教師の心得25 ~職員として、社会人として

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職員として、社会人として

教師として働いてゆく上で、直接子供に対する仕事と同じぐらいに、「学校の職員」としての仕事があります。授業と学級経営さえやっていればまあOKという時代はもう遠い昔の話で、教師に求められる能力は多岐にわたっています。職員として、社会人として、教師がどうあるべきかが語られることは意外に少ないです。教員採用試験に合格すればいきなり忙しい4月から教壇に立つ身分となり、周りの先輩が「教師の心得」について一から教えてくれるという事はまずありません。そのままずっと多忙な状況が続き、初任者研修だのOJTだのと言っても、以下に書かれているような「教師の心得」をインプットされる機会は少ないだろうし、そんな機会があっても、なかなか心にとどめておく余裕もないと思います。私が先輩教師たちから聞かされてきたこと、自分で考えてきたことをまとめてみました。是非お読みになってみてください。

項目ごとにチェックシートも作ってみました。職員研修等で自己チェックをしてみるのもいいかもしれません。自己チェック後、5つの項目ごとにグループに分かれて「自分達が何にチェックをしたか」「各項目についてどう思うか」等、ディスカッションすれば、職場の課題も見えてくると思います。

チェックシートを作りました↓ので、研修などでご利用ください。

教師としての心得 チェックシート.xlsx

校長・教頭の心得として下記の記事も書きましたのでご参照ください。

校長先生、職員室が学級崩壊状態です!~「職員室の学級崩壊チェックシート」付

下記関連記事も是非ご参照ください。

教員の心得1(含:新学期準備)~新規採用教職員研修資料

0.人を大事にする

教師は人を育てる仕事であり、人を大事にするのは当たり前です。なので、「0」にしました。子供・保護者・同僚・家族・一般社会の面識もない人々・・・皆大事であると思って仕事をしましょう。「1」以降で述べていることも、結局はどれも人に関する項目ばかりです。どんな仕事の向こう側にも人がいると思って、仕事に臨みましょう。

1.責任のある仕事です

教師という仕事は道義的に責任のある仕事です。誰に対して責任があるかと言うと、
①直接的に関係がある子供や保護者
②給料を支払ってくれている納税者
③同僚や次世代の教師(次世代の教師が苦悶しないように職場を作っておくという責任があると思います)
④日本の未来・世界の未来
等でしょうか。④はややオーバーに聞こえるかもしれませんが、自分が教師として蒔いた種はプラス方向にもマイナス方向にも未来に向けて作用します。職員として、社会人として、人として、教師が果たすべき職責は広範囲に及びます。

2.自分の役割を考える ~チームとして機能する学校を

2010年代に入った頃から職員集団を「チーム」と表現することが多くなりました。子供たちをどのように指導し、教育的課題に対処していくか、組織としての力が求められていると思います。仕事は集中と分散が大切です。大勢でやった方が効率的な仕事(=分散)があります。仕事をいかに分散して適正な人数で請け負うかという事も大事です。一方で、個人(あるいは数人)が背負ってしまえばみんなが楽になる仕事(=集中)もあります。「学校」「職員集団」という「公」を意識しながら仕事を進めましょう。同時に、個人として、十分に個性を発揮できる教員になりましょう。

3.「公の仕事」を請け負う

校務分掌があっても、割り振りきれない仕事もたくさんあります。校内にゴミが落ちていたら拾いましょう。印刷室など、たくさんの人が使う場所は整理整頓が行き届かなくなり、乱雑になりやすいです。職員として、みんなのためになる地味な仕事を受け持つようにしましょう。個人的に「やらなければならない業務」「やりたい業務」はたいへん多いのですが、「公の仕事」もまた大事です。「利他」の精神で働くことができているか、振り返ってみましょう。

4.「今の自分」にできることは、やる

「公の仕事」でも、自分の仕事でも、今の自分の実力に見合った仕事をすることが大事です。例えば、児童に上手に掃除をさせたり整理整頓をさせたりする指導力がないなら、自分で掃除・整理整頓をして「せめて教室環境を整える」べきです。教室を出る時には、必ず振り返って教室環境が整っているかどうか確かめましょう。まず、そこからです。身の丈に合った仕事のやり方を見つけ、誠実に向き合うことが大事です。

