地域と協働!「伊丹育ちあい(共育)プロジェクト」

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目次

1 はじめに

2016年2月10日、伊丹市立伊丹高等学校1年生の情報科の授業を取材しました。授業は「伊丹育ちあい(共育)プロジェクト」と題した通年プログラムとなっています。

このプロジェクトは伊丹高等学校の情報科の授業で3学年一貫して行われていますが、本記事では取材した1年生の事例を中心にご紹介します。

2 プロジェクトの概要

「伊丹育ちあい(共育)プロジェクト」は、高校生が一人あるいは複数人で地元の商店の店主と協働して企画を立案・実践し、地元商店街や地域の活性化を目指すというもので、2015年度で14年目となります。このプロジェクトの「共育」とは地域と高校生がつながりあうことでお互いに育ちあうということを意味します。授業では一年を通して「いたまちSNS」という地域SNSが活用されており、生徒・地域・先生のつながりを支えています。

授業では学習指導要領の情報科の目標としても掲げられている「主体的に対応できる能力と態度」が重んじられています。そのため、振り返りでは何を学んだか取り組みを通してどういう効果が得られたかなどを具体的に自分の言葉で表現することが生徒たちには求められます。

評価にはポートフォリオを用いています。

2006年 あしたのまち・くらしづくり活動賞(優秀賞)
  2013年 兵庫県地域情報化功労賞

3 1年生の授業~地元商店街との連携~

1年生の授業は、地元商店街の店舗と連携して進められます。
1クラスあたり10店舗の協力店舗をあらかじめ用意し、生徒はそのなかから入るお店を決めます。

なかには、将来なりたい業種の店や、行きつけのお店に自ら交渉して提携先を決める生徒もいます。
(昨年度までは全生徒が1人1店舗、自力で提携店を探すために交渉に行っていたそうです。)

①一年の流れ

夏休みまで

ワードやエクセル、電子メールの使い方や、独自のSNSである「いたまちSNS」の使い方、さらに店舗との関係の築き方やインタビューの方法なども学びます。

夏休みから

授業で学んだことを活かして、実際にお店に出向いて店主と一緒に企画を考えて実践します。
授業期間中も放課後などを利用して生徒たちはお店に入ります。

冬休み後

年が明けると取り組んだことの振り返りをし、プレゼンテーションに向けて準備を行います。
プレゼンテーションの持ち時間は1人1分で、1人ずつ自作のパワーポイントを使って発表します。
生徒は他の生徒の発表に対し

  • 発表の内容は興味の持てるものであったか
  • 話の流れは分かりやすく組み立てられていたか
  • スライド1枚の情報量は適切であったか
  • 画像を効果的に活用できていたか
  • 聞き手と視線を合わせて話すことができていたか

の5つのポイントについて、各項目4点満点、1人につき計20点満点で評価し、コメントも付けて「評価シート」に記載して提出します。

ほかに、活動報告書を各協力店舗ごとに作成します。

発表や活動報告書のなかで重要視されているのが、
具体的なエピソードを含めることで、より相手に伝わるものにする
ということです。

たとえば、単純に「人とのつながりができました」といった言葉で済ますのではなく、
「○○という卒業生の方に出会って、~~という話をきいて、つながりを実感しました」
という風に、受け取り手にストーリーが伝わるような内容にするようにと指導されていました。

また、「新しいお客さんがたくさんきてくれました」という発表も、
「実際新規で何人のお客さんがきたのか」
というところまで落とし込むことが求められます。

②企画

ポスター作成

全店舗共通して行われているのがお店を紹介するポスターの作成です。

<写真:教室の後ろに掲示された昨年度のポスター>

<写真:実際に店頭に掲示されているポスターの例(左部)>

ポスターは店頭に掲示されるほか、「ポスター展」という学校主催の地域イベントで設置される特設ブースでも展示されます。

その他お店ごとの企画(戦略企画)

お店の方と生徒が一緒になって企画を考えます。

(例)

  • チラシを作成して配布
  • SNSを使って広報
  • お店の内装を工夫
  • お得なセット販売を企画
  • サービスや商品の値引きを企画
  • 商品を使った料理のレシピを配布
  • 介護施設でスタッフのお手伝い

など

4 授業後

日本の高校生の自己肯定感

わが国において、自分を価値のある人間と考える生徒は米・中・韓の約半数

逆に、自分はダメな人間と考える生徒はその3ヵ国の平均の倍に上ります。

さて、社会性・自主性をテーマとしたこの授業を受けた市立伊丹高校の生徒はどうでしょうか。

授業後の生徒の意識

「市高」が市立伊丹高校の生徒のデータを示しています。

グラフからわかる通り、伊丹高校の生徒は日本平均の2倍以上の割合で社会参画に対して前向きにとらえています。プロジェクトを通して社会に関わろうとする姿勢が醸成されたといえるでしょう。

先生は「社会を少し動かせるという意識を持つことで、18歳で選挙権を持つ価値が出てくると考えています。」とおっしゃっていました。

5 実践者プロフィール

畑井克彦先生
伊丹市立伊丹高等学校情報科主任教諭(2002年~)
総務省地域情報化アドバイザー
伊丹市立天王寺川中学校教諭より伊丹市教育委員会事務局指導主事を経て現職(2016年2月現在)

6 取材を終えて

地域という資源を使い、生徒も地域の人たちも共に学びあうという実践でした。いかがでしたか。
  お話をうかがうなかで、やはり地域との協力関係を形成・維持することは容易ではないということがわかりました。
  今回の例のような実践の場合、人的ネットワークが成功の鍵となります。教育委員会や商工会議所、そして学校内の理解を得るために、自身の思いを伝えて協力をお願いし、パイプを作っていかれた畑井先生の行動力を実感しました。そこに、「生きた情報」を学んでもらうために人と人との信頼・ご縁をつなぐことに対する強いこだわりが見られました。
  また、「自主性」はこの授業の大きなテーマだと感じます。たとえば、情報科の授業でWordを用いて文章を作ることはよくあることだと思いますが、この授業では作成段階で商店主との相談が必要であり、Wordで作ったビラが実際にまちの人に受け取ってもらえたか、ポスターが人の目に留まったかといったように、実際に使用されることで成果物の意味や働きをシビアに体感します。商店主との対話、社会に向けた広報資料の作成など、さまざまな社会体験を通して社会性・自主性を育むということが、強烈に意識されている実践だと感じました。

今回は通年プログラムの一部しかご紹介できていません。しかし、3年間の活動を通して自身の変化を感じた3年生や卒業生の方が、自身が主体的に関わったプロジェクトについていきいきとお話しされているのを目の当たりにし、この実践の奥深さと力を感じました。

(編集・文責 EDUPEDIA編集部 横山尚人)

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