生のため?

業務改善を語る際に、管理職は「子供と向き合う時間を確保するための業務改善」といった美しい理由を口にします。それは、全うな言い分ではあるけれど、理由の一側面でしかありません。業務改善のもう一つの大きな理由は「教員の賃金不払い状況の改善」です。私は個人的には仕事人間であり、仕事に打ち込むことに生きる喜びを感じていますが、それはあくまで自分の探究したい分野の仕事をしている時の話です。やりたい仕事には惜しみなく時間を費やすつもりであっても、「歯科検診の結果を個人情報保護という観点でいちいち封筒に入れて渡す」というような業務に大切な時間を費やしたくはありません。
また、業務改善によって生み出された時間をプライベートな時間に費やしたとしても、何か悪いことをしているわけではありません。21時に業務が終了していたのが20時に帰ることができるようになったとして、その時間を何に使おうが、それは教員の自由です。
かなりの確率で管理職は業務改善に積極的ではありません。大胆な改革を好ましく思わず、現行の業務を堅持したがる傾向があります。教員が自分の都合に合わせて思い通りに働いてくれないことを不満に思う管理職も多いです。管理職が業務改善推進にブレーキをかけてしまうことを阻止するためには、「残業の見える化」を進めることが大事だと思います。下記の記事をご参照ください。

「学校の多忙化」の改善(業務改善) ~「残業の見える化」から始める

この十数年、学校が保護者や社会からのクレーム・指摘にびくびくしながら過剰対応を重ねてきた結果のブラック化です。業務改善の必要性を学校全体で共有して向き合い、職員全体が大らかに、「まあ、これで納得解を得ていきましょう」という境地に達する事ができるかどうかが業務改善が成功するか、不発に終わるかの境目であると思います。

大改善も、プチ改善も必要

「悪魔は細部に宿る」とも言いますし、「天使は細部に宿る」とも言います。業務改善は大改善とプチ改善(小改善)に分けて、意識的に進めていきましょう。
大改善に関しては、聖域のない改善を目指しましょう。慣行や歴史やしがらみにとらわれていては大きな案件を変えることはできません。
大きな改善を断行することをよく思わない職員が必ず一定数います。改善ができない理由をグタグタと語って妨げようとする職員も。しっかりと戦略を立てて改善案を練った上で根回しと説得に粘り強く取り組まないと前に進めない場合が多いです。
小改善に関しては、じわじわと増やしてきてしまった仕事の山を地道に整理して減らしていく知恵と工夫と粘り強い意識が必要とされます。小さい事でも、多くの教員が関わる業務やほぼ毎日必ず繰り返して行われる業務を楽でシュアな方向へ導くことは意外に多くの時間を産み出す結果になります。
「改善改善と言わずに、こんなことぐらいやればいいじゃない。何をちっちゃいこと言ってるの」という心無い批判にめげてはいけません。

具体的な改善に関しては、別の記事に詳しくアップしていますので、下記リンク先をぜひご参照ください。
「学校の多忙化」の改善(業務改善)3 ~具体的な業務改善のアイデア

部活をはじめとする種々のスポーツ活動の切り離しを

部活問題を語りだすとたいへん長くなってしまいます。詳細は内田良准教授が発信されている情報に譲ります。

部活や小学校のスポーツ活動を仕切る体育会系教員は、自分が児童生徒学生の時代に無休状況で部活に打ち込んできた経験があり、教員になってからもそのスピリッツを発揮して、「部活命」の後輩教員・児童生徒を再生産していきます。若いうちに何かに夢中になって打ち込むことはとても大切でだと思います(私も部活に打ち込んできた一人ではあるのだけれど)。部活・スポーツ活動運営にかかるコストはとてつもなく大きく、それが教員の過度の負担で賄われている状況は解消する必要があります。
荒れる子供たちが持っているエネルギーを昇華させる場は必要ですので、上手に地域をはじめとする教員外の人材にバトンタッチしていくべきです。