5.給料分に見合うだけの働きができているか、自問自答を

市民・県民・国民の血税からお給料や学校予算をいただいているという意識が必要です。教職以外を経験したことのない教師は特に、他の職種のたいへんさを想像してみる必要があると思います。
プロとしてお金をもらっている以上、給料に見合うだけの働きができているのかどうかは、常に自問自答するべきでしょう。プロの教師の仕事として、どれくらいのクオリティがあればOKなのか??キリがない仕事なのであまり自分を責めてもつらいのですが・・・

6.後輩を育てる責任があります

会社や役所の組織には係長・課長・部長・・・といった役職があり、縦関係がはっきりしています。それに比べると、学校組織はずいぶん水平的な関係です。小学校は特に「学級王国」と揶揄され、教師は個人店主的な態度から抜け出せない現状があります。OJT(On-The-Job Training)の必要が指摘されるようになって久しいですが、後輩を育てなければならないという意識が欠けているように思います。長年学校にいますが、あまり先輩が後輩に物事を教えている姿を見たことがありません。後輩を育てるのも仕事(給料)のうちです。厳し過ぎる指導は必要ありません。自分が分かっていることを、煙たがられない程度に教えてあげればいいと思います。

7.書類・教材を共有する

組織人として自分の受け持った仕事は適宜、紙ベースかデジタルベースで共有するようにしましょう。ICT環境が行き渡っている昨今、
①自分が担当・作成した校務分掌の書類
②自分が担当した学年・教科で作成した教材等のプリント
は、共有フォルダ内にきちんと整理した形で引き継ぎましょう。同僚に対する責任・・・「公」の意識です。

8.勤務時間内で仕事を終わらせることを目標に

多忙化の進行は、本来業である「授業を準備する時間」を奪ってしまっています。今、現場にいる教師には「子供達および、自分より若い世代の教員」に対し、学校の多忙化を食い止める責任があります。基本的に、勤務時間内で仕事を終わらせるように心掛けましょう。
教師は、「上」を目指してゆくとキリがない職業です。無定見に業務を増やしていけば、個々の活動が有意義であったとしても、心身が容量オーバーしてしまいます。組織的に、真剣に業務改善を推進しましょう。
下の記事もご参照ください。

「学校の多忙化」の改善(業務改善) ~「残業の見える化」から始める

9.アフターファイブも仕事のうち?

公私を区別し、定時に帰ることを目標にするのも大切である一方で、アフターファイブのお付き合いもまた仕事を円滑に回すためにはある程度必要な修行(?)です。公式な飲み会ばかりが付き合いではありません。「ちょっとカフェでお茶」「プチボーリング大会」「春・夏・冬期休業中のランチはごいっしょに」等々、私的な付き合いがお互いを理解し風通しを良くするよい機会になります。

10.自己研鑽に励む

残念なことに、全ての業務を時間内に終わらせることは不可能に近いというのが学校の現状です。特に業務の中でも「研修」に関しては、校内外での公的な研修の充実に過度な期待をしていても、期待に応えてくれる保証はありません。
時には教師個人が身銭を切り、プライベートな時間を研鑽に費やす機会は必要です。書籍や機械を導入する、非公的な研究会に顔を出す・・・自分で自分を磨いていかなければ、結局仕事(授業運営・学級経営)が上手くいきません。上手くいかなくてしんどい思いをするのは自分と自分が担当した子供たちです。

11.確かな情報を探す

教育に関する情報は多いようでもあり、欠乏しているようにも思えます。教育に関する確かな情報を探すために、組織やネット・同僚はよい情報源になります。多すぎる情報をカットし、偏りすぎずに希少な情報を拾い上げてくれるフィルターのような存在があるといいですね。
EDUPEDIAは幅広く、網羅的な情報源を目指しています。是非、色々なワードで検索をかけてみて下さい。

