【インタビュー(鈴木寛先生)】五月祭教育フォーラム2019『“教育改革”のその先へ~新時代に求められる人物像とは~』

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目次

1 はじめに

本記事は、2019年5月19日に東京大学で開催された五月祭教育フォーラム2019『“教育改革”のその先へ~新時代に求められる人物像とは~』終了後に行った、登壇者である鈴木寛先生(東京大学教授/慶應義塾大学教授)へのインタビューを記事化したものです。

本記事では、主に新時代の教育における学習内容や教員の役割の再定義について、鈴木先生のお考えを伺いました。

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2 インタビュー

本フォーラムを終えての感想をお聞かせください。

何と言ってもROJEのOBOG・関係者を含めて来場者が1000人を突破し、皆さんの前でこのようなテーマで議論できたことが良かったです。交流会も学生がよく準備してくれて、熱心な方にお集まりいただけて良かったと思います。

◯新時代の教育における学習内容について

新しい教育において授業のあり方が変わっていくと思うのですが、入試のあり方はどのように変わるとお考えですか。例えば、アクティブラーニングでジグソー法や反転法を用いることで、個人個人の多様な発想による答えと模範解答的な答えとの間に乖離が起きるのではないでしょうか。

入試において模範解答はないです。予備校が模範解答と発表しているだけであって、それ通りの解答をしても必ずしも合格するとは言えないでしょう。私たち大学が想定している解答と異なっているものを模範解答としている予備校は多々あり、大学と予備校では見ているところが違うという印象です。

やはり、入試の解答においても自分の考えで自由に解答していいと思いますが、どのように自分の考えを用いているかも重要ですし、また自分の考えといっても独善に走ってはいけません

英数国などのリテラシーを問うことは関してはある程度想定解答に近づくことが求められると思うのですが、そのような能力に関してはどのようにお考えですか。

どの学部にもある程度は必要な能力だと思いますが、学部によってどこまで入試で確認するかは異なります。確認の仕方は色々あり、基本的には高校を卒業しているので、高校が履修主義であり、ちゃんと成績をつけているのであれば確認することはできます。AO入試であっても、高校の成績はしっかりと確認されます。

あるリテラシーが極めて欠けていれば大学の授業についていくことは厳しい、ということは大前提です。あとは高校の成績をどこまで信頼するかということです。英語などは、入試で確認しなくても民間四技能試験でいいのではないでしょうか。

◯新時代の教育へシフトして行くうえでの課題について

地方格差などといった課題が考えられますが、鈴木先生はどうお考えですか。

まず、都市と地方間に格差はありません。地方格差があると思い込んでしまういうのは、コマーシャルによってそのようなイメージがついてしまっているからなのです。県庁所在地や中枢中核都市には問題がありませんし、それ以外の場所でもITによって改善されてきています。

また、このような思い込みをしないために社会を見る目を養うことが大切です。すなわち、人口当たりで考える確率の考え方などを学ぶことが必要です。だから、社会科や数学を学ぶのです。自らの身を守るためにも、クリティカルシンキングを学ばなくてはいけません

それでは、課題となるのは地方格差ではなく公立と私立との違いということでしょうか。

その通りです。しかし、公立学校は本気を出せば強いです。例えば、広島県立広島叡智学園という全寮制の国際バカロレア校ができました。公立なので授業料はとても安いです。普通、叡智学園が行なっているような授業を私立が行なったら、授業料は最低300~400万はかかると思います。それがこの学校では、寮費しかかからないのです。授業料も寮費も安かったら、東京からも志願する人が出てくることが考えられます。そうすると、広島県民の方がバカロレア教育へのアクセシビリティが高いという、逆格差が起こるのです。

◯教員の再定義について

フォーラム中、教員の役割の再定義化についてお話されていましたが、教員の役割はどのように変わっていくのでしょうか。また、教員を志望する人たちはどのように指導されていくべきでしょうか。

教えるという要素は相対的に減るでしょう。知識を獲得する場面において、ビデオ教材やAIを用いた教材を含めて、良い教材がこれからどんどん出てきます。

一方で、個別診断力と個別対応力が求められます。生徒の知徳体の現状について、数値化できるものはAIなどに任せれば良いのですが、数値化できないもの、あるいはナラティブなものを把握する力が必要とされると考えます。個別最適化となれば、特に個別の状況を診断しなくてはいけません。ある意味で、教員は、病状を個別に把握し、処方箋を出すお医者さんのような役割が求められると思います

このように教員に求められる能力が少しずつ変化していくでしょう。教員は生徒ごとの処方箋、つまり戦略・プランニングを立てていかなくてはいけません。

教員は求められる能力をどのようにして身につければいいのでしょうか。

毎日の指導から変えられます。授業は教員が相当自由にできます。副教材の使用は認められていますし、電子黒板も導入されています。また、サイトにアクセスすれば、優良コンテンツは沢山あります。NHK for schoolなどいいコンテンツがそろっているサイトもありますし、高校生くらいですと、NHKスペシャルJSTというサイトを使ってもいいかもしれません。そのようなコンテンツを用いることで、教員が自由に使える時間が増えたら、生徒との個別面談などができます。

やはり、優先順位を変え、そのために熟議をするということが大事だと思います。自分の教員としての指導力を上げることと、多忙にしている要因を天秤にかけて、一方が大事だと思えば、もう一方をやめることが必要です。やめることに反対する人もいるかもしれませんが、一方で能力を磨くことに賛成する人もきっといます。

最後に教員の方へのメッセージをお願いします。

日本の教員は世界一すばらしく、最も頑張っています。個人の差はありますが、頑張っているということを自己認識しましょう。そして、このような事実を保護者や地域の人など周囲の人に伝えましょう。

“教員のメンタルや体力が持たない”ということが起こって困るのは、校長先生や保護者、生徒なのですから、自分が困っているから変えるということは全く自分勝手ではなく、持続可能な状況になるには必要な過程です。むしろコミュニケーションをとることが、みんなにとっての改善の第一歩になる、というような社会の構造を理解することが大切です。それが理解できれば、自分が倒れる前に動くのが大切ということが分かります。

いろいろなことが言われていますが、目の前にいる生徒の顔を思い浮かべて、生徒の将来にとって何が一番大事か自分の頭で考えましょう。必ず明日から改善できることはあります。

3 登壇者のプロフィール


鈴木寛先生
東京大学教授/慶應義塾大学教授/NPO法人日本教育再興連盟代表理事

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。慶應義塾大学SFC助教授を経て、2001年参議院選挙当選(東京都)。文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ、文化、情報分野中心に活動。
2014年2月より、東京大学教授、慶應義塾大学教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。
現在は東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科教授、日本サッカー協会理事を務める。文部科学副大臣、文部科学大臣補佐官を歴任。

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