業務改善委員会の設置

江戸時代には傘連判という制度がありました。お上に陳情を行う場合に首謀者が処罰を受けないように中心から放射状に署名を行う方法です。学校で業務改善の首謀者になっても処刑になることはあるませんが、改革を口にすると管理職や改革を快く思っていない教員に睨まれる場合があります。そこで、業務改善委員会を作ります。業務改善委員会に寄せられた要望をメンバーがまず協議し、改善案を職員会議に提案します。少人数の業務改善委員会で十分な時間をとって話しやすい状況で協議が進められれば、大胆で良い案を練ることが可能になります。業務改善委員会の代表から職員会議に提案されるため、発案者や委員会のメンバーにとってはプレッシャーが少なくなります。メンバーは若手からベテランまで、幅広い層で構成するのがいいでしょう。できれば管理職はメンバーに入らずに見守ってほしいです。
また、教育委員会内に業務改善を担当する部署はあるでしょうか。自治体全体でどれだけの賃金不払い労働の実態を把握し、どの学校が特に苦しい状態であるのかを監督し、指導する部署が必要です。また、定例の会議を開き業務改善に関する調査を行い施策を責任を持って検討する部署が必要です。数値目標をきちんと掲げて経年変化を観察し、確実に業務が改善されているかどうかを監督する部署を設置するべきでしょう。

業務改善BOXの設置

業務改善BOXを設置して普段思いついた改善案を気軽に発案できる状況を作っておくことも大事だと思います。共有フォルダや紙媒体で、いつでも誰でも業務改善案を発案できるようにしておけば、年度末の反省(教育反省や学校評価といった職員行事)まで待たずにじっくりと時間をかけて小まめな改善を行っていけます。

業務改善計画を新年度計画に取り込む

業務改善委員会が設置されたら、業務改善委員会は「業務改善のめあてと意義・方法と原則」を新年度計画(年度当初の職員会)に毎年提案し、共通理解と周知を図りましょう。あまり難しい文書にせずに大切なことをまとめて管理職を含めた職員全員の理解と意思統一のもとで業務改善が推進される状況を作りましょう。文書作成には妹尾氏の著書はたいへん参考になると思います。

先生がつぶれる学校、先生がいきる学校(妹尾昌俊:2018)【書籍紹介】

リーダーの存在

漠然と「何だか忙しいからどうにか業務を減らさなくてはいけないねえ。」と、話をしていてもそう簡単に業務改善が進むわけではありません。業務改善の推進には強い意志と粘り強さ、そして中心となって改善を進めるリーダーの存在が必要です。誰かがリーダーにならない限り、「あの業務は大事、この業務も大事」「この業務は子供のためにやっているのだから」「あれは〇○先生の始めた業務(〇○先生が担当の業務)だから改善・撤廃しくい」等といつまでたっても躊躇する保守的な職員の反対意見に改善案が潰されてしまいます。「子供に向き合う時間の確保」「賃金不払い労働状況の改善」を旗印に、強いリーダーの元で教員の意志を統一して業務改善を進めてください。強いリーダーシップと民主的な議論を運営する能力の両方が必要です。業務改善委員会のメンバーは重要な役割を担っているという自覚が必要です。
リーダーを支える第一層(積極的で実務的な層)・第二層(消極的であっても支持を表明し、好意的な層)の職員の存在も欠かせません。長年に亘って培われてきた学校文化の動かしがたい山を崩し、切り開いていくには一人でも多くの業務改善支持層が必要です。