12.世間一般に目を向ける

世の中の流行に惑わされることはあまり良いことではないでしょうが、世間一般で現在どのような考え・行動が支持されているのかということには常にアンテナを張っておく必要があると思います。テレビ・書籍・ネットなどでざっと「世の中全体」に目を向ける習慣をつけておきましょう。子供や保護者を理解する上で、「一般社会」の状況がどうなっているかをバランスよく知ることは大切だと思います。
多忙化によって世間とのつながりを失い人間関係が教育関係者ばかりになってしまっては、世の中が見えなくなってしまいます。広い視野を持てるようになりましょう。

13.合理的・論理的な思考を身につける

教師の仕事には「情やムードに流され易い傾向」があります。「子供のため」と言われると何も言えなくなる教師が多いです。どちらかというと文系的な発想で仕事が進められることが多いです。文系的発想が悪いわけではないにしても、バサッと科学的に割り切った合理的・論理的思考もまた必要です。職場を変えるエネルギー、教育を変えるエネルギーは合理的・論理的思考から生まれる部分も大きいと思います。数字を把握し、エビデンスのある実践を目指しましょう。

14.俯瞰的な思考を身につける

1年間(もっと言えば小学校6年間、中学校3年間、教員人生40年間、児童生徒の人生80年間)を見据えて、教育活動を行うようにしましょう(俯瞰的思考)。時々は、今教えている子供が6年生になった姿を思い浮かべて仕事をしましょう。自分の仕事・学級だけではなく、学校全体・教育全般に思いをはせる機会を持ちましょう。仕事が忙しいと視野が狭くなりがちで、この1日(1年、6年)が過ぎていけばいいと考えてしまう傾向があります。教師という仕事は、目の前の仕事に追われることが多いからこそ、全体を見据えて考え、動くことが必要です。

15.数字を捉える 自分(達)の教育活動が合理的・論理的・俯瞰的であるか

上記の「13」「14」を考えるためには、数値の把握が必要です。子供たちの伸びや教職員の活動の中で、簡単に数値を把握できるものは、数値化して把握しましょう。把握した数値を見て、俯瞰的に分析しましょう。例えば、毎年逆上がりの達成率を把握していれば、「この学校の●年生で、自分の力なら何%の子供が逆上がりをできるか」という数値を思い浮かべられるようになってきます。数値を思い浮かべることによって合理的・論理的、・俯瞰的な教育活動(≒戦略的な教育活動)を促進することができるようになってきます。

16.熱意は必要

合理的・論理的・俯瞰的に、数字を捉えて・・・と、冷静な態度をとることについて書いてきましたが、同時に熱意を忘れていてはこの職業は成り立ちません。情熱が人を動かす部分が大きいことは確かです。人と人の関係の中で成り立つ仕事です。勝負所ではパッションを持って生身の人間として子供・保護者・職員と接しましょう。

17.弱者の味方をする

子供の様子をよく観察して、集団の中で誰と誰が弱者の立場であるのかを見極めましょう。学級の中には能力的・家庭的・その他の要因で弱い立場の子供が必ずいます。彼らを助けるようにしましょう。弱者に寄り添う学級経営・授業運営を心がければ、きっと優しい集団作りができると思います。
下の記事もご参照ください。
弱者視点に立った教育
学力保障 ~学校の荒れを防ぐための最優先事項
職員の中にも弱者がいます。心身が弱っている教師・家庭の事情を抱える教師がいないか、絶えず想像力を働かせて支援してあげてください。
ピアプレッシャー的な集団ではなく、ピアサポート的な集団を作っていきましょう。

18.子供や保護者だけのせいにしない

学級・仕事が上手くいかない原因が子供や保護者にあるケースも多いと思います。前の担任に原因があり、上手くいかない事もあるでしょう。行政をはじめとする社会の責任も大きいと思います。自分を責めてばかりいてはメンタルが壊れます。一方で、そうであったとしても、人のせいにしていては何も変えることはできません。苦しいですが、原因の数%~数十%は自分にあると思ってください。