フラットな人間関係の構築

学校は元々、フラット(水平的)な人間関係のある職場です。それは戦争を起こしてしまった垂直的な人間関係を危惧して、戦後はなるべくフラットな人間関係を構築しようとしてきたことも一つの要因であったのだろうと推測しています。そのため、トップダウンが効きにくいところは短所ではあるものの、トップのミスリードを防ぐ働きも果たしてきたと思います。
では、本当にフラットなのかというと、そうでもないのです。他の組織と同様に年配の者が幅を利かせている状況はありますし、会議の終わりには校長の「お言葉」でまとめて「お言葉」の後には発言しないのが不文律となっている自治体も少なくないと思います。お互いを「○○先生」と呼び合い、先輩には必ず「先生」をつける習慣があります。
私はフラットな人間関係が好きなので、そうした習慣を取っ払いたいと思っています。「○○先生」ではなく、「○○さん」で十分です。業務改善を進めるには風通しの良い人間関係を作り上げ、目上の教員や管理職に対してもきちんとモノを言える職場に変えていく必要があると思います。「しんどい時にしんどいと言える関係」「間違っていると思うことは間違っているといえる関係」にならなくてはいけません。たくさんの業務改善のアイデアを出せる職場にならなければなりません。
この項目は、一見業務改善とは関係なさそうですが、けっこう推進のポイントではないかと思っています。もちろん、目上の者に対する最低限の礼儀や敬意はあべきだとは思っています。
一方で、管理職は強いリーダーシップを発揮して、業務改善を推進してほしいと思います。管理職次第で職場が変わるケースは多いと思います。

あくまで業務の総量を減らすことが目的

ところで、業務改善を推進するというと「早く帰っている人もいるから、遅く帰っているのは個人的な問題」であるから「遅く帰っている人は自発的に仕事を増やしているか、仕事が遅いか」だと主張する人がいます。だから業務改善の必要はないと。あながち間違いではない部分もあるとは思います。確かに驚くほど仕事が遅い教員は存在するし、本当に趣味の範囲のような案件に関わって本務とはあまり関係のなさそうな仕事をだらだらとやりたがる教員もいます。もし、そんな教員に残業代を払うとすると、きちんと仕事をこなして早く帰る人にとっては不公平なのではないかと思ってしまいます。だからと言って、遅くまで残っている教員が全部そんな類の教員ではありません。重たい業務を背負わされ、やむにやまれず帰ることができない教員がほとんどです。業務改善は業務の総量が減らせなくては意味がありません。業務の総量が減っていないのに誰かが早々と返ってしまうと、他の誰かにその分の負担が転嫁されてしまうのは当然です。
平等主義に陥るのもよくありません。みんなが平等に仕事をしようとすると、かえって効率が悪くなります。小さい机を10人で運ぶようなことをしていても仕方がありません。仕事によっては繁忙期をしのげば後は楽なものもあります。一人一人が何か一つ仕事を背負いこんでしまえば業務の総量を減らすことができます。
長い目で見れば一時的に仕事が増えても、年間を通せば業務の総量が減っている場合もあります。特に4月当初は学級経営にとって勝負時なのでこの時期にしんどいのは仕方がありません。長い会議は無駄なことが多い場合が多いにしても、大事なことを決めるときに集中審議を行っておくことは、将来にわたって多忙化を食い止める一因になるかもしれません。単純に「早く帰る」ことだけを考えるのは得策でないかもしれないことを共通認識しておく必要があるでしょう。
また、業務改善推進を言い出すと「6時には学校を閉めましょう」等と主張し始める教員もいます。確かに、学校を早く閉めることが業務改善への意識改革につながるとは思います。しかし、業務の総量が減ってもいないのに学校を早く閉めれば、お持ち帰り残業が増えるか、業務のクオリティーの低下を招くという結果になってしまいます。あくまで業務改善は業務の総量を減らすことが目的であるということを共通理解しておかなければ、業務の形が歪んでしまいます。

意識改革を

学校を早く閉めるよりももっと効果的な意識改革があります。それは、休憩時間や勤務時間終了後に会議や仕事が入っている時に仕事を入れた側も入れられた側も、「今は休憩時間なのだ」という認識を互いに持つようにすることです。具体的に言うと、会議を休憩時間や勤務時間終了後に開催する場合、冒頭で「休憩時間(勤務時間終了後)に会議を開いて大変申し訳ないです。」と、開催者が必ず告知するルールの導入です。会議中に休憩時間(勤務時間終了時間)に差し掛かった時にはすみやかに、「休憩時間(勤務時間終了後)になりましたが、会議を続行してもよろしいでしょうか」と確認をとるというルールの導入です。
会議以外の仕事を要請・懇願する場合も、休憩中や勤務時間終了後であれば、「休憩時間中(勤務時間外)に申し訳ないですが、○○○をお願いしてもよろしいでしょうか」と、丁寧に枕詞をつけてお伺いを立てるというルールです。休憩時間の放棄や賃金不払い労働が漫然と延々と続かないように、私たちの意識改革が必要です。

休憩時間(時間外労働)に関する管理職の義務違反について

業務改善情報の共有

何が業務改善になるのか、業務改善に関わらず、教育の実践情報の共有はなかなか進みません。自分の学校、自分の自治体では当たり前だと思っていたことが、よそでは全然違っていたという話は本当に多いです。情報を共有し、自治体・学校間での差を認識し、情報が閉ざされている状況(学校文化!)を打ち破る必要があります。

このEDUPEDIA自体が情報共有を目指したサイトです。是非、情報共有を進めていきましょう。

研修の必要性

団塊の世代の権利の主張が激しかったことの反動なのか、それ以降の世代は権利に関して疎いし、知識そのものを持ち合わせていません。給特法がどのように現場に影響しているのかと言ったこともよく分かっていない教師は多いです。膨れあがった教員の時間外労働分を残業代に置き換えれば、一兆円規模とも言われる、莫大な予算が必要となるとも言われています。これほどの負担を強いられていることに対してもっと危機感をもたなければいけません。
また、業務改善がどういう主旨で行われるべきものなのか、どういう方向性で進められるべきものなのかもあまり考えたことがない教員も多いです。まず、業務改善委員会を立ち上げ、そこで議論を重ね、指針を打ち出すことが大切だと思います。校内や委員会・組合単位での業務改善研修の開催を求めていきましょう。

聖域のない改革を

音楽会に必死になる自治体がある一方で、音楽会がない自治体もあります。人口密度が高く、児童が定数ギリギリ(40人/クラス)に近い学校がほとんどの自治体がある一方で、元々過疎が進んでいる上に自治体が児童の定数を1クラス30人程度に抑えているケースもあります。家庭訪問は位置確認のみとか、運動会は昼までとか、夏休みは部活を取りやめるとか、自分の常識を覆すような自治体が存在することを知り、冷静で思い切った改革を考えられる思考回路を身につけなければなりません。聖域はないと考えましょう。あゆみ(通知表)の所見だって絶対に書かなくてはならないものでもないし、あゆみを発出するかどうかは学校判断です。もっと多様な形成評価を行い、あゆみを取りやめてみてはどうか、考えてみる価値はあると思います。運動会も本当に必要なのかどうか、検討してみて構わないと思います。今までの形にとらわれることはないのです。自由で大胆な発想で業務改善にトライしていきましょう。
業務改善を行うためには、議論もパワーも必要です。そのため、「改善改善って、かえって改善の議論で会議の時間が長引いているじゃないか」「そんなの無理に決まっているじゃないか」等の声が上がってくる場合もあるでしょう。しかし、時間やパワーが必要であるのは一時的なことで、改善後は何年も時間短縮の恩恵にあずかることができるのですから、「巨視的に見、考える」という一般的な教師が苦手とする習性を正していかなければなりません。

「命令」なのか、「お願い」なのか

校長が不当な要請(たとえば年間複数回にわたる授業公開等)をした場合、「それはお願いですか?それとも命令ですか?」「この多忙化が進んで休憩時間もろくに取れず賃金不払い労働が蔓延する状況で命令すればコンプライアンス違反ですが?」と問い質せば、「お願いではあるけれど、皆で決めた事には従ってほしい」といった歯切れの悪い回答が返ってくることでしょう。「命令なら法令違反、お願いなら断ります。」と、拒否すればよいと思います。
管理職は様々な指示・要請・指導をします。それが「命令」であるのか「お願い」であるのかはたいていの場合不明であることが多いです。「お願い」でしかないことに対して従う必要はありません。職員会議の議決権は校長にあり、職員会議で決まったことと言っても最終的には校長がその案件を命令として施行しているのかどうかは確認してみないと分かりません。「みんなで決めたから従ってほしい」ではローカルルールを適用しているだけであり、公式な命令ではありません。「命令」であるのか、「お願い」であるのか、曖昧なままに増やされ続けてきた業務がどれほど多いか、振り返ってみる必要があるでしょう。