19.評価は自分に向けられたものと考える

教員は子供を評価するのが仕事であるため、どうしても「上から目線」で物事を見がちです。しかし、「子供の成績が上がらない」「子供の態度が悪い」のは、半分ぐらい教師側の責任でもあります。子供に悪い評価をつけなければならない時には、その評価は自分にも向けられているものであることを自覚しましょう。

20.点数を稼ぐ ~誰にでも、簡単にでき、効果のある教育実践から始める

難しいことにトライすることも大事ですが、できることから始めるのが常道ではないでしょうか。下記リンクの記事をご覧ください。

誰にでも、簡単にでき、効果のある教育実践 ~教師の資質や負担に依存しない「点数を稼げる実践」を

21.子供に要求する道徳的な態度は自分にも要求する

子供には非常に厳しく道徳的な態度を要求しているのに、職員室では挨拶の一つもできない教員・礼儀をわきまえない教員を見かけることがあります。子供に要求している程度の事は当然自分にも要求・適用しましょう。

22.年に数回は発言する

多忙化が進む昨今、会議の場で下手に発言すると時間をとるため、発言することが憚られる雰囲気は確かにあります。全職員が長々と自分を主張を押し通せば、会議は終わらず、多忙化は改善されません。しかし、だんまりを決め込む態度はいかがなものでしょうか。時々人前で発言をすることは自分に刺激を与える機会になります。せめて年に1回(学期に1回?)ぐらいは会議で発言するように心がけましょう。子供にも「授業中、ずっと黙っていないで発言しなさい」と促していると思います。自ら、発言をする機会を持ちましょう。

23.適度に年功序列を

日本の職場の人間関係は年功序列である場合が多いと思います。ある程度は年長者に敬意を払うことは大切だと思いますが、あまりにガチガチの縦社会を作ってしまうのも問題です。先輩風を吹かして後輩につらく厳しく当たるのは、いかがなものでしょう。先輩には敬意を払いながらも、フラットな人間関係を作っていきたいですね。(程度の問題ではあると思います)
また、教師同士で呼び合う時は、「○○さん」でいいのではないかと思います。先輩教師であっても臆せず、「○○さん」と呼ぶよう、押し通しましょう。「先生と言われるほどの馬鹿でなし」という言葉もありますし。

24.嘘でも子供の前では仲良く

子供たちはけっこう教師の人間関係を観察しています。子供たちの前でまで年功序列を露わにするのはいかがなものかと思います。年配の教師は若い教師に対して、丁寧な言葉・態度で接する必要があると思います。教師同士で呼び合う時は、「○○さん」でいいのではないかと上にかきましたが、子供たちの前では、「○○先生」と呼び合うことにした方が混乱がないでしょう。また、教師同士で相性が合わず、ギスギスする場合があっても、子供の前では嘘でも仲良くしているように振舞うべきです。いや、嘘ではなく、本当に仲の良い職員集団でありたいものです。

25.新しい事に挑戦する ~特にICTを活用する

チャレンジ精神は必要です。

「○○教育」と、次々に新規のトピックが上がってきます。全部に付き合うことはないと思いますが、新しい教育課題をキャッチして、自分にできること・自分に合ったことをやっていくことはこれからのキャリアアップのためにも必要です。

ICTを活用するとなると、ある程度の技能の上達が必要です。時間はかかりますが、長い目で見れば校務や授業の質を上げ、量を減らす結果になると思います。

26.楽観的に

上記25項目、何だか責任ばかりを感じるようなしんどい事ばかり書いてきました・・・。基本的には、教師は楽観的であることが必要だと思っています。あまり教師が重たい雰囲気でいると、子供たちの気分も重たくなってしまいます。教師が楽観的であると、子供たちの中にも希望的なムードが生まれてきます。ここ数年、数十年で教育現場のブラック化が進んでおり、現実は厳しいです。それでも希望を失わず、基本的には楽観的に現実を乗り切りましょう。

※ この記事はまだ他にも考えが浮かぶことがあれば、アップデートしてゆこうと考えています。記事を読んでいただいた方、上記の他にも「職員の心得として是非」、という事柄がありましたら、コメント欄にご記入ください。私の方で判断して、記事の中に取り込ませていただきます。

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