学校単位での改善が難しい案件について

教職員組合の組織率が低迷して久しいです。
教職員団体全体の加入率は、昭和51年以降42年連続の低下。→ 加入率 34.1%(前年度35.2%) 前年度比 マイナス1.1ポイント(文部科学省HPより:平成29年現在)
管理側の分断政治が功を奏して、組合離れが続いています。私は組合活動はあまりに好きではありません。若いころは団塊世代の先輩方を見て、「権利ばかり主張せず、もっと仕事に向き合えばいいのに」と思って組合参加は控えていました。それでも今は組合に加入しています。組合を通して(組合推薦の議員を通して)自治体の議会に訴える方法は捨てたものではありません。何らかの成果を求めるのであれば、好悪はひとまず横に置いておいて、団結することも必要ではないかと思います。
業務改善に関しては、学校単位ではどうにもならないような、対処が難しい案件もあります。たとえば部活動案件は本来なら、教育委員会や文科省が主導して進めるべきであると思いますが、現場の困窮に教育委員会や文科省が丁寧にヒアリングして対処してくれることにあまり期待はできないかもしれません。
そもそも、教育委員会に業務改善担当部署はあるでしょうか。教育委員会自体が強烈な多忙化に見舞われているので、業務改善担当部署があったとしても機能していないことが多いと思います。職場からの意見として、組合等を通して教育委員会に業務改善担当部署を設置あるいは活性化させ、現場のヒアリングをし、学校単位では改善できないような案件を改善してもらう役割を担ってもらうことも非常に大事だと思います。教育委員会や文科省が業務改善担当部署を常設するか、定期的に部会を開催するように要求してゆきましょう。また、組合や委員会が主催する業務改善研修を開催することも要求してゆけばよいと思います。
場合によっては「市長への手紙」などでトップに訴えるのもひとつの手段であるかと思います。

業務改善において重要な位置を占める案件は「授業改善・指導改善」

業務改善に関してつらつらと述べてきましたが、業務改善において重要な位置を占めているのは、授業改善と指導改善です。授業・指導は教師の本務です。本務が疎かになれば子供は荒れ、保護者は学校不信となり、社会の学校批判の風は強まります。授業と指導を疎かにして些末で本質から外れた業務に追われていては多忙化という負のスパイラルに陥ってしまいます。業務改善を推進しなければ、授業改善や指導改善をする時間がないというのは「卵が先か鶏が先か」のような話です。バランスよく、並行して推進していく必要があるのだと思います。
では、授業改善や指導改善はどうすればよいのか・・・

教師の資質や負担に依存しない実践

学校現場、その他の教育機関で行われる研修はややレベルの高い目標を掲げている「意識高い系」である場合が多いです。「意識高い系」が悪いというわけではないですが、属人的でレベルの高い実践を目指してしまうと参加者にとってミスマッチな研修となってしまいます。文科省の打ち出している「主体的・対話的で深い学び」も、そんな「学び」をきちんと実践できていると胸を張って言える教員は数少ないでしょう。一般的な教員にとってはかなりハードルが高いと思います。すでにもう30年近く、言葉を変えながら同様のスローガンの元に改革を進める方向が続いていて、いまだにはっきりとした成果が上がっていないお題目なのです。
入試等の長時間を要するテストを解く場合に、まずは簡単で長考を要しない問題から解き始めることはほとんどの人が採る一般的な戦略です。受験の戦略と同じで、教育においてもまず多くの人に実現が可能な教師の資質や負担に依存しない実践から始めるのがセオリーであると思います。
属人的な能力が求められる難しい実践ではなく、教師の資質や負担に依存しない実践が必要です。詳しくは、
誰にでも、簡単にでき、効果のある教育実践 ~教師の資質や負担に依存しない「点数を稼げる実践」
をご参照ください。
業務改善は思うように大胆には進むものでないかもしれません。ところが、上手に事を運べば意外と簡単にできてしまうこともあります。できる所から、躊躇せず、大胆に、確実に、前に進めてゆけばよいと思います。それは自分のためでもあり、教員全体のためでもあり、未来の教師のためでもあります。過労死という大きな事故ではなくても、教師の心身を蝕むような働き方は改善されてゆかねばなりません。若い教師や教師の卵が「先生になってよかった」「先生になりたい」という世の中でなければなりません。そして、結局それは子供のためということになるでしょう。

ICTの導入

業務改善にはICTの活用がたいへん効果的です。ICTスキルを上げるにはそこそこの時間がかかりますが、業務の効率化・情報の共有をすることは業務改善を大幅に推進させることとなると思います。一人一台のパソコンが導入されるようになって久しいにもかかわらず、いまだにショートカットキーの使い方すら身についていない教員は多い(しかも若年層がけっこう使えない)です。是非、ICTによる業務改善研修を開いてスキルアップを図りましょう。具体的な業務改善に関しては、別の記事に詳しくアップしていこうと考えていますので、下記リンク先をぜひご参照ください。

「学校の多忙化」の改善(業務改善)4 ~具体的な業務改善のアイデアICT編

「できる人基準」からの脱却を

教育界で特別支援に関する研修がこれだけ進んでいるのにかかわらず、なぜか職員室では「できる人基準」で人を見る習性から抜けきることができていません。職員室の中のできる人を基準に考えていては業務が上手く回りません。「私は仕事ができて早く帰れるから業務改善は必要ない」「俺は昔、どんなに忙しくても生徒指導も学級経営もきちんとやっていた」などと言い出すと、業務改善は個人の問題に狭められてしまいます。前述したように、業務改善は業務の総量を減らしていく事を考えなければ進みません。どちらかというと仕事ができない人をいかにカバーし、できない人をどう育て、適材適所を進めてコストパフォーマンスを高めていくのかという観点がなくては仕事はうまく回りません。学級崩壊を起こしそうなクラスがあれば、担任を非難するのではなく、そのクラス・担任にどのような支援をするのかを考ようとする組織を作っていく姿勢こそが業務改善なのだと思います。いったん学級崩壊が起こってしまうとその悪影響は長く学校全体に広がっていきます。単なる仕事の効率化ではなく、弱者視点に立つことができる思考回路を職員が身につけてこそ、真の業務改善が実現できるのではないかと思っています。妹尾氏が指摘する通り、我々教職員が仕事を「個業」としてとらえている限り業務改善は進みません。大きな目で見てピアサポートの体制(思考回路)を作り上げ、学校が健全化していき、業務総量が減少してゆく中で業務改善はゆっくりと加速してゆくことになると思います。

弱者視点に立った教育

振り返り

業務改善は学校評価(教育評価)と一体になって進められていかなくてはなりません。毎月の業務改善委員会によって行われる短いサイクルの業務改善と、半期・年度ごとに行われる学校評価における業務改善が両輪となって学校を良い方向に変えていきます。業務改善自体も振り返りが必要で、学校評価の際に評価され、よかった点に関しては大いに称賛されるべきだと思います。一方でもし行き過ぎた業務改善によって学校運営等に支障があるようであれば、見直しも必要になってくるでしょう。大胆さと慎重さを併せ持ちながら、着実に確実に業務改善を重ねていけば、「あれっ?何だか楽になったな??」と思える時がやってきます。最初にやるべきことは、「校内業務改善委員会の設置」です。まずはそこからスタートして下さい。

「学校の多忙化」の改善(業務改善)5 ~成果報告

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • >会議中に休憩時間(勤務時間終了時間)に差し掛かった時には         「遅刻」は労働者が勤務時間を破った、「時間外勤務を命じる」のは管理職が勤務時間を破った、ということだと思います。                   軽々に「時間外勤務を命じ」「遅刻し」て欲しくはないですね。モラルハザードを招きます。